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「NOT FOUND」 (リーグ第7節・ガンバ大阪戦:0-2)

 パナソニックスタジアム吹田でのガンバ大阪戦は0-2。

2点ビハインドの展開で、60分に車屋紳太郎の退場も加わり、非常に苦しい戦いとなりました。しかも試合終盤は足を痛めた田邉秀斗も続行不可能となり、最後は9人での戦い。

VARに助けられた場面もあり、大量失点していてもおかしくない展開だったと思います。それでも集中力を切らさず、ゲームを壊さず、希望も捨てず戦い続けました。

 しかし負けは負けです。この日、放ったシュートは4本。枠内シュートは0です。鬼木達が指揮官に就任した2017年以降、枠内シュートなしは初めてだったそうです。


試合後のミックスゾーンは、重苦しい空気が漂いました。負けた試合の取材は、いつも難しいものです。勝ち負けもありますが、決定機が作れなかった負け方に、選手も心の折り合いがつけにくいゲームだったかもしれません。

負けた時ほどどんな表情で何を語るのか。それをしっかりと見つめなくていけませんし、それを忘れないでおこうと思うようにしています。

そんな中で口を開いてくれたのが、ベテランGKチョン・ソンリョンでした。数的不利の状況で、決死のシュートストップも見せました。あの展開でどんな希望を持って守り続けたのか。彼は言います。

「あの状況でも最善を尽くすしかなかった。時間が少しでもあったので、1ゴールでも入れば何かが起こるかわからない。シン(山田新)、ダミアンが入ってきて、何か起こりそうな雰囲気もあったのですが・・・」

あれだけ困難な状況でも最後の最後まで勝負を諦めなかった。彼はそれをピッチで見せ続けてくれました。

試合内容について語っていきましょう。

個人的に、この試合で注目していたことがあります。

それは、鬼木監督が「攻撃をどうデザインするのか」です。

プレビューでも触れたのですが、「誰が出るのか」、「どの組み合わせなのか」という部分よりも、もっと大枠のところを注目していました。それが「攻撃をどうデザインするのか」という意味です。

 現在の鬼木フロンターレは、攻撃のデザインの変更を余儀なくされたチーム状態になっていると自分は認識しています。

 一番の理由は、左サイドで突破口を作る「槍」となっていたウイングのマルシーニョが全治8週間の離脱となったからです。推進力のあるマルシーニョがいなくても、左にウイングを置く4-3-3システムや4-2-3-1システムを継続するには、同じドリブラータイプをサイドに配置する必要があります。

 ただ左サイドのウイング候補になるのは、瀬川祐輔、遠野大弥、チャナティップ、名願斗哉。その中でドリブラータイプと言えるのは名願斗哉だけでしょう。ルヴァンカップ・清水戦で先発しましたが、戦術理解度、切り替えや強度の部分などでまだ難しい部分があります。プロに年齢は関係ないとはいえ、高校卒業したばかりの新人に多くの基準を求めること自体が酷でしょう。

では幅と深さを作れるドリブラーなしで、どうやって攻撃をデザインしていくのか。

 マルシーニョ不在となった最初の試合である前節のコンサドーレ札幌戦では、ゼロトップシステムを鬼木監督は採用しました。家長昭博をワントップにし、右サイドに山田新、左サイドに宮代大聖を配置。札幌がマンツーマンディフェンスを採用していることを逆手に取った攻撃をデザインしたんですね。

 札幌は人に付く守り方をするので、サイドで幅と深さを作らなくても、人さえ動かせば場所が勝手に空くからです。実際、宮代大聖は攻撃時は左サイドエリアにあまりいませんでした。家長昭博の動きで引きつければ札幌の守備陣は中央を空けていたので、両サイドの山田新と宮代大聖で、空いたを真ん中を攻略していく攻撃でした。この狙いは奏功し、結果的に4得点を奪っています。

 同時に、これは札幌がマンツーマンディフェンスだったから成立した攻撃であって、再現性や継続性のあるデザインとは言い難い部分がありました。

 じゃあ、次はどうするのか。

その意味で興味深かったのが、その後のルヴァンカップ・浦和レッズ戦。左サイドにドリブラーがいないならば、右サイドに突破力のあるドリブラーを置く、というのが鬼木監督の回答だったとように感じます。

 具体的にいうと、永長鷹虎ですね。

彼が右サイドで幅を取り、相手の陣形を広げる動きをしながら、突破力を見せたことで、言うなれば「右のマルシーニョ」と同じ役割を果たしました。なので左サイドの瀬川祐輔は、アタッカータイプではなくとも攻撃に支障はなかったわけです。左右の役割を入れただけで、攻撃のデザイン自体は、従来のチームのものと同じ枠組みでした。

 これを踏まえて、このガンバ大阪戦はどんな顔ぶれにするのか。
結論から言うと、札幌戦とも浦和戦とも違う組み合わせでした。

右ウイングは永長鷹虎ではなく、レギュラーである家長昭博がスタメンに復帰。ワントップに宮代大聖で、左サイドはアタッカーの遠野大弥、中央のトップ下にチャナティップ。幅と深さを作れるドリブラータイプはサイドに置きませんでした。

 じゃあ、どうやって攻撃をデザインしていくのか。

まずこの日のフロンターレはボールを握ります。開始直後から良い距離感とリズムのボール回しと細かいパスワークで保持を高めていきます。

 中央のトップ下で起用されたチャナティップはガンバ大阪のアンカーであるネタ・ラヴィの両脇にできるスペースでボールを引き出しながら、右サイドで攻撃のポイントを作る家長昭博と山根視来と絡んだ崩しを見せています。

 そして左サイドの遠野大弥は、左サイドで幅を取る動きよりも、サイドからゴール前に入っていく動き出しを意識していたように見えました。アタッカーとして、フィニッシュワークを任されている印象です。

7分、ボールを運んだ山根視来のスルーパスに鋭い動きを見せた遠野大弥が、うまく抜け出してシュート。これはGK谷晃生に弾かれるも、こぼれ球に詰めていたのは宮代大聖。結果的にオフサイドだったのでシュートにはカウントされなかったものの、この日の攻撃の狙いが出たワンシーンだったはずです。

つまり、「右で攻撃を作って、左から中央に入った遠野大弥で仕留める」が大枠で、さらに「トップの宮代大聖も厚みを加える」。ざっくり言うと、そういう攻撃のデザイン設計だったように見えます。

 試合後のミックスゾーンで、遠野大弥を呼び止めて、攻撃の狙いを聞かせてもらいました。

「幅を取るところは取って、タイミングで中に入っていく形で間をとって受けて、そこからゴールに繋げていく。そこは意識していました」

 彼の言葉にあるように、「タイミングで中に入っていく形」は良かったと思います。オフサイドになった7分の場面以外にも、遠野大弥は宮代大聖を飛び越して、左サイドからDFラインの背後に精力的に顔を出していました。

22分には、遠野大弥が中央で最終ラインの背中を取ることに成功。ボールを浮かしたトラップからシュートに持ち込もうとするも、それが大きくなってしまい、GK谷晃生に処理されてしまった。ただトップの宮代大聖が降りて生まれたスペースを遠野大弥はうまく使おうとしていたと思います。

 ところが、この攻撃の狙いは、徐々に機能しなくなっていきます。

 なぜだったのか。

※4月12日に追記しました。→■「もどかしいですか?」。これまでとは違う等々力を見てきたキャプテン・橘田健人に聞いてみた。

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