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この環境が私の視点を作ってくれた

高校生(当時) 石山心南(みなみ)さん


 「特別支援学校の先生になりたいんです」とまぶしい笑顔で答える石山心南さん。

 石山さんを初めて知ったのは「全国高等学校家庭クラブ研究発表大会」で文部科学大臣賞を受賞したという記事だった。内容は東京オリンピックで有名になった「ピクトグラム」を活用し、障がいを持った弟の支援に関するものだった。そんな高校生が喜多方にいるのか、と少しの関心にとどまっていた。しかし、日常にあふれるニュースを少し調べてみると石山さんの名前が次々と記されていることに気づいた。中学校時代から、毎年何らかの成果を上げ、メディアに取り上げられているのである。

 特別支援学校の先生になりたいというのは、もちろん弟との生活があってのことだ。ピクトグラムにしても彼の生活の様子を見る中で着想を得、生活の問題を解決するための活動だった。
 「仕事ができ、生活ができ、障がい者が自立できる場を作りたいんです」石山さんの話し方はとても明るく、障がいを負として捉えるのではなく、現実を現実のままフラットな視点で捉えているようだ。否、それ以上に、弟がいるから自分の今の視点が得られ、このように活動ができていると、弟をかけがえのない存在であるように語っているのが印象的だった。「障がいだけじゃなくて、今はLGBTなんかにも興味があって」。石山さんは弟というフィルターを通して社会を見、興味を発展させているようだ。
 一つの質問を彼女に投げかけてみた。
「弟が生まれ、親を取られたって思ったことはなかった?」
「それは、なかった。うぅん、家族は一体で、みんなでいる感じだから」
私の意地悪な質問にも、戸惑いなく真っ直ぐな答えを返してきた。

 前述のピクトグラムに関しても、実は弟のために作ったわけではない。朝の準備に母親が苦労をしている様子を日頃見ていて、その苦労を少しでも減らせないかという課題意識からのものである。彼が朝の準備を母親の手を煩わさずスムーズに行うためのものである。着想は弟に端を発しているが、その発想は家族全体を見ている。父母妹弟4名と祖父母、親せきの合計9名の大所帯が石山さんの家族である。
 「知り合いが集まって、弟の話になるときに、なんかマイナスな話になったりするけど、『そンなこと言っても前に進まない』って思うんです」。現実を受け取り、現実を基本として前に進んでいく姿勢は、家族の枠にとどまらない。探究活動をするときは、積極的に専門家の話を聞く。まだまだ知らないことがあって、勉強をしていかなければならないと彼女の現状をしっかり理解し、その足りない部分は、物怖じをせずに積極的に他者と関わりを持つ。ピクトグラムの研究も家での弟の様子と学校での弟の様子では違うという仮説を立て、特別支援学校の先生や医療の専門家へ何度も問い合わせたという。
 「でも、コンピュータにまとめたりすることは、先生に頼んでしまっていたのが、なんか自分でやった感じがしなくて」と、文部科学大臣賞を取った後にも、その研究を発展させていると言う。
 「今年の研究は、パワーポイントを作るのも自分でやったんです」とその資料を見せてくれた。「この絵は、四角や丸の図形を組み合わせて作ったんです」
研究の視点も変化した。前回の研究は母親を助けるためであったが、今回の研究は「弟の長所を活かして、できることを増やしていきたいなというのが目的です。その中で手の微細運動ができる活動を入れてみたり、いつまでも続けられる方法を考えたり」

 「ただ、この新しい研究で賞は取れなかったんです。でも、やり切った感じがあって、満足しているんです」
自分の外にできない理由も、やらない理由も求めない。自分の外の承認だけが自分の価値とも思わない。彼女は本当の意味で「自分の人生の主人公」であるのだと思った。すべては彼女を前に進めさせるガソリンになり、未来へ駆動していく。

「おばあちゃんが駅まで迎えにくるので」と大家族が待つ家に帰っていった。

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