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「なにがなんでも、だ」 (リーグ第6節・北海道コンサドーレ札幌戦:4-3)

ギャップは大事である。

恋愛だけではなく、サッカーにおいても、だ。

この試合、そのギャップをピッチ上で作り出したのはワントップに入った家長昭博だった。

試合開始2時間前に発表されたスタメン。

これを見た時に思ったのは「これは山田新のワントップ、宮代大聖のトップ下の4-2-3-1システムだろうな」というものだった。

 山田新と宮代大聖が縦関係になり、遠野大弥が左サイドになる形は、直近の公式戦となったルヴァンカップの湘南ベルマーレ戦の終盤にも採用したものだからだ。鬼木監督は直近の試合途中で使ったシステムを、次の試合でそのまま使うことがわりとあるのである。

ところが、だ。

試合が始まると、こちらの予想とは違う配置がピッチにあった。

 キックオフ時の前線の配置を見ると、家長昭博と遠野大弥が中央にいて、左サイドに宮代大聖、右サイドに山田新という前線の並び。ワントップに家長昭博、トップ下に遠野大弥がいる4-2-3-1システムだ。

 ただし、家長昭博は純粋なFWではない。つまり、それは家長昭博のゼロトップシステムであることを意味していた。

 ゼロトップシステムといえば、バルセロナがメッシを偽9番にする戦い方が知られているが、世に出た最初のゼロトップシステムといえば、元イタリア代表のフランチェスコ・トッティがいた2000年代のASローマが採用した戦い方として有名だ。この家長昭博のゼロトップシステムも、どちらかといえば、トッティがいた時のローマのゼロトップに近い戦い方だ。

 最前線の中央にいる家長昭博は、相手ゴールとは逆方向に降りてくる動きをする。札幌の守備はマンツーマンなので、場所を守らずに家長昭博という人に付いていく動きをする。つまり、下がる家長昭博と一緒に、前に引き出される格好になるのだ。

 すると、どうなるのか。

ゴール前の中央には人がおらず、必然的に空間が生じていく。つまり、札幌の守備網には「ギャップ」が生まれやすくなるのである。

 ゼロトップとなる家長昭博が作り出したこの「ギャップ」をいかに活用していくのか。

 そこは鬼木監督がこの試合に向けて準備していた策だった。真ん中のスペースを鋭く狙ったのは、両サイドに位置する同期の生え抜きストライカーである宮代大聖と山田新の役目だ。

 山田新が振り返る。

「今日はアキさん(家長昭博)が真ん中だったので、アキさんが落ちた時に、そこに食いついたスペースを狙おうと話をしていました」

 宮代大聖も同様だ。彼はポジションの流動性を意識していたと話す。

「自分は最初のポジションは左(サイド)ですが、ポジションにとらわれないようにしようと(味方と)話していました。できるだけ中でプレーしたいですし、アキさんと近い距離、シンとも近い距離でも良いと思っていた。どんどんポジションを変えながらやっていいのかなと思っていたし、そういう方が一人一人の良さが出るのかなと」

 両サイドのこの二人は、最初は真ん中にいない。

しかし、右サイドから斜めの動き出しで、山田が貪欲にそこに入っていく。宮代は左サイドのエリアにこだわらず、ポジションレスでボールに関与しようと意識していた。

 場所ではなく人を守るマンツーマン戦法を逆手に取った、鬼木監督の札幌守備陣攻略法でもあった。狙い通りだったのだろう。試合後の監督会見で家長昭博のワントップ起用と両サイドの動きの意図をこちらが尋ねると、選手たちの働きに十分な感触を口にしている。

(札幌は)守備の仕方が特殊なチームなので、それを外していくためにアキの動きと、そこに(味方が)どう連動していくか。その中で狙い通りの得点というものを、短い練習時間の中でも体現してくれたと思います」

 とりわけ褒め称えるべきは、相手を食いつかせ続けた家長昭博の駆け引きだろう。いつ、どのタイミングで、相手を自分に食いつかせるのか。それが実に老獪だったからだ。

 スルーパスで2点目の起点を担った登里享平が、この日の家長昭博の役割を賞賛する。

「アキくんがセンターに入って、(中盤に)落ちてくるタイミング、アングルの作り方・・・ただ降りてくるのではなく、少し角度をつけた落ち方をしていた。空いたスペースを見つけやすかった印象ですね」

 ではゼロトップの家長昭博本人は何を意識していたのか。

 試合後のミックスゾーンで、彼はいつものように冷静に言葉を並べた。


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