うるとらまんでは終われない


 町内旅行の帰り道、バス車中は心地よい疲労感が広がっていた。

 朝7時に出発した日帰りの旅は無事に