「たとえあの場でぶっ倒れても」 天皇杯準々決勝・アルビレックス新潟戦:2-2(PK:4-3)
デンカビッグスワンのミックスゾーンは、スタジアムの選手出口からチームバスに乗るまでのエリアの動線に設定されている。
要はスタジアムの外に設置されているのだが、試合後の選手たちが出てくるまでの間、記者陣はそこで立って待機していることになる。
困惑したのが、その暑さだ。
記者席のあるエリア(4階)に比べて、かなりの蒸し暑さを感じる。湿度が高くて、その場に立っているだけでも、すぐに汗が出てくる。スタジアムの構造上の問題なのか、ほとんど無風である。周囲にいた川崎の取材陣も、口々に「これ、ちょっと暑すぎないですか?」と漏らしていたほどだった。ちょっとした息苦しさを感じるほどの蒸し暑さだった。
公式記録によれば、キックオフ時の気温は30.1℃、湿度は80%。
これは試合翌日のオンライン取材でのことだが、鬼木達監督はこんな感想を漏らしている。
「今までの中でも一番暑かったんじゃないかな。自分自身もベンチにいて、あれだけ汗をかいたことはあまりないですし、水を体にかけながらっていう感じだったので」
鬼木監督がそこまで言うのだから、ピッチレベルは本当に過酷な環境だったに違いない。こんな過酷すぎる環境で両チームの選手たちは120分に渡ってボールを追いかけ続けたのかという事実に、ただただ頭が下がる思いだった。
数分後、ミックスゾーンに選手が現れ始めた。
自分が呼び止めて最初に話を聞いたのは山村和也だった。
どんな死闘の後でも、この人はいつも涼しい顔をしている。
この日は延長後半から6人目の交代選手として出場すると、チームは山村和也を中心に置いた3バックにシステム変更している。自身の役割をこう振り返る。
「みんなも疲れてたので、ラインのコントロールと、下がりすぎないようになるべくしようと思っていました。最後の最後、ちょっと押し込まれてしまったので、そこはもう少しラインを整えながら前に出して行ければよかったです」
山村投入による3バック変更は、試合の流れを変えた采配だった。再び前線からの守備がハマり始め、相手にロングボールを蹴らせる選択をさせてボールを回収。延長後半開始3分後の108分には、山田新の逆転ゴールも生まれている。
これは、タイミングを見極めた中での「勝負手」だったと鬼木監督は明かしている。
「ラストのところで点を取り行くというところも含めて、前線に人がいた方がいいところと、あとは5枚であればスライドのところも少し負担も減るかなというところですね。早く元気な選手を入れたいという思いと、でも勝負どころなので、そこに来るまでちょっと我慢しなきゃいけないかなというところで、(延長後半開始の)こういうタイミングで入れました」
この山田新の得点場面を巻き戻していくと、興味深い事実に気づく。
最終ラインのビルドアップで、右ウイングになった山根視来にボールを預けると、中央にいた山村和也がスルスルとゴール前に上がって行っているのである。
ゴール前まで運んだ山根視来は、斜めのクサビを小林悠の足元に入れている。舞行龍ジェームズを背負いながらキープしようとしたボールはこぼれてしまったが、それに素早く反応して回収したのがこの時、バイタルエリアまで上がっていた山村和也だった。
再びボールを受けた小林は、少し下がってキープして十分な時間があった。ゴールゲッターではなくクロッサーになっていた11番は、ゴール前に入り乱れている敵味方の配置と動きを、蹴る寸前に冷静に見極めていた。
「相手のディフィンスラインがグッと下がるのは分かったので。瀬川もいたのかな。シンともう1人(遠野大弥)がいたのが見えて。手前に落とした方がチャンスになるかなと思ったので、あえて敵の下がる手前に落としました。シンが良いトラップから決めてくれたので、よかったなと思います」(小林悠)
トラップから素早い振り足で決めた山田新のゴールは「よくぞ決めた!」と賞賛の言葉しかない。それと同時に、なぜセンターバックの山村和也があの位置までスルスルと上がって行ったのかを知りたかった。
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