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「さもなくば誰がやる」 (リーグ第23節・ヴィッセル神戸戦:0-1)

どう考えても難しい試合展開だった。

 37分、大南拓磨に提示された妥当なレッドカードによって、ピッチにいる川崎フロンターレの選手は、ヴィッセル神戸の選手たちより一人足りない状態になっている。

直後に喫した失点も、当然、重くのしかかる。

それでも、川崎フロンターレの選手たちは負けの言い訳を探したりはせず、貪欲に1点を奪うために戦い続けた。

 何かを変えてやろうとする意思を、誰よりも強烈にみなぎらせてプレーしていたのが脇坂泰斗だった。チームの全てを引き受けたようなあの頑張りは、背番号14にふさわしい振る舞いに見えた。

 75分。自陣からボールを持った脇坂泰斗は、齊藤未月と山口蛍の二人が立ち塞がっていた真ん中を強引に突破。さらにカバーに入っていた本多勇喜の逆を突いて抜き去っていった。

 圧巻の三人抜きである。

等々力のボルテージがグッと上がった瞬間だった。

 脇坂泰斗はドリブルがそれほど得意ではない。

でも、自分で道を切り開こうとしていた。自分好みの舞台を誰かがお膳立てしてくれるのを待つのではなく、自分の力強い意思で突き進んで勝敗を決める。そんな凄みすら感じる突破に記者席で僕は痺れてしまった。

限界を超えているような彼の頑張りだったが、結果的に報われなかった。

だが記憶には残る。

試合後のミックスゾーン。

何人かの記者に囲まれている中でのやり取りで、「外から見ていると、凄みが感じられるぐらいのプレーだった」と伝えた上で、「何か自分の中で、やらなきゃという思いがあったんだろうか」と本人に尋ねた。

「それは常にあるんですけど」と前置きした上で、脇坂泰斗はこう述べた。

「今日、勝たせられなかったっていうのは自分の責任だと思う。もっともっと、チームを引っ張っていく作業とか質を高めていく作業をやっていくしかないなと思っています」

―-自分の責任。

かつてラモス瑠偉も、名波浩も同じことを言っていた記憶がある。

 往年の彼らが、自分がチームをコントロールして支配していると自負していたから、試合に負けたら、全て自分の責任だと感じていたと言っていた。監督でもなければ、ビッグチャンスを外したストライカーでもなく、負けたらそれは「自分の責任だ」と。そこまで責任を背負い込む感覚があるだけの中心選手だからであり、それはかつての川崎フロンターレでいえば、中村憲剛もそうだったと思う。

脇坂泰斗にとっては、この日はその覚悟を口にした試合になったのだなと思った。

その責任を口にしたからこそ、76分の決定機についても聞こうと思った。

 遠野大弥のボレーシュートが弾かれたバウンドをGK前川黛也がパンチング。それを素早く拾った登里享平がグラウンダーでクロス。中央で脇坂泰斗がミートしたボールは、無常にもゴールの頭上を超えてしまった。

 脇坂泰斗は、キック技術の高いシュート名手だ。

にもかかわらず、なぜあんな外し方をしてしまったのか。

どういうタイプの質問を投げかけるか難しかったのだが、こういう場面では意図や原因を聞くのではなく、ストレートに現象を尋ねようと思った。

「責任というところで聞きたい。左からのクロスの決定機。あれは何が起こったんでしょうか?弾みが予想外だったとか?」

※14日にコラム追記しました。この試合に向けて一番注目していたのが高井幸大だったのですが、今節はスタメン落ち。ただ途中交代で前半に出番が巡ってきました。この試合に向けてどんな思いで過ごし、プレーはどうだったのか。試合後に聞きました。

→「そういうところでも違いを出せる選手になりたいなと思います」(高井幸大)。先発落ちした神戸戦。どんな思いで試合に向けて準備し、緊急事態でピッチに立ったのか。そして懸けていた終了間際のセットプレー。


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