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YAKUXANTA #パルプアドベントカレンダー2021


 まだ5歳の遠見少年にとって、クリスマスは特別な一日だった。

 2年前のクリスマスでは、母方の親戚一家が海外から訪れ、盛大なクリスマスパーティが開催された。日本ではめずらしいオモチャを貰い、目の青い男の子と遊び回った。その子が話す言葉は遠見にはわからなかったが、とにかく楽しかったのは確かであった。

 1年前……去年のクリスマスは、コロナ過の事だったので、ささやかなパーティが遠見一家内のみで行われた。去年のともだちとは会えなかったが、ママの作るケーキは美味しかったし、サンタさんがスマートフォンをプレゼントしてくれたので、ある意味前年よりも嬉しいクリスマスだった。

 では今年は……今年はどうか。特別かどうかで言えば、非日常的な体験であったと言えるだろう。だが、楽しいクリスマスだったかといえば、その答えは確実にNOとなる。

 何故ならば、遠見少年は出会ってしまったからだ。ヤクザのサンタクロース――ヤクザンタに。


 🎅😎😎


ズズズ、ザザザザ、ザザザザザ――ダッ。

「ホッホォォォオオウッ!」

 雪上をソリで駆けながら、赤衣を纏う髭面の男が叫んだ。ソリは大きく揺れながらも、快調なペースで坂を下っていく。

「どうだい、坊や。楽しいだろう?」

「…………」

 髭面の男が隣に座る子供に笑いかける。しかし、子供の表情は暗く、それどころか怯え切っている様子であった。まだ小学生にも満たないその子供の身体はロープで縛られており、ソリから降りられないよう固定されていた。ソリが跳ねる度、少年は何かを叫ぼうとするが、恐怖のあまり声が出ない。

「大丈夫かい?そんなに怖がっているから、君の両親も心配しているじゃあないか」

「……ぃ、あぁぁ……」

 子供は後ろを振り向き、涙に顔をゆがめた。ソリには紐が二本括られており、それぞれ一人の人間に紐づいている。即ち、この非道ソリは二人の人間を引き摺りながら滑走しているのだ。

 何度も滑ったためだろうか。彼らの服は至るどころ傷だらけで、顔は原型を留めない。そして、無慈悲にもソリは走行中であるため、彼らの受難は続いているのだ。ソリが跳ねる度に彼らの身体も宙に浮き、そして雪面へと叩きつけられる。斜面には遮蔽物も多く、度々木や岩にぶつかっては、傷をさらに増やすのであった。

 彼らの痛ましい姿に、それでも少年は目を背けることができない。何故ならば、傷ついている男女こそ、少年の……遠見少年の両親なのだ。

「……もう……やめて、ください……」

 遠見少年は掠れた声で懇願する。

「なんだい坊や。泣くか?泣くのか?そンなら、もう三週ソリ滑り追加だ」

 対する赤男の返答は冷ややかだった。先ほどまでの、上っ面の優しい声色も既にない。男は懐からなにかを取り出そうとし……「おっと」とワザとらしくかぶりを振った。

「いけねえ、いけねぇ。サンタが煙草なんて吸っちゃ駄目だよな」

 そうだ。この大男は、よりにもよってサンタクロースを名乗っているのだ。サンタを幸福の運び手だと信じてきた遠見少年にとって、この出会いは悪夢そのものであった。

 ああ、神様。なぜこのようなサンタを遣わしたのですか。なぜ僕たちはこのような目に遭わなければならないのですか。遠見少年は、教会で習ったお祈りを心の中で繰り返した。これがもし夢ならば、今すぐにでも覚めてほしい。

