人間の価値とは平面ではなく奥行きである ―藤本タツキ「ルックバック」を読んで―
「ファイアパンチ」や「チェンソーマン」の藤本タツキ先生って、尾田栄一郎・岸本斉史・久保帯人世代以来のとんでもない天才だと思ってて。
どっちの漫画もエンタメとしても非常に良く出来てるんだけど、台詞回しとか演出法がアングラのWeb漫画系というか、ある種の新都社的というか。
それが斬新かつ、組み合わせ方が天才的だなと。こういうことが出来るのは宮崎駿監督とか、新劇の庵野監督(シン・エヴァ最高だった)とか、その辺りかなって。
そんな藤本タツキ新作読み切りの「ルックバック」。
漫画を書くのが好きな主人公の女子小学生が、自分よりも圧倒的に上手い引きこもりの同級生と出会い、漫画家を目指す…ってなんとも「バクマン」チックなんだけど、さすがはストレートに投げてくるのに打席直前でとんでもないフォークだったみたいな作者なので、後半の展開においての衝撃は凄まじい。
ただ何も知らずに読めば「何だこれ?」ってなるかもしれないけど、1ページめ1コマ目の黒板に「Don’t」と書かれており、最後のコマには「In Anger」と書かれている。
これにタイトルを足すと「Don’t Look Back In Anger」とOasisの曲名になるわけだけど、この曲は現在Oasisを生み出したイギリスでは2017年に起きたテロ事件へのアンセムとなってるそうで。
で、まあネタバレになるけど今回の読み切りの内容は間違いなく「京アニ事件」をテーマにしてる。
この読み切りが発表されたのが19日。事件から丁度1年。
非常に凄惨な事件ではあるけど、当事者ではない我々は文字から想像しうる範囲でしかイメージできない。
それをこの読み切りでは、奪われた命の価値に奥行きを出してこちらにぶつけて来た。そうだそうだよ、亡くなった人の名前と年齢の先にはどこまでも続く奥行きが存在してるんだって。
そしてタイトルの(真の)意味での「Don’t Look Back In Anger」。
それを理解した上で前を向けって。そんな風に読み取れた。
何が言いたいか上手くまとめられないけど。語り終わらせられないもの。
それって。
本当に素晴らしいものというのは、「語り終わらない」ものだと思う。
説明できてしまうものではなく、いつまでもその意味や価値を語り続けることが出来るもの。
この読み切りも作者も、そういう次元の凄さを持ってるなって。
読んでない人は是非読んで欲しい。
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