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「There will be love there -愛のある場所-」(リーグ第12節・サガン鳥栖戦:1-0)

話はサガン鳥栖戦の四日前、前節・京都サンガF.C.戦後のミックスゾーンにまでさかのぼる。

劇的な勝利にホッとしながらも「悔しさもあります」と少しの笑みを漏らしていたのが脇坂泰斗だった。

「自分が勝たせたいという思いはあったんですけど、それをさらに上回る人がいた(笑)。自分にはそういう悔しさもあります」

ここ最近はキャプテンマークを任されていることもあり、試合前の円陣で脇坂泰斗が声を出していることも多い。このときの京都戦ではこんな声がけをしたという。

「今日は連戦だしアウェイ。総力戦という意味では、『来れなかったメンバー、仲間の想いを背負って戦って帰ろう』。そういう声がけをしたし、そういうゲームだと思いました」

 だからこそ、キャプテンマークを巻いている自分がチームを勝たせる。そういう強い思いを持って、背番号14はゲームに臨んでいた。

 その京都戦では前半には一度、自らゴールネットを揺らしている。

ジョアン・シミッチからの縦パスを受けると、アンカー脇からドリブルでペナルティエリア内に侵入。中央で横パスを受けた宮代大聖が強引にシュートし、そのこぼれ球をゴール前で詰めていた脇坂が流し込んだのだ。

 しかし、オフサイドの判定となりノーゴールに。スローで見ると、宮代大聖がシュートを打つ瞬間、わずかにオフサイドラインを超えていた。

「(オフサイドは)全然ないと思ってました。(「ないよ!」のジェスチャーをして)恥ずかしいです(笑)」と笑っていたが、ゴール前に入って仕事ができるようになってきたのは復調の兆しだ。

もしあれが決まっていれば、脇坂泰斗がこの試合のヒーローだった可能性も十分にあった。ただヒーローになり損ね、美味しいところを小林悠先輩に持っていかれたのである。だから、彼は悔しがっていたのだ。

 そして等々力陸上競技場でのサガン鳥栖戦。

試合後のヒーローインタビューを受けていたのは脇坂泰斗だった。

「大聖がボールを受けに行ってそのフリックを受けようと思ったんですが、(ボールが)抜けてきたので、あとはゴールキーパーの動きを見て冷静に流し込めて良かったと思います」

 前回のホームゲームだった浦和レッズ同様、後半開始間もない時間帯の家長昭博からの右からのクロスだった。それを胸でコントロールし、GK朴一圭の動きを見極めながらしっかりと決め切った。

これがリーグ戦ホーム初勝利を生む決勝弾となっている。

このゲームを振り返って見ると、ポイントは中盤にあったと思う。

サガン鳥栖の中盤には森谷賢太郎がいた。脇坂泰斗と瀬古樹とのインサイドハーフコンビは、鳥栖の河原創と森谷のダブルボランチと噛み合う形で、中盤の駆け引きを繰り広げている。

2013年から18年まで川崎フロンターレに在籍していた森谷にとって、この日の中盤でマッチアップした脇坂泰斗は、ルーキーイヤーだった2018年の時代を知る存在でもある。そして、この試合では脇坂泰斗が決勝弾を決めた。

 試合後、中盤での駆け引きについて聞くと、対峙した脇坂の成長に舌を巻いたようで、森谷は素直に褒め称えていた。

「僕が一緒にやっていた選手だと、ヤス(脇坂泰斗)とかリョウタ(大島僚太)がそう。久々に駆け引きでやり合っている感覚はありました。ヤスにしても、僕がいたときは全然出ていなかった。そこからこれだけの素晴らしい選手になって、本当に考えながらやっているからこそ、こういう選手になったと思う」

森谷からのこの言葉は脇坂泰斗には伝えていないが、きっと嬉しいのではないだろうか。

※5月9日に追記しました。→■(※追記:5月9日)「戦術も含めてディフェンスと話すことが多かったんですよ。どういう動きが嫌で、どういうタイミングで来られると嫌かとか、タシくん(田代雅也)とも多く話していたんで」(宮代大聖)。宮代大聖にとっての古巣戦。かつての同僚・田代雅也とのマッチアップで感じたことは?

※追記その2→■(※追記:5月9日)「残念ながら、相手がゴールを少しずらして自分のゴールを生まれないようにしているので(笑)。次は決めたいと思います」(ジョアン・シミッチ)。なぜミドルシュートが増えているのか。シミッチの中で変わり始めたチャンスとバランスの話。

■「自分に来るということは後ろが一対一になるということ。僕を使うよりは、一個飛ばしてくれという話をしていた」(山根視来)。鳥栖のハイプレスを逆手に取るために。チームで共有していたスタンスと狙いとは?


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