日本財団の研究 1 笹川良一の宗教人脈と統一教会の世界戦略
まえがき
お待たせいたしました。3年ぶりになりますが、「日本財団の研究」の連載を改めて開始いたします。
大反響をいただいた初回ですが、3年後に、松井一郎・大阪府知事による水道橋博士に対する告訴と、水道橋博士の参院選出馬・初当選(れいわ)という展開になるとは、当時はまったく想像もしておりませんでした。
それもあって、私としてもリスク対応のために一時的に有料化していました。
このたび、「日本財団の研究」連載本格開始の記念に、初回記事は8月12日(土)まで無償公開とさせていただきます。
今後は、おおむね一ヶ月に一本ペースで有料記事をアップしていく予定にしています。どうぞ楽しみにしていてください。
政治と宗教の癒着、何が問題なのか
安倍晋三・元首相の殺害以後、自民党と統一教会の癒着について、連日メディアなどで取り沙汰されています。その中で、統一教会に限らず、宗教法人から支援を受けることを是とする政界の慣習も、明るみになりつつあります。
政治家が自分が当選するために選挙応援をお願いし、宗教法人の方は献金を行い選挙の手伝いをする代わりに、政治家とのつながりを広告塔として布教活動に利用している、という構図が広く見られるのです。
もちろん宗教一般を、統一教会のような反社会的組織と同一視することは適切ではないでしょう。宗教法人から支援を受けること自体は、憲法に定められた「政教分離」違反にはあたりません。しかし、問題がないわけではないのです。
政治家が、当選するために宗教法人に依存するようになれば、国民のための政治ではなく、宗教のための政治が行われることになるからです。そして、国民生活への関心は薄れていくのです。
そのとき、政治は誰のために存在するのでしょうか?そして、それは本当に民主主義と言えるのでしょうか?
日本経済は25年の長期低迷を迎えています。少子化と人口減少は破局的で、地方の衰退には歯止めがかけられそうもありません。私たちの国は存亡の危機にあるのに、国民のための政治を行おうとしている政治家は、一体どこにいるのでしょうか。
私が「カルト国家の淵源」という一連の記事で、安倍昭恵首相夫人(当時)の宗教人脈と国政への介入について書いていたのも、その問題意識からです。例えば、昭恵の友人が教祖をしている新興宗教(不二阿祖山太神宮)のイベントに、政府のほぼ全省庁が今なお支援しています(Fujisan地球フェスタ)。
これは、政治が特定の宗教を支援しているので、明らかに政教分離原則違反です。しかし、この問題は深刻に受け止められず、一度も国会で取り上げられていません。
しかし、元首相の殺人事件をきっかけに、政教癒着問題の深刻さがようやく理解され始めたように思います。政治と宗教の根深い関係を知ること、それは私たち有権者にとって、民主主義を取り戻すための戦いなのです。
ただ、本連載「日本財団の研究」においては、宗教と政治の関わりはどうあるべきかという問題については、いったん保留させてください。可能な限り、主観的な価値判断を避け、資料から推測できる事実を記述することに専念します。
宗教人笹川良一、あるいは満州人脈の宗教的側面
なぜ日本では、ここまで政治と宗教の距離が近いのでしょうか。その謎を探るためには、戦後最大のフィクサーの一人、笹川良一について調べる必要があります。
私はこの連載の最初の記事で、日本財団が自民党のみならず、野党(国民民主・希望・維新)にも隠然たる影響力を及ぼしていることを示唆しました。
現在に至るまで日本財団が政界に甚大な影響力を及ぼし続けているなら、それは財団(旧日本船舶振興会)の創設者である笹川良一を抜きに考えることはできません。
笹川良一は、今回の問題の文脈では、安倍晋三の祖父・岸信介と統一教会を繋いだ人物として名前が上がります。笹川良一・児玉誉士夫の2大フィクサーと岸信介の3人は、満州国を中心に人脈を形成し、戦後はA級戦犯として巣鴨プリズンに収監され、1948年12月24日に釈放されました。この3人を中心とする「満州人脈」が、戦後日本政治を形作ってきたと言われています。
統一教会を含めて、宗教と政治の関係は、この人脈相関の中で理解される必要があります。具体的証拠が出せる範囲で、笹川良一と関係がある宗教団体と、笹川の地位を列挙します。
統一教会・・・勝共連合初代名誉会長
日本紅卍字会・・・統掌(代表)
辨天宗・・・信徒総代
大本
創価学会
このうち、笹川自身が中心的・指導的地位にあったのは、上から3つ、すなわち統一教会・日本紅卍字会・辨天宗です。
笹川良一という人物は、日本の政財界のみならず、国際政治ネットワークにも大きな影響力を及ぼしており、その全体像は簡単に推し量ることができません。その中で、教団トップまで務めた「宗教人」という側面については、とりわけ見過ごされてきたように思います。(宗教人という点は深見東州を彷彿とさせますが、それは深見が笹川良一の宗教的後継者だからです。これも後の連載で詳述します)。
大阪府三島郡豊川村(現在の大阪府箕面市)で生まれた笹川良一は、尋常小学校卒業後、地元の浄土宗の寺・正念寺で2年間に及ぶ厳しい修行を行い、彼の人格形成に大きな影響を与えました。(黒瀬昇次郞『笹川良一伝』)。これが、宗教人・笹川良一の原点です。
宗教界との人脈は、創設者亡き後の日本財団にも継承されている可能性があります。たとえば日本財団と直接・間接的に関係がある団体としては、以下の諸団体が挙げられます。
日本会議
幸福の科学
モラロジー
笹川良一は、自身が宗教に傾倒していただけではなく、複数の宗教を支援することによって間接的な形でも政治を動かそうとしていた節があるのです。
統一教会とは何か
統一教会の教義
これから数回にかけて、満州人脈の宗教的側面について掘り下げていきます。
今回と次回は、旧世界基督教統一神霊協会(以下、統一教会)について取り上げます。
ある宗教が、何を目的として、なぜ人が信じ支援したのかを理解するには、その信仰の教義と実践を知る必要があります。
櫻井義秀・中西尋子『統一教会 日本宣教と韓日祝福』などを参考に、聖典『原理講論』を簡潔におさらいしておきましょう。
統一教会の目標は、男女がそれぞれの個性を完成させた後に、神を中心とする家庭を形成することによって(四位基体)、万物を神が主管(支配)する世界を創ることです。
比喩的に言えば、歴史が始まって以来、神と悪魔が世界を二分して「領土争い」をしているわけです。そして統一教会信者のなすべきことは、万物を神の支配化(主管)に戻す(復帰)ことなのです(万物復帰)。
歴史の端緒は、旧約聖書における創世神話(に対する異端解釈)です。サタン=天使長ルシフェルは、エヴァと霊的姦淫を行うことで、エヴァを堕落させます。エヴァは堕落への恐怖心から、アダムをさらに誘惑して、肉的に不倫関係を行います。この二重の不倫関係によって、人類にサタンの血が入ることになりました。これが人間の原罪です。
統一教会の神髄、秘儀「血統転換」について
どのようにして人間はサタンの血という原罪を贖うことができるのでしょうか。
もう一つの聖典『天聖経』(説教集)で、文鮮明は次のように説いています。
聖酒式は、合同結婚式における中心的儀礼です。その儀式を通じて、人類に継承されたサタンの血が神の血へと変換され、人類の原罪が贖われるのです。
この秘儀「血統転換」こそが統一教会の神髄です。それゆえ、できる限りかみ砕いて説明します。
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