 しかし、地獄のソリ滑りはそれからも続いた。何度も、何度もソリは斜面を下り、その度に両親は傷ついていき……やがてピクリとも動かなくなった。


🎅🎅😎


「やっと死んだか、手こずらせやがって」

 サンタ装束の男は、動かなくなった男女のペアを見下ろし、唾を吐きかける。男は懐から黒塗りの高級端末を取り出すと、手袋越しとは思えぬ器用さでフリック入力を行った。

『ターゲット 遠見清十郎を始末』

 短い短文を打ち終わり、男はメールを送信した。宛先のドメイン名は"tonakai.co.jp"……トウナカイ……然り。現代日本にひしめくヤクザ組織の一つ、"東那會とうなかい "。その構成員である男……赤井は要人暗殺を生業とするアサシンなのだ。当然、そのサンタ衣装は酔狂ではない。クリスマス殺人において、サンタ衣装は欠かせない変装なのである。

 一般的に、暗殺における変装は無個性なカタギに扮するものとされている。だが、クリスマスなどの行事の際は、有名なキャラクターに扮する事でより匿名性を高める技法が取られる事はあまり知られていない。例えば、先々月のハロウィンにおいて、赤井はカボチャマスクでコスプレ集団に紛れ、参加者の一人であった、地方政治家の息子を暗殺する事に成功している。そして今回のクリスマスシーズンではサンタの衣装というわけだ。

 特に、今回の任務は重要だった。今回の標的、遠見清十郎は地方の有力不動産会社の後継者であったのだ。先代の頃の不動産は、東那會と強いパイプで結ばれており、暴対法下でも持ちつ持たれつの関係を続けていた。ところが、清十郎の代になると、途端に一方的に関係は解消され、東那會の地上げビズは事実上不可能となってしまった。数度の交渉を試みるも清十郎は聞き入れようとせず、結果、アサシンによる物理報復が行われる運びとなったのだ。関係の途絶が他のヤクザ組織に知れ渡る直前、瀬戸際のタイミングであった。

 無論、東那會が殺ったと露見すれば、組の弱体化が他組織に知れ渡る事になる。そこで今回のクリスマス殺人だ。一般人は、そもそもサンタの振りをした狂人の起こした事件だと認知するだろう。ヤクザ業界の者たちの場合であっても、不動産と東那會の繋がりを恐れた他の組が実行した暗殺計画だと思わせることが可能になる。少なくとも、東那會はそう主張することが出来る。口実さえあれば、様々な事が出来るのがこの業界だ。場合によっては、この件を発端として東那會をより強大化し、不動産ビズのロストを上回る成果さえ得られるかもしれない。

 ……そうだ。シノギはこれで終わりではない。むしろ、遠大な画へのきざはし の一歩を踏み出したのだ。この俺が。未来への期待感に、赤井は胸の高鳴りを実感した。そして、ふと、死体の前で立ち尽くす少年に目がいった。縄を外され、いつでも逃げられる筈の少年は、しかし父親の亡骸を、ただ無表情で見つめ、呆然としているようであった。

「……どうして、こんなこと、したんですか」

 ふいに、少年が呟いた。どのように返答しようか、赤井は少し迷い。答えた。

「坊や。それはね、坊やが望んだからだよ」

「ぼくが?」

「そう。親がいなくなってしまえばいいって、願った事はなかったかな?俺はその願いを叶えてあげたんだ。嬉しいだろ?」

 誰だって、親がいなくなれと思う事が一度や二度はある筈だ。赤井の場合、それは毎晩の事であったが……ともかく、赤井はそう答えた。嗜虐心もあるが、何よりサンタであると認識してもらう方が重要だったからだ。

 クリスマス殺人において、サンタともう一つ必要なのが、サンタを見た証人だ。赤井にとって、その役はこの少年である。『サンタ姿の狂人がパパとママを殺した』、そう証言してもらわねば、目撃者不明の殺人となってしまえば、単なる事件として処理されてしまい、他の組にアヤをつける材料としての効果を失ってしまう。

 故に、ここでは赤井はサンタに徹する必要があり、遠見少年を殺すわけにはいかなかったのだ。

「……それは、ママがぼくの日輪刀(註:鬼滅の刃 DX日輪刀)を勝手に捨てちゃったときのこと?それとも、パパがぼくの誕生日にざんぎょうで帰ってこなかったときのこと?」

