エクソシスト~悪魔祓いされた病気「抗NMDA受容体脳炎」とは

エクソシスト~悪魔祓いされた病気「抗NMDA受容体脳炎」とは

突然、気が狂ったように叫び、異常な行動を繰り返す少女。医者にも見放され、母は神父に悪魔祓いを依頼する……。1973年に公開されたホラー映画「エクソシスト」。アカデミー賞を受賞した本作品の少女の症状が、ある病気にそっくりだといわれています。それは抗NMDA受容体脳炎という自己免疫疾患です。
長らく原因がわからず、統合失調症などの精神疾患と間違われることも多い病気でした。しかし近年、原因となる抗体が判明し、早期診断・治療により予後が改善する、治療可能な内科疾患となったのです。

彼女が目覚めるその日まで~精神疾患と間違われた患者の運命~

2007年にアメリカで公開された「彼女が目覚めるその日まで」は、まさに抗NMDA受容体脳炎の実話に基づいた映画です。主人公はスザンナ・キャハラン21歳。もともと健康で、将来を嘱望されたニューヨーク・ポスト紙の女性記者でした。
しかし、ある日突然、けいれん発作をおこし、異常な行動を繰り返すようになります。普通に話せる時もあり、上司から仕事の能力がないと判断され、クビを通告されてしまいます。本人も精神疾患の可能性を考え、医師から処方を受けるのですが、いっこうに症状は改善しません。両親の強い勧めで入院し、精密検査を受けますが、頭部MRIや血液検査で異常がなく、原因は不明のまま。
やはり精神疾患と診断され、専門病院への転院を検討されます。その時、診断に違和感を持った主治医が、たまたま講義に来ていた脳炎の権威である医師に診察を依頼したことから話は急展開です。
まず、医師はスザンナに時計の絵を描くように指示します。すると、彼女は時計の片側半分にしか数字を書きません。それを見た医師は、大脳半球の片側だけの障害があることを突き止め、精神疾患ではありえない症状だと気づきます。精査のため、脳生検をおこない、抗NMDA受容体脳炎の診断をつけました。その後、治療により症状は劇的に改善し、仕事に復帰できたのです。

抗NMDA抗体脳炎の特徴は先行する感冒、急に起こる精神症状

典型的な抗NMDA抗体脳炎の病期は5段階に分けられ、それぞれの時期に特徴的な症状を認めます。主には精神症状のため、精神疾患として経過が見られているケースがあります。特徴的なのは、先行する感冒症状があること、急性に発症する精神症状があることです。重篤な場合は、中枢性低換気となり、人工呼吸器管理が必要となることも珍しくありません。予後は、完全回復が75%、死亡率は7%とされています[1]。

以下に、典型的な病期と臨床症状をまとめました。

解明された原因~抗NMDA抗体の発見~

抗NMDA受容体脳炎の原因とは、いったい何なのでしょう。最初にこの病気が報告されたのは、1997年の亀井らによる、卵巣奇形腫切除後に症状が改善した2例の急性辺縁系脳炎といわれています[2]。そして、2007年Dalmauらが卵巣奇形腫に関連する傍腫瘍性脳炎の原因が抗NMDA受容体抗体であることを報告しました[3]。こうして、今まで原因がわからなかった病気が、自己免疫疾患であることが明らかになったのです。
疫学的には、女性が81%、発症年齢中央値は21歳と若年に多いことがわかっています。腫瘍合併率は発症年齢により異なり、18-45歳の女性患者では58%に卵巣奇形腫を認める一方、12歳以下の小児や男性では腫瘍合併率が低いという報告があります。

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