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【神裂-KAMIZAKI-】

 世に八百万の神霊あり。時に物の怪、時に悪鬼と畏れられた、食物連鎖の頂点に君臨する絶対的存在。脆弱なる人の仔では太刀打ちできぬ。そう云い伝えられた時代もあった。だが。

「是雨須(ぜうす)。汝で最後だ」

 痩せた刀一つ背負いし、襤褸装束の浪人一人。その男がのべ七九九万九九九九の神霊を鏖殺したなどと、果たして誰が信じようか。

『人よ。斯様ないたずらを、一体何度繰り返すのか』

 声が響く。音が轟く。最高神霊、絶対なる是雨須。その姿は人の型を保った雷其の物であり、人が触れることさえ罷り通らぬ。天候を操る術など不要。超常の業を振るう必要も無し。ただ触れるだけで、凡百の生命はたちまち塵へと還る。今、是雨須の手が浪人に届く。

『――』

 是雨須の雷は、必中必殺の一撃は、しかし浪人の身体を焼き切ることはなかった。否。是雨須と浪人の間合いは一吋。是雨須の必殺は、同時に浪人にとっての間合いでもあった。

「閃、」

 浪人が構える。否。既に刀は振り切っている。現象が音を置き去りにした。刀が震え、是雨須が裂け。

「滅」

 刀の一振りの音が届いた頃、既に是雨須は霧散していた。神殺しの刀は、数多の神々と同様に是雨須の命を断ち切ったのだ。

 神を失った世界は瞬く間に崩壊していく。亀裂の合間からは白とも黒ともつかない光が漏れる。呆然と眺める浪人の前に、白衣の男性が姿を現す。

「おめでとう、八裂(やつざき)。1人で神殺しをやり遂げるとは。希臘(ぎりしあ)神格はこれで終い。次はどの神々に挑むのだ?」

 期待げな眼差しを向ける男に対し、浪人は答えた。

「どれでも良い。次の場所へ連れていけ。神は全て滅ぼす也」

 かくして、浪人の旅は幕を閉じた……ただし、一つ目の旅は。

 世に八百万の神霊あり。時に悪鬼と畏れられた、食物連鎖の頂点。そんな彼らに挑む者あり。神殺しの業を持つ浪人剣士、其の名は八裂。熾烈極まる旅の果て、その宿願を果たせるや否や。

【続く】

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