議員たちの沈黙─日本プログレ議連と核兵器の問題─
前回の記事では、「米『核兵器先制不使用』宣言を支持する日米プログレッシブ議員連盟共同書簡」について取り上げました。
おさらいになりますが、この書簡は4月1日、バイデン大統領と岸田首相あてに、日米プログレッシブ議員連盟が提出したものです。署名者は、アメリカ側が35名。日本側は、立憲民主党を中心に、泉健太・福島みずほ等39名が署名しました。
本書簡は、日米首脳に「核兵器の先制不使用」宣言を求めるものとしています。しかし私は、この書簡は「日本が他国から核攻撃された場合、米国による報復核攻撃を許容する」内容が含まれており、したがって違憲の疑いが高いことを指摘しました。
共同書簡には、何が書かれていないのか?
このような政治的文書や声明を批判的に検討する際、「何が書かれているのか」と同じぐらい、「何が書かれていないのか」が重要です。
たとえば、書簡には「核の先制不使用は、すでに日米同盟の事実上の政策となっています」という文言がありますが、日本政府の従来の公式見解(すなわち「日本政府は核の傘にはコミットしない」)という重大な前提条件が書かれていませんし、それに対する配慮もありません。
また日本における核戦略を語る上で、当然に語られるべきことがまったく語られていません。
たとえば、
①日米両政府が核戦略を共有する場合、非核三原則はどうなるのでしょうか?
核兵器による数少ない被爆国として、日本に核兵器禁止条約への批准を求める野党支持者は決して少なくないはずです。
②日本に核兵器禁止条約への批准を求める有権者の説明責任はどう果たすつもりなのか?
日米で核戦略を共有するとなると、日本国憲法との兼ね合いが当然に問題になるはずです。
③日米での核戦略を共有する場合、日本国憲法との兼ね合いをどう説明するのか?
しかし、書簡の本文においても、あるいは新外交イニシアティブのWebサイトに掲載された「プレスリリース」にしても、これらの当然に検討すべき重大な問題系には一切触れられていないのです。
こうした問題に触れると、何か不都合なことでもあるのでしょうか?
議員たちの奇妙な沈黙
さて、今回の本題に入ります。
前回の記事を執筆後、国会議員たちがどのようにこうした問題を説明しているのか調べていくうちに、もう一つの「本来あるはずなのにないもの」に気が付きました。
書簡を岸田首相・バイデン大統領に提出したのが4月1日。本件が、新外交イニシアティブのWebサイトに掲載されたのが4月5日。その前後で、署名した日本側議員たちが、言及している節がほとんど見られないのです。
まずTwitterにて、日本側の議連関係者および署名したすべての議員のツイートを、リプライ欄まで含めて目視で調べました。調査した投稿期間は、3月31日~4月15日です。
結果を以下に示します。
〇→言及あり
×→言及なし
△→以前に言及はしているが今回は言及なし
Twitterアカウントには、各議員のツイート(リプライ含む)のリンクを張っています。皆様、ぜひ確認してください。
該当期間の関連ツイートは、ただ一つしか見つけられませんでした。
それが事務局長:屋良朝博による、たった6文字のツイートです。
また、この投稿をリツイートしていた関係者はおらず、Favをつけていたのは原口一博だけでした。
該当期間外では、れいわ新選組の大石あきこが、議連加入時の1月28日にこのようなツイートをしています。
未公開文書のスクショをツイート、政治家の作法としてだいぶマズイようにも思われますが、それはさしあたりおいておきます。彼女も、3月31日~4月15日の間には、この書簡については一切の言及がありません。
もう一つ、徳永エリが次のようなツイートを1月25日にしています。
しかし、実際に書簡を提出した4月以降、言及は見当たりません。
Facebook投稿は2人
Facebookではどうでしょうか。
検索したところ、2人の議員が関連投稿をしていることがわかりました。
1人は、現事務局長の小熊慎司。「日米共同書簡申し入れ」では、その内容がまったくわかりません。
それに対し、熱心に投稿しているのが近藤昭一氏で、計3つの投稿を行っています。
奇妙なSNS投稿状況
以上、署名議員・関係者たちのSNS投稿をチェックしてきました。
まとめると、提出前後にSNS投稿をしていたのは、屋良朝博元事務局長・小熊慎司事務局長・近藤昭一会長代行の3名のみ。
屋良と小熊の2人は、書簡の内容が一見してわからないような投稿。ただ一人、熱心に投稿していたのは、近藤昭一のみという結果でした。
もちろん、個々の議員のSNS活用レベルは大きな差があり、個々の議員レベルで見れば、単純に報告忘れということもあるでしょう。
しかし、たとえば事務局がある新外交イニシアティブ(ND)が公式Twitterアカウントで言及していないことは、NDがこれまでマメにTwitter投稿やプレスリリースを公表してきたことと比較すると、違和感しかありません。
あるいは、大石あきこや徳永エリ・原口一博のように、過去に共同書簡やプログレッシブ議連に対する頻繁な言及をしてきた議員たちが、みな沈黙していることも奇妙です。
なぜ議連は、歴史的な取り組みを宣伝しないのか?
