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「STAR LIGHT」 (リーグ第23節・セレッソ大阪戦:1-1)

 この日、Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsuに足を運んだ報道陣は普段よりも随分と少なかった。

 近場で味の素スタジアムで東京ヴェルディ対FC町田ゼルビア、日産スタジアムで横浜F・マリノス対鹿島アントラーズがあった影響なのだと思うのだが、取材に来た記者も少なく、ミックスゾーンはどこか閑散としていた。

 そんな中、試合後のミックスゾーンに小林悠が現れたので声をかけた。手には、盟友・登里享平からもらったセレッソ大阪の6番のユニフォームが握られている。

 そのことに触れるよりも前に、まずは試合のことを聞かなくてはいけない。ただ呼び止めたものの、最初に問いかけるべき言葉がすぐに浮かばない。本人を目の前にすると、どこから話を聞けばいいのか、意外と難しいものなのだ。

 咄嗟に自分がかけた言葉は「ヒーローになり損ねましたね」というものだった。彼は「はい」と小さくうなづきながら、幻に終わった自身のゴールの記憶を手繰り寄せ始めてくれたようだった。

 そのプレーとは、同点に追いつかれた直後となる、79分の出来事。

 川崎フロンターレが猛攻を仕掛け、セレッソ大阪のゴール前での攻防が続いていく。クリアボールをキープして前に運ぼうとするルーカス・フェルナンデスを瀬古樹が素早く寄せて、橘田健人で挟み込んで時間を与えずにボールを奪っている。素晴らしい切り替えだ。

 こぼれたボールを拾った家長昭博が横にいた橘田健人に渡す。背番号8は、奪い返しに来たルーカス・フェルナンデスを切り返して交わし、そのままゴール前を見てクロスを選択する。

 ゴール前の中央にいたのは山田新と脇坂泰斗だ。

しかし橘田健人が視線に捉えていたのは、その2人ではなく、さらにその奥であるより遠いエリアにいたストライカーの動きだった。

「あそこの奥のところは、ずっと狙っておけと言われていました」(橘田健人)

 見事な弧を描いたクロスがセレッソ守備陣のいない空間に届く。ファーサイドと呼ばれる場所に走り込んでいたのは、このクラブで140ゴールものゴールを積み重ねてきたストライカー・小林悠だった。

 再三に渡って俊敏なセービングを見せていたセレッソ大阪の守護神キム・ジンヒョンは、ニアサイドのコースを消すようなポジショニングを取っていたので、空いているファーサイドを狙う選択肢もあった。

だがボールにミートする直前に足首の角度を調節して、狭い場所を撃ち抜こうと決めた。140回に渡ってゴールネットを揺らしてきた職人の為せる技だった。

「(クロスは)完璧でした。逆サイドに打とうか一瞬、迷ったんですが、足首を変えてニア(サイド)に。イメージ通りでした」

 自分がオフサイドポジションにいなかったことはよくわかっていた。

ゴールと共に「Basket Case」が歌い上げられ、サポーターが一斉にタオルマフラーを振り回して、スタジアムで喜びを共有する。そして、小林悠のゴールを告げる場内アナウンスも流れる。そうやって、等々力でのセレブレーションの儀式を終えて、「さぁ、あと残り10分だ」と多くの人が思ったはずである。

 ところが。

ゴールチェックに時間がかかっているようで、再開のキックオフの笛が吹かれる気配がない。オフサイドもなく、何もファウルもなく完璧に決まったかと思われたゴールだが、木村博之主審からの正式なゴール認定が下されない。 

 次第にスタジアムがざわめき始める。

そしてオーロラビジョンに「ゴール確認中」の表示がされると、結局、「得点なし」ということで再開が促された。等々力には落胆のため息というよりも、「なぜ」という疑問の空気が渦巻いていたように感じた。

 これが最終決定となり小林悠の141ゴール目はお預けとなった。

このとき、小林は木村博之主審に猛抗議する訳ではなく、シンプルにその理由を尋ねている。

 42歳の国際主審は、こう説明してくれたという。

※7月16日の練習後、佐々木旭にセレッソ戦の振り返りを聞きました。試合後のミックスゾーンではタイミングが合わずに話が聞けなかったのです。先制点の起点となったトラップとそこからの判断、そして失点を許した後半の守備の反省点などを語ってもらいました。約2500文字の追記コラムです。

■(追記:7月16日)「一枚剥がせればどこかが空くので、次の選手に時間を与えるのは意識しています。そこはうまく出せたのかなと思います」。先制点を生んだ自身のプレーを思い返して、佐々木旭が笑ったワケ。


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