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「だから、偶然じゃない」 (リーグ第2節・鹿島アントラーズ戦:2-1)

「鹿島というところを越えていかないとタイトルは取れないと思ってます」

 鹿島戦に向けて、毎回のように鬼木監督が口にしている言葉です。

J1に復帰したばかりの川崎フロンターレは、鹿島戦に向けて「K点超え」なるプロモーション企画をしていました。フロンターレが越えていかなくてはいけない壁が鹿島アントラーズという存在であり、こうしたマインドをクラブ全体で強く持っていたと言えます。

 ピッチに目を向けると、このカシマスタジアムでのゲームは、いつもタフなゲームになります。例えば2017年の試合後のこと。カシマスタジアムで勝利を収めたミックスゾーンでの中村憲剛はこう口にしていました。

「必然的に燃えるよ。ここでは闘わないと勝てないから」

 戦うのではなく、闘う。
単に技術で相手を上回ることだけではなく、その球際で負けないことが勝敗を左右する。それが鹿島とのゲームで刻まれてきた歴史だというわけです。

この日の試合も、負け試合になっていても、何らおかしくなかった展開だったはずです。でも、そういう試合を勝ち切る側になった。それも10人になってもしぶとく、そして劇的に。勝敗は常に紙一重だけど、この差が本当に大きいんです。

 戦術面でのチームスタイルを確立することもそうですが、川崎フロンターレというチームの歴史に足りなかった「勝負強さ」というメンタリティーが発揮できるようになったのは、鬼木監督の最大の功績だと言って良いと思っています。

 この鹿島アントラーズ戦に向けて、鬼木達監督が選手たちに伝えたのは「開幕2連敗しないこと」ではありませんでした。

それよりも、開幕戦での「負け方」に思うところがあったのでしょう。強調したのは「簡単に負けてはいけない」という、目の前の勝負にこだわる姿勢の部分だったんです。

「簡単に負けるということは、あってはならないと思っています。それは鹿島だからというわけではなくて、前節のマリノス戦も含めて、そういう話はしています。もちろん、負けたくて負けているわけではないですが、簡単にと言いますか、いろいろなチャレンジをしているからといって勝負を度外視していいわけではありません。勝負にこだわることは常々話していますし、今回もそうです」(鬼木監督)

 新しいことにチャレンジしている以上、どうしてもエラーはつきものです。それは新しいことをやる上でのコスト、必要経費みたいなものでしょう。とりわけ、シーズン序盤には特にそういうエラーが起きがちです。でも、だからと言って、簡単に相手に屈してはいけない。

 連敗が少ないことからわかるように、鬼木監督は負けた後のチームマネジメントが非常に巧みな指揮官です。この試合も立ち上がりに失点したことで、選手たちにとっては早い時間帯から難しい構図になっていました。それでも諦めずにやり続け、10人の数的不利になっても気持ちを下げない。そして追いつき、最後にはゲームをひっくり返しました。

 試合後のミックスゾーン。
いつもは冷静に言葉を並べてくれる脇坂泰斗が、少し興奮しながら勝因を語ってくれる姿が印象的です。試合終盤、すでにベンチに下がっていた彼は、あの苦境であっても勝てるとチームを信じていたと言います。

「諦めてなかったです。それは僕だけじゃないと思います。絶対にワンチャンスあると思っていました。追いついた後も、あの状況なら勝ち点1でもいいと思うかもしれない。でも自分たちは絶対に勝つ。その姿勢がベンチもそうだし、サポーターもそう。ピッチに立っている11人(実際には10人)がそれを表現してくれたことで、ああいうPKにも繋がった。あれは偶然じゃないなって思います」

 タイムアップの笛が鳴り響いた後、記者席でうまく感情が追いつかなくなる感覚を味わうゲームは久しぶりです。

そんな偶然じゃない逆転劇はいかに生まれたのか。たっぷりとレビューしていきたいと思います。

なお、プレビューはこちらです。

では、スタート!
※2月28日分で追記していますので、忘れずに読んでおいてください!!

■「視来くんのところが2対1で、自分がスライドした。自分ももっと寄せないといけなかった。そこは個人的な反省としてあります」(脇坂泰斗)、「失点してしまったけれど、前の選手が決めてくれると思っていたので、これ以上はやられない。同じ形で失点しないように」(大南拓磨)。試合の構図が決まった知念慶からの恩返し弾。残り85分の試合運びに与えた影響は?

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