「どちらもだ、坊や。きみはパパとママ、どちらもいなくなってしまえと願っただろう。だから俺は願いを叶えるために現れたんだ。俺は――」

「ウソだ」

 赤井の軽口を遮る、遠見少年の言葉には先ほどまでにはなかった力がこもっていた。存外の反応に、赤井は思わず閉口した。

「ママとパパをちょっとキラいになった事はある。でも、ちゃんと次の日には仲直りして、いっしょにケーキを食べたんだ。ぼくはパパとママがいなくなれなんて思ったことなんて一度もない!お前はウソつきだ!お前なんかサンタじゃあるもんか!お前はサンタクロースじゃない!」

 すると、突然少年が赤井に飛び掛かった!サンタ衣装のファーに器用に捕まり、するすりとよじ登り、あっという間に赤井の顔に張り付いた!年齢ゆえの身軽さが活きたのだ。

「この、クソガキ!」

 赤井は抵抗しようとするが、思いのほか遠見少年の粘りが強く、中々引きはがすことができない。本気を出せば別であるが、それでは少年を傷つけてしまい、シノギの達成にはならなくなってしまう。

「このニセサンタ!パパとッ!ママをッ!返せッ!!」

 少年は左手でしがみつきながら、右手で赤井の顔を殴り、引っ掻き、叩いた。一撃一撃は決して重くはないが、このような痴態。赤井の怒りは段々と高まっていった。

「こ……の、ガキがッ!」

「ぼぎゃっ――!」

 赤井は遂に少年を引っぺがすと、強引に地面に叩きつけた。その右手には凶悪なドス……然り。少年に突き刺し、痛みで手を離した隙をついて引きはがしたのだ。

「このガキ、生かして貰えると思ってつけやがりやがって!」

「ウッ――!がっ……!」

 痛みに悶える少年に、赤井は容赦ない蹴りを入れ続ける。念のため急所は避けているが、もはや赤井の中に少年を生かす算段はなかった。少年をこのまま嬲り、親の死体ともども遺棄する姿を第三者に目撃させる。そうすればサンタ姿のサイコパスが死体遺棄した事件となり、クリスマス殺人は達成できる!そうだ、初めからそうすれば良かった……赤井は過剰な苛立ちを乗せ、容赦ないストンピングを続けた。

(誰か……!誰か……!神様……このニセサンタを、この悪者を、誰かこらしめてください……!)

 丸くなりながら、遠見少年は祈った。教会で教わった神様に。或いは、別の誰かでもいい。この悪がこのまま放逐されるのは、少年にとって我慢ならない事だったのだ。ドスによる失血と、蹴りの痛みに意識を失いそうになるが、それでも懸命に祈り続けた。誰か、誰か……!


 Rin、Rin、Rin。Rin、Rin、Rin――


 その時、少年は鈴の音を聞いたように思った。意識が朦朧としており、幻聴のようにも思えたからだ。しかし、音は段々と強くなり、いつしか少年を踏む足がこなくなっていたのだ。一体なにが起きているのだろうか……困惑していると、少年は視界の端に、サンタクロースのような姿を見た。ニセサンタとは違う、第二のサンタクロースを。助けてと言おうとしたが、声が出ない。しょうがないので、目で訴えるしかなかった。『ニセサンタを倒して』と。


🎅🎅🎅


「なんだ、この音は……」

 不意に鳴り始めたジングルベル……何の音だ?赤井は怒りを収め、周囲を見渡した。この辺り一帯は組の者が見張っており、第三者が侵入することは出来ないはずだ。となれば、監視を潜り抜けて潜入したか、それとも強行突破してきたか。どちらにせよカタギではなかろう。何処からくる……赤井は警戒を強め――

「ッ!?」

 瞬間。後方から死気を感じとり、すぐさま赤井は身を屈めた。直後、頭上のホンの数ミリ頭上をなにかが通り過ぎ、ぶおんという音が質量に遅れて空を切った。その空振り音だけでもかなりの質量が予想される。コンマ数秒遅ければ、今頃それが赤井の頭部を砕いていた事だろう。

「ほう、今の一撃を躱すか」

強襲カチコミ!?」 

 赤井は中腰姿勢から即座に前転。後方の何者かとの距離を置き、改めて振り返る。攻撃の主を確かめようとし……その正体に、言葉を失った。今、赤井と向き合っているそれは、全長3メートルを誇る、サンタの怪物であった!

