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「雨と涙と物語と。」 (リーグ第17節・名古屋グランパス戦:2-1)

試合前の選手紹介が終わると、小降りだった雨が急激に強くなり始めた。

選手入場が始まる頃には、ピッチを叩きつけるような豪雨だ。遠くからは雷の音も聞こえてくる。

 おいおい、大丈夫か。

このタイミングで試合を始めなくても良いんじゃないか。記者席からそんなことを思っていたら協議が入ったようで、入場の準備で整列していた両チームの選手たちがロッカールームに戻っていったようだった。

 キックオフ時間を10分遅らせるとのアナウンスがオーロラビジョンに表示される。これによって試合直前で緊張感の高まっていたスタジアムに、少し穏やかな空気が流れたように感じた。

 そんな少しのざわめきの後、Gゾーンのエリアからは沈黙を破るようにチャントが歌われている。開始をじっと待つことを選択した名古屋サポーターとは対照的に、フロンターレのサポーターは豪雨に負けじと、次々とメドレーでチャントを歌い続けたのだ。

 沈黙するのではなく、チャントを歌い続けることで気持ちを切らさない。等々力の熱も下げない。そんな意思を感じる、雨の中のチャントだった。

 一方で、選手たちはこの10分の空白をどう過ごしていたのか。

 キャプテンの脇坂泰斗に、「あの10分の間、何かチームに声をかけたのか」と試合後に尋ねてみた。

 いつもとは違うルーティーンによる準備で試合に向かうことになったようだが、それによってチームにもまとまりが出たと彼は明かした。

「僕から声をかける前に監督をはじめ、コーチングスタッフから声がけがありました。人工芝のところでみんなでまとまって、円になって動いていました。いつもはスタメンとサブの選手でバラバラになるのですが、円陣みたいな形で『いくぞ!』となった。そこで仲間からもらえたパワーはいつもより違うものになりました」

 そのパワーは開始早々に表現される。

キックオフ直後の30秒。右サイドバックで出場した大南拓磨が駆け上がって素早くクロス。跳ね返りが自分に当たりコーナーキックとはならなかったが、上々のゲームの入りだった。この日がJリーグ通算150試合目となった大南は言う。

「いいリズムで試合に入れたと思いました。自分としては良さを出すこと、シンプルにやることを心がけていました」

 大南が言う「シンプル」はこの日のキーワードでもある。

先制点につながるコーナーキックも、右サイドからのシンプルな攻撃から。家長昭博と大南拓磨のパス交換で相手の陣形を食いつかせて、センターバックのジェジエウが空いたスペースに縦パス。最前線のバフェティンビ・ゴミスに通り、このチャンスが最初のコーナーキックにつながった。

 瀬古樹のピンポイントキックに高井幸大が競り勝ち、そこに家長昭博が頭で飛び込んでゴールネットを豪快に揺らした。開始わずか6分。デザイン通りだっただけです、と試合後の家長昭博は事もなげに言う。

「練習であそこをすらしてくれるというのをやっていたので、信じて入っていきました」

 電光石火の先制弾。これでリーグ戦は7試合連続得点だ。

 しかし、本当の戦いはここからである。

なんだか少年漫画の最終回の煽りみたいだが、現在、チームの抱えている課題はリードした後の戦い方にあったからだ。

※6月5日に、後日取材による山本悠樹に関するコラムを追記しました。名古屋戦終盤に出場したものの、守備に追われる展開で、彼の持ち味が出た場面はほとんどありませんでした。あの時間帯を本人はどう感じていたのか。さらに話題は、アスリート化が急激に進む現代サッカーとの向き合い方に。山本悠樹のような線の細いタイプはこの時代をどう生き抜いていくのか。そんな話にもなりました。ぜひどうぞ。

→■(※追記)「難しいところですけど、良さは消えないようにしたいと思います」(山本悠樹)。少し苦い表情で振り返った名古屋戦。アスリート化の進む現代サッカーで見つける山本悠樹の生きる道。

※6月6日、麻生取材から山内日向汰に関するコラムを追記しました。自分が一番尋ねたかったのは、この2ヶ月の取り組みや姿勢についてです。初スタメンだった4月の町田戦は前半で交代。悔しさしか残らなかったであろう町田戦と、名古屋戦で見せた輝き。この2ヶ月の間、サッカーに対する取り組みや向きあい方にどういう変化があったのか。何か変えたことはあったのか。そこを尋ねてみると、単に自分の武器を磨くのではなく、むしろ武器を出すための準備の取り組みにあったことがわかります。そう思うと、あの股抜きヒールや切り返しのドリブル突破も、また違った視点で見えるのではないでしょうか。そんなコラムです。

→■(※追記その2)「そこに至るまでの受け方という部分は、すごく自分自身が成長した部分であると思うので」(山内日向汰)。悔しさしか残らなかった町田戦から2ヶ月。山内日向汰を変えた取り組みと、あの股抜きヒールにあった物語。

※6月8日、麻生取材から名古屋戦の起用と采配に関する、ふとした疑問を鬼木監督に聞きました。そこまで重要ではないので会見の場ではわざわざ聞かなかったものの、少し気になっていた部分です。例えばスタメンのバフェティンビ・ゴミスは、これまでは60分前後に交代していましたが、ほぼフルタイムで出ています。あの時間までゴミスを引っ張るようになったのは、単に本人のコンディションがそれだけ上がってきているのか。あるいは、戦術的に外せない展開だったので残していたのか。はたまた、両方なのか。そういう采配について3つ、聞いております。

■(※追記その3)「日向汰で行くってなったのも最初から決まってたわけじゃないので」(鬼木監督)。名古屋戦の起用と采配に関する、3つの素朴な「なぜ?」。指揮官に聞いてみた。


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