「一番近くて遠いもの」 (リーグ第22節・ジュビロ磐田戦:2-2)
試合後のミックスゾーン。
傍目からも憔悴していたチョン・ソンリョンを呼び止めて最後の失点場面を聞くのは、正直、心苦しい部分もあった。
しかし、聞かないといけない。
勝負の恐ろしさが凝縮されたようなあの瞬間、彼の中で何が起きていたのか。それは選手本人に聞かないとわからないからである。
これまで見たことのないほど鎮痛な表情で応じてくれた彼は、「引っかかってあの状況が起きてしまった。申し訳ないと思います」と言葉を絞り出した。
ミスが起きた場面というのは、いくつかの理由があるものだ。
プロがピッチでミスをするときは、判断のミスが起因することが多い。選択肢が多くあって判断が遅れてしまうときもあれば、選択肢がないことで判断が遅くなってミスが起きてしまうこともある。あるいは、選択肢が1つしかなくて、その判断を消されてしまったときもミスは起こりやすい。
あえて考えれば、咄嗟に判断を変えたことによる迷いから生じたミスだと思っていた。
佐々木旭が下げたボールは、足に当てたというよりも、GKへのバックパスとして見なされる分類のプレーだ。そこでキャッチではなくキックに切り替えようとした際に、一瞬の躊躇があのミスを引き起こしたのだろうか。
そこを尋ねると、違うと返ってきた。「最初からキックです。引っかかりました。滑りました」と、ピッチに足を取られてもつれてしまったジェスチャーを示してくれた。
要は単に技術的なものであり、端的に言えば、フィジカル的なミスによるものだった。不運としか言いようがないし、その事実に対して続ける言葉が、自分もうまく出てこない。なので質問ではなく、「どう受け止めたらいいんだろう」とこちらの正直な感想を漏らすと、彼は「起きてはいけないことだと思います」と無念さを滲ませていた。
引き分けを告げるタイムアップの瞬間、下を向くソンリョンに真っ先に駆け寄ったのは、新人の山内日向汰だった。その後も、チームメートは代わる代わるにソンリョンのもとに駆け寄っている。
みんな知っているのだ。彼がこれまで幾度となく体を投げ出して、チームのためにゴールを守り抜いてきてくれたことを。
今年4月のこと。0-0で終わった日産スタジアムでの試合後のミックスゾーンで、「グラウンドで死ぬ思いで覚悟を持って試合をしています」と、黒いテーピングを巻いて試合に臨んでいることを明かしている。それだけの思いを秘めてゴールマウスに立ち続けていても、あの土壇場で起きてはいけない不運が起きてしまった。
それでも、彼はなお次の試合に視線を向けて言葉を続けた。
「終わってから味方が『大丈夫だ』という話をしてくれました。試合もまだまだ続くので。最近の試合はずっと引き分けていますが、内容的にも良くなっている。切り替えるしかないと思います」
試合後、選手たちがゴール裏に挨拶に向かうと、サポーターからは小さくないブーイングが選手たちに飛んでいた。中心部分はフロンターレコールだったが、それ以外のエリアからは強めのブーイングが聞こえてきた。フロンターレのサポーターは、滅多なことでない限り自軍の選手たちに向けてブーイングはしない。
自分の知る限りではあるけれど、鬼木フロンターレになってから、あれだけまとまったブーイングが試合後の選手たちに飛んだのはおそらく初めてではないかと思う。あれをどう受け止めるべきだったのか。考えさせられる光景だった。
では、試合の振り返りを。
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