 その巨人は赤い帽子に長い白髭、その手にはプレゼント袋。一見してサンタらしい特徴を備えているように見える。しかし、サンタ特有の赤服の代わりに、その全身は入れ墨で覆われていた。龍、雪山、鳳凰、馴鹿となかい……様々な題材が紙一重のバランスで両立する、見事な彫刻である。目元はサングラスで覆われており、双眼から放たれる殺気がレンズ越しに赤井を射抜く。

(馬鹿な……ヤクザ姿のサンタだと?俺の暗殺を予期していたのか?どこから漏れた?それよりもこいつは……本当に何者なんだ?)

 サンタとヤクザの奇妙なミクスチャ存在に、赤井は明らかに戸惑っている様子である。その様子を一瞥したか、怪人は煙草を取り出し、不遜にもその場で一服した。そして吸い終わった煙草を呑みこみ……名乗った。

「儂はヤクザンタだ」

「ヤクザンタ……!?」

  赤井はその名を聞いた覚えがなかった。にも拘わらず、その名を聞いた途端、全身の細胞が震え、戦慄く感覚を覚えた。理性とは別の部位……ヤクザの遺伝子とでも言うべきものが、ヤクザンタの名に畏れを抱いているのか。

「サンタは良い子供に褒美を与える存在。儂は違う。ヤクザンタは悪い大人から悪魂タマを刈り取る者。云わば貴様にとっての死神よ」

「テメェが、俺を殺るってのか……?」

 赤井は思わず苦笑した。悪い冗談だ。サンタ姿で殺すつもりが、別のサンタ野郎に殺されるっていうのか。それも、どこの組とも知れない、この狂人に。冗談じゃない。赤井の困惑は次第に激昂に変わっていった。

「ガキといい、テメェといい、俺を舐めてやがる。東那會の一番槍、この赤井が、そう簡単にくたばるかよ。逆にテメェの首を刈り取って、クリスマスツリーの頂点にでも飾ってやる」

Merry Grimmas.メリー・グリムマス その悪魂タマ頂戴する」

 赤井はドスを構え、じりじりと距離を詰め寄る。一方のヤクザンタは右手のプレゼント袋を強く握りしめ、垂れていた袋部を引き締め、棍棒状の鈍器に変えた。

(あの袋がさっき俺の首を狙った獲物だな)

 互いの体格差、雪による足場の悪さ、獲物の距離……赤井は冷徹な殺し屋の目で分析する。一方のヤクザンタの表情は読めない。両者の距離はじわじわと縮まっていき……両者とも同時に雪面を蹴った!

「貰ったッ!」

 赤井はドスを突き刺すように突進!ヤクザンタの武器、袋ブラックジャックは大柄。振りかぶっている間に十分懐に入り込める。狙うは首元、頸動脈!体格のいい相手でも、数秒であの世に送ることが可能。十分な勝算。

 だが。勝算を見出したのも束の間、距離上届くはずのないプレゼント袋が、赤井の直ぐ眼前に迫っていた。

「なんだと!?」

 思わず赤井はドスでプレゼント袋を弾いた。袋はファウルボウルの軌道を描くように赤井の後ろに飛んで行った……投擲されていたのだ!

 ドスを振るい、赤井は一瞬の膠着を余儀なくされた。そして眼前には、今まさに拳を繰り出さんとするヤクザンタ。袋と拳、二段構えの攻撃だったのだ。

(駄目だ、間に合わな――)

Dear!!」

 恐るべき怒号と共に、3メートル超の巨体から放たれる拳が赤井に激突した。重機が全速力で激突したかの如き衝撃。轟音と共に、赤井の身体は吹き飛ばされる!

