見出し画像

土偶が植物?説にはある程度納得するが、本には納得感がない『土偶を読む』(竹倉史人著)

縄文界隈で話題になった(ている)本『土偶を読む』、簡単に言うと、「土偶は植物(や貝類)を象ったフィギュアだ」という本。著者はこれまでのどの説よりも土偶について整合性のある説明をしていると豪語する。

そんなふうに豪語したもんだから、あらゆる方向から批判が向けられ、でも「新説」としてもてはやされもするという現象が起きた。

というわけなので読まなければはじまらないというわけで読んでみた。

最初に端的な感想を言ってしまうと、この筆者の説には概ね好意的だが、本としては出来はいまいちというところだ。

土偶は植物のフィギュアか?

この本には土偶の9類型についてそれがなんの植物(や貝)を象ったものなのか丁寧に説明してあって、そのいくつかは「なるほどね」と思うものだったし、それ以外のものも「それもありえるね」とは思った。そういう意味で概ね好意的に捉えたのだ。

ただ、「ありえる説」でしかないということも言っておきたい。いくつかの土偶は実際に植物を象ったもので、豊穣儀礼や魔除けの儀式に使われたものかもしれない。でもそれですべての土偶が説明できるとは思わない。土偶が存在した数千年間に作られたすべての土偶が植物(や貝類)を象ったものであるなんていうのは感覚的に言ってもおかしいだろうと思う。

しかも、同じ類型の土偶でも時期と場所でその形状は大きく異る。そもそもはなにかの植物を象ったものであったとしても、時間と距離の隔たりによって本来の具体的な意味が失われ抽象的な意味合いを持つようになっていったということはあり得るだろうし、そうなると植物を象ったと言えるのか。

例えば、この本では栗をモチーフにしたとされる国宝の中空土偶「かっくう」によく似た東京都町田市出土の中空土偶「まっくう」は栗に似ても似つかない。

画像1

これがなにか別の植物を象ったものだとするなら、かっくうとの「感覚的な」類似をどう説明するのだろうか。

というわけで、植物をモチーフにした土偶があるというのは面白いし、新しい見方として土偶を見る楽しみが増えるのでその部分はよかったけれど、それで全部を説明しようとするのは無理だろうなーというのが正直な感想だ。

本としてまとまっていないという難点

説は面白く拝聴するのだが、全体としては、突っ込みどころというか、穴というか、「これどうなの?」と思ってしまうところが散見されるので、イマイチと思ってしまった。

確かに最後まで読めば全体的に言いたいことはわかるのだが、書く順番のせいなのか、途中では納得できないところが多々ある。

例えば、合掌土偶・中空土偶の章を読みながら「なんでこの人は栗という単一のモチーフにこだわるのか?」と思った。別に栗がモチーフで妊婦でもあるでもいいじゃないかと。でもここではあくまで「栗の精霊」にこだわったのだ。

にもかかわらず、縄文のビーナスのところでは、これはトチノミとマムシの2つのモチーフが合わさったものだと言い始めるのだ、ご丁寧に植物と動物がフュージョンしたゆるキャラまで持ち出して。

ここで私は「じゃあ先に説明してくれよ」と思った。それでいいなら、中空土偶を栗となにかの複数のモチーフが合わさったものだと解釈する余地が第2章の段階で示されたのにと。

こういう事が結構ある。

他にも、同じ縄文のビーナスのところで「本書の目的はあくまで土偶のモチーフの解明であるから、こうした土偶の用途論についての見解は、また稿を改めて発表するつ重りである」と書いてあって、この時点で「説明しないのかよ」と先ず思ったが、遮光器土偶(第9章)のところでは用途までしっかり説明する。第10章でその理由を説明しているのだが、第9章の時点では「なんでだよ!」と心のなかで突っ込んでしまった。

こういうツッコミどころがあることで全体として「納得できないなー」という思いを抱えながら読みすすめることになってしまい、その結果、説自体も説得力が弱まってしまうのではないだろうか。

これは邪推だが、この本は「土偶は植物のフィギュアだ」という新説をぶち上げるために急いで書いたために、細部はないがしろにしてもいいという判断が働いたのではないか。遮光器土偶の章を読む限り、一つの土偶について用途を含めてしっかりと説明すれば一つ一つはもっと納得できるものになったのではないかと思う。ただそれをすると膨大な時間と文章量になってしまうので、まずは見切り発車でぶち上げたのではないだろうか。

なので、次はぜひ個々の土偶についてしっかりと資料をあげて、疑問点を一つ一つ潰していくように説明する物を書いてほしい。そうすることのよってしか、この植物モチーフ説が定説化していく道はないだろう(まあならないとは思うけど)。

画像2

最後に、この本を読んで、自分が土偶に惹かれる理由とはなんだろうと改めて考えた。この本には似ているという「感覚」を大事にしていると書いてあった。惹かれるというのもまた感覚で、その感覚の背後にはその理由があるはずだ。

でもわからなかった。そして、もしかしたらこの著者のように一つの土偶をじっくりと眺めて、そこに何が見えてくるかを考えてみたら、その理由がわかるのかもしれない。そしてそれはまた新たな説を生み出す源になるかもしれないと思った。




この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?