書簡についての、議連の表向きの主張と照らし合わせると、奇妙さはいっそう際立ちます。
私が便宜的に「プレスリリース」と呼んでいる新外交イニシアティブの記事は、正式に「日米議員が『核の先制不使用』を支持する共同書簡を提出 日米議員の連携は歴史的第一歩」という仰々しいタイトルで、以下のような華々しい文章が含まれています。
さらには、書簡本文には次のように書かれています。
声明を文字通り受け取るかぎり、議連は次のように主張しているわけです。
すなわち、今回の日米プログレ議連の共同書簡は、
●日米市民からの圧倒的な支持を背景とした
●核廃絶のための歴史的な取り組みである
●この書簡を提出した両国議員の連携自体が、過去に類を見ない規模であり
●新たな日米外交チャンネルの構築という意味においても、歴史的な第一歩である
なのに野党議員たちが、この歴史的な成果を喜び、圧倒的に支持してくれるはずの有権者に報告する様子がほとんど見られないのです。
言うまでもないことですが、国会議員は私たち日本社会に住まうすべての人の代表です。国会議員としての活動を、有権者に対して報告し説明する責任を負っています。それが核戦略に関わることなら、なおさらです。
言っていることとやってることの乖離が大きすぎるのです
なぜ緘口令が敷かれているのか?
実は、数名の議員にはTwitterリプライで、前回記事を紹介した上で、「違憲の疑いがあるので説明責任を果たしてほしい旨を伝えました。
たとえば、伊波洋一に送ったツイートはこれです。
他にも、私個人としては、福島みずほ・原口一博・泉健太・石垣のりこには同様のリプライをつけていますが、どなたからも返答はありません。
他の方では、れいわの大石あきこに連絡をした人も何人もいたようですが、まともなお返事はいただいていないようです。
議連役員以外に対して、できるかぎり有権者に共同書簡について気づかれないように、仮に気づかれても説明しないように、緘口令が敷かれていると勘繰られても仕方がない状況です。
どういうことなのでしょうか。
この共同書簡には、大きく分けて2パターンの解釈がありえます。
一つは、
●議連が主張するとおり、核廃絶のための真摯な取り組みという読み方。
もう一つは、
●私が前回の記事で示したような、書簡そのものに巧妙なトリックが仕組まれていて、日米核戦略の共有化を目的としている
という読み方です。
しかし、前者の解釈が正しいのだとするならば、署名議員たちがほぼ一斉に沈黙している現状は、あまりにも辻褄が合いません。
彼らの行動を鑑みると、後者の読み方、すなわち書簡にトリックが仕掛けられているという解釈のほうが整合的だと思うのです。
つまり、人のいい議員たちは騙せても、勘のいい有権者や他党に気づかれないように、振舞わされているのではないかという線です。
プログレッシブ議連の議員たちは、誰から軍事レクチャーを受けたのか?
繰り返しになりますが、私は署名した議員たちが、この書簡のもつ違憲性について気が付かずにサインした可能性が高いと考えてきました。
ただ、少し気になることがあるので、断片的な情報になりますが、共有しておきます。
署名した米山隆一は、4月2日のツイートで、「アメリカの核の運用や戦略を日本が共有し意見をいう」というのは「日米安保の一環」でなんら問題がないと主張しています。
端的に言ってデタラメな議論です。百歩譲って、核戦略レベルの共有はありえるかもしれませんが、核運用を日米で共有することが、日米安保で許容されるはずがありません。
核運用を共有するということは、核兵器の使用に対して日本政府が責任を負うということです。報復目的での核兵器使用や核による威嚇が日本国憲法に違反する限り、日米安保違反になるからです。なぜなら、日米安保には次のような規定があるからです。
ともあれ私が関心があるのは、いったいどこの誰が、核兵器と安保解釈について、米山隆一にレクチャーをしたのかです。問題がないと言い切るためには、そのような見解を彼に指南した誰かがいるのではないでしょうか。
レクチャーと言えば、もう一つ気になる情報を見つけました。署名した徳永エリの公式Webサイトの「日本プログレッシブ議員連盟に出席」という記事の中に、次のような記述があったのです。
日本プログレッシブ議員連盟事務局は所属議員たちに対して、野党が直接話すことができない立場で、名前も明かせない人から、内容を言えないレクチャーを行ったということだけは確実に言えそうです。(なお、2021年6月という日付から考えると、議員ではない米山隆一はこの会合に出席していないものと思われます)。
これはいったい誰なのでしょうか?「米国と繋がり」と書いていること、および新外交イニシアティブ評議員のマイク・モチヅキが仲介したことを考えると、米国あるいは米軍関係者の誰かである可能性が高いことだけは指摘しておきます。
議員たちへの要求
日本プログレッシブ議員連盟の議員たちには、日本国民として私は、次のことを要求したいと思います。
①自身が署名した書簡について、日本国憲法と非核三原則、そして政府の核兵器廃絶方針との整合性を説明すること。
②この書簡にサインするに至るまでの、議連で受けたレクチャーの日時・講師・内容を開示すること。
③上記のいずれかあるいは両方を国民に対して説明できない場合は、署名を撤回すること。
これまで野党議員は、政権与党に対し、「説明責任を果たせ」と詰め寄ってきました。安保法制然り、森友問題、加計問題、桜を見る会も然り、日本学術会議問題然りです。
その説明責任を果たす義務は当然に野党議員にも課せられます。
説明責任を果たさない議員は、日本国民すなわち有権者に、また、この国に住むすべての人に対する義務を放棄していると言わざるを得ません。
署名なさった議員の皆さんが、この要求にどのように反応し、対応をしていくか。
同時にその振る舞いは、「本当は誰のための政治をやっているのか」を自ら明らかにしていくものでもあります。
皆様へのお願い
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
ぜひ皆様、署名した議員たちへの質問・働きかけをお願い申し上げます。アプローチする方法については問いません。そして、回答があってもなくても、私にご報告いただければありがたいです。Noteのコメント欄やTwitterのリプライ・DMだと助かります。
回答状況については、順次公開していく予定にしています。
引き続きのご支援、よろしくお願い申し上げます。