 雪面を跳ねるように斜面を転がり落ちていく。木や岩に衝突して尚その勢いは衰えない。跳ね、転がり、ぶつかり、また跳ねあがり……ようやく平行な雪面に衝突する頃には、既に四肢は折れ曲がり、サンタ服だったものはボロボロの布切れ同然な有り様であった。


😎😎😎


「ヒューゥ……ヒューゥ……」

 斜面を転がり落ちた痛みよりも、しかし、ヤクザンタから受けたこぶしの方が遥かに赤井を蝕んでいた。数年前の抗争で負った弾傷よりも遥かに痛い。身体を包む雪の冷たさも忘れるほどに……

(こんなところが、俺の死に場所だっていうのかよ。こんな、ふざけた格好で……)

 赤井はサンタというものが嫌いだった。何故ならば、幼少期、少年だった赤井に、プレゼントをくれるようなサンタなどいなかったからだ。

 日々男遊びに耽る母親。そんな胎から産まれた俺を疎む父親。最悪の家庭。クリスマスの日など、母が浮気に出ているからと、父から受ける暴力が一層増すだけで、祝福してくれる者など、誰一人いなかったのだ。学校で子供たちが今年貰ったプレゼントについて喜んでいる傍ら、赤井少年は殴られた頬を擦っていた。六年の頃、家出を決行するまで、その荒んだクリスマスは続いた。

 ヤクザに身をやつしても、赤井はやはり孤独だった。家柄や年功が重んじられるヤクザ業界において、ロクな出生でない赤井などは、使い潰しの利く雑兵の一人に過ぎなかったのだ。研修も受けぬまま、何度も死地へと派遣され、自爆に等しい強攻を繰り返した。弾丸が耳を霞め、ドスが肩を裂き、そして何度生還を果たしても、別の死地へと向かわされるのだ。繰り返される地獄の日々。家出する前と変わらずに。

 ……赤井は、遠見少年に自分が言った事をふと思い出した。親がいなくなればいいと願う日々、それが少年時代の赤井にとっての日常であった。今はどうだ?殺人で成果を出したとして、それ自体は歓びでもなんでもない。

 殺して、殺して、また殺して……その先に何がある?誰かが喜んでくれるのか?東那會の組長?俺を地獄に合わせ続けた人。そんな人に認められる為に、こんな事をし続けなければならなかったのか?仮にここで生き延びたとしても、また俺は殺戮の日々を続けなければならない……

(……そうか。俺は結局、ありのままの自分を肯定してほしかったんだ。そんな人がいてくれたら、俺は……)

 ドン詰まりの人生。その節目をサンタクロースがしめてくれるというのというのなら、少なくとも、ここまで生きていた甲斐があったのかもしれない。赤井は自嘲し、上から聞こえてくる、雪を裂いて滑降する物音に耳をすませた。あの場所の近くにはソリがあった。ならば、きっと。


ズズズ、ザザザザ、ザザザザザ――ダッ。

「ホッホォォォオオウッ!」

 軽快な叫び声と共に、赤服の男がソリに乗って、雪上を駆け抜けた。雪煙が舞い、辺り一帯を銀幕が覆った……まるで、たった今轢かれた者の亡骸を包み隠さんとしているように。

 入れ墨のサンタは、見事なソリ捌きで下山し続けた。傍らには気を失った少年の姿。ソリから落下しないようサンタに抱えられている。

「坊主、もう少しの辛抱だぞ……」

 ヤクザンタが独り言ちた。なにかの夢を見ているのか、遠見少年は微笑みを浮かべた。サンタと少年を乗せたソリは、それからも遠く、遠くまで滑り続けた。陽は既に落ち、月が空に浮かび、一面の銀世界を照らしていた。


YAKUXANTA 【終】

 


当作品は、桃之字さん主催のイベント『パルプアドベントカレンダー2021』の飛び込み参加作品です。他のパルプ作品も面白い!読もう!読もう!

 

 


スキル:浪費癖搭載につき、万年金欠です。 サポートいただいたお金は主に最低限度のタノシイ生活のために使います。