「tumblin' dice」 (リーグ第15節・柏レイソル戦:2-0)
4日前の埼玉スタジアムでのルヴァンカップ・浦和レッズ戦。
このチームを勝たせてきたストライカーである小林悠は、自分の不甲斐なさを悔やんでいる。
1-0でリードしていた49分、左サイドでボールを持った小塚和季からのクロスを、うまく相手を外して胸トラップ。そこから反転して鋭いボレーシュート。決まったかのように見えたが、ボールの軌道はゴールの枠から逸れていった。
「僕が和季からボールもらって、トラップがずれたシュートになった。ああいうのを決めていれば(結果は)違っていた」(小林悠)
同点弾を喫したのは、この直後のプレーだった。
1本のパスを受けたホセ・カンテが、切り返しのターンで大南琢磨をかわしてミドルシュート。ゴールまでの距離は少しあったが、強烈な弾道となってネットに突き刺さった。
後半開始直後に決められた、痛恨の一撃。
それでも、まだ同点だ。もう一回、ゴールを決めてリードすればいい。しかし小林の目に入ったのは、この失点に大きく肩を落としていた味方の姿だった。自身も直前の決定機を決め切れなかったためか、チーム全体を強く鼓舞し、気落ちする味方にファイテングポーズを構えさせられなかった。
「失点した時に声を掛け合っていましたが、下を向く選手が多かった。まだ同点で時間はあったので、下を向く選手をもっと鼓舞してやれればよかった。自分が気持ちの部分で引っ張っていけたらよかった」(小林悠)
元キャプテンでもあるストライカーは、そう言って自分自身に対して、ミックスゾーンで悔しさを滲ませていた。
4日後、等々力陸上競技場での柏レイソル戦。
気持ちの部分でチームを引っ張ることができなかったことを悔やんでいた35歳は、連戦だった関わらず、誰よりも気持ちを見せることで、チームを牽引していこうと決めていたようだった。
「本当に気持ちはかなり入っていましたし、ピッチに入る前からみんなすごいいい声が出ていました。 本当に気持ちだぞって。サッカーは気持ちだなっていうのを感じたような試合だったので」(小林悠)
その気持ちの強さを、ピッチではプレッシングという形で表現していた。
ビルドアップしようと柏レイソルの最終ラインがボールを持つと、小林悠が果敢に奪いに行く。それも、しつこく、貪欲に深追いしていった。
浦和戦では、ビルドアップに落ちてくる相手のボランチ2人に左右を囲まれたことで、なかなか前に奪いに行く迫力を出せず、自分発信ではうまくプレッシングのスイッチを入れることが出来なかった。
だが、この試合では違った。
力強く、相手GKとセンターバックに襲いかかっていく。ビルドアップを牽制するのではなく、ボールを奪いに行くプレッシングで、最前線から守備のスイッチを入れた。
これにチーム全体が呼応していく。
例えばこの日は、中央ではなく左ウイングで先発していたFW宮代大聖。
試合後に「今日は全体的に攻守に迫力がありました。そこが勝因だと思います」と切り出した彼は、この試合に向けて、小林悠と練習からコミュニケーションを取って準備していたと明かす。
「練習から前のスイッチには絶対について行こうと思っていました。自分がFWをやっていた時に、どうやってついていけば楽なのか。それは感じていた部分もあったので、そこは悠さんと話しながらやっていました」
小林がスイッチを入れる全力プレスに、相手はたまらずロングボールやミドルレンジのパスを選択して回避しようとする。そこを中盤や最終ラインでうまく回収した。マイボールに出来れば、今度はじっくりとボールを握りながらハーフコートで押し込む。そして巧みな距離感のボール回しの崩しで、川崎フロンターレはゴールに迫り続けた。そして狙っていたプレッシングから自らのゴールを奪うことにも成功する。試合の流れを大きく引き寄せる先制点だった。
良い守備が良い攻撃を生んでいたことに、試合後の小林悠は胸を張った。
「前半からアグレッシブに、前からプレッシャーかけられましたし、試合を通して前から行って蹴らせてマイボールにしてっていうのを繰り返しできてた。すごくいい守備からいい攻撃につなげられたかなと思います」
終始、ゲームをコントロール出来た上での勝利。
この試合のピッチでは何が起きていたのか。選手の証言とともに、じっくりと振り返っていこう。
※5月30日に後日取材による追記しました。
前半終了間際の登里享平に起きたアクシデントについて、あの時間帯の判断と心境を鬼木監督が明かしてくれました。脱臼ではなくバーナー症候群だったようです。→■(「出た、このパターン!(笑)」(鬼木監督)。得点直後の登里享平に起きた、肩負傷のアクシデント。二転三転した前半終了直前での指揮官の心境と判断。そして、ハーフタイムの舞台裏とは?
■「オニさんからは『あまり左ウイングという感じではやらなくていい』と言われていました」(宮代大聖)、「大聖は狭い位置で前を向くプレーが何度もあった。ああいうプレーは効いているかなと思いました」(車屋紳太郎)。意外だった宮代大聖の左ウイング起用の狙いと、それが機能した背景にあったもの。
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