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「太陽がまた輝くとき」 (リーグ第5節・セレッソ大阪戦:0-0)

等々力陸上競技場でのセレッソ大阪戦は0-0のスコアレスドロー。

アウェイでの0-0は年に一度ぐらいはあるのですが(去年だと第14節・サガン鳥栖戦)、等々力での0-0は久しぶりですね。調べてみたら、2020年の開幕戦(サガン鳥栖戦)以来だそうです。サガン鳥栖ばっかりかい。

得点はなかったものの、チームとしては今季公式戦6試合目にして、初の無失点試合となりました。

この日の川崎フロンターレは4-3-3システムではなく、チャナティップをトップ下で起用する4-2-3-1システムを採用。守備の時はハイプレスではなく、4-4-2気味にブロックを構えてミドルゾーンでボールを奪うという狙いで守備をしています。

 ダブルボランチにしたことで守備のバランスに安定感を加えたというのもありますが、それを差し引いてもこの日の最終ラインのセンターバックは「急造」でした。大南拓磨は今季から加入した選手ですし、田邉秀斗は今週から復帰したばかりの選手です。現在の台所事情を考えると、無失点という結果は明るい材料として評価できるところです。

試合後、田邉秀斗は「千葉でやっていたことをそのまま出せばやれる自信はありました。今までとは違うことをしようとは思わなかった」と述べています。自分のやれることをやる。弱冠20歳の若者はそんな心構えでプレーしていたのだと思います。

 もちろん、パーフェクトだったわけではありません。
前半には山中亮輔のクロスの軌道を見誤り、加藤陸次樹をマークできずにフリーにしてヘディングを打たれていますし、後半にはロングボールの処理に手間取り、相手に入れ替わられています。本人も反省の言葉を口にします。

「一回、風に乗ったロングボールの処理をミスってしまい、相手との一対一を作ってしまいました。失点しなかったものの、ああいう雰囲気を作ってしまったら相手も(勢いに)のられるかもしれない。ああいうのは自分が突き詰めていくべきだなと思います」

 抜け出した毎熊晟矢をもし後ろから倒してしまっていたら、DOGSOだったに違いありません。それぐらいの完全なる決定機でした。

 ただ、若手のミスはベテランが支えました。
38歳のチーム最年長であるチョン・ソンリョンが見事な飛び出しでコースを狭め、この至近距離からのシュートを右手一本でかき出しています。

 思うに、DFラインというのは選手の能力ももちろん大事ですが、チームの中で長く培ってきた呼吸のようなものもあります。長くゴールマウスを守るソンリョンにとっても、今シーズンは日替わりのように毎試合センターバックが入れ替わる難しさがあるはずです。特にこの日、目の前にいるセンターバックコンビは、今季から加入した大南拓磨と、今週から復帰したばかりの田邉秀斗。去年まで組んでいた谷口彰悟とジェジエウとの熟練度の差は明白です。

 でもあの場面、ソンリョンは迷うことなく飛び出して防ぎました。この判断がさすがでした。

田邉秀斗が入った最終ラインとの関係では、どんな心構えで臨んでいたのか。試合後のミックスゾーンで尋ねると、彼はゴールキーパーとしてのスタンスをこう明かしてくれました。

「田邉秀斗とは千葉に行く前からやってますから。お互いを信じながらも、でも何が起きるかわからないので(笑)。天気で(ピッチも)スリッピーで、どういうことが起きるかはわからないですが、GKはどういうシチュエーションも準備しないといけないですから」

これをサラリと言えるところに、ソンリョンの凄みと哲学があります。映画「シン仮面ライダー」なら「自分は用意周到な男ですから」と言っていそうな場面でした。

試合後の田邉秀斗は、隣にいた登里享平からは「全部カバーするからっていう風に言ってもらいました」と明かしています。あれだけ積極性を持ってやれたのは、隣にはノボリという声で積極的にサポートしてくれる存在がおり、後ろにはソンリョンという寡黙な大ベテランがしっかりと控えてくれていることの安心感もあったのだと思います。

一方で得点を奪えなかった事実にも目を向けなくてはなりません。これでリーグ戦2試合連続無得点。そこに危機感を強めている選手ももちろん多いです。今回はそうした現状と改善策を見据えたレビューになっております。

■(※追記:3月23日)「ああいう自分を入れた中で数的優位を作って相手を引き出したりして、流動的に押し込む時間帯を作れれば、相手の陣形も崩せる」(登里享平)、「試合後、バスに戻った時に話しましたね。ノボリさんとバスが隣だったので、映像を見ながら話しました」(山田新)、「試合を見たら、ノボリさんのプレーを見たらまだまだ足りないなと思いました」(佐々木旭)。左サイド崩しのヒントと改善策。そして刺激を受けたアサヒ。

なおプレビューはこちらです。


ではスタート。

■「今までとはシステムが違い、真ん中で2枚のボランチという形でした。前から行く時よりもセカンドボールを拾えると思っていたし、うまく拾えた部分もありました」(橘田健人)。先発5人の入れ替えにあった準備と狙い。

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