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彼女の知らないいくつかのこと

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一日一本書き下ろし短編小説。
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#新宿

その前夜

レバーの美味い駅前の焼き鳥屋のカウンターで飲んでいると、ふいに大きな舌打ちが聞こえた。舌打ちほど人を嫌な気分にさせるものはない、と見渡してみれば、どうやら隣の、白髪まじりの男が店の天井近くに据えられたテレビのニュースに反応したようだった。

「なんですか、やめてくださいよ」

渉の言葉に男は向き直り、まっすぐに目を合わせた瞳が白く濁っている。渉は目をそらすことなく、

「舌打ち」と、補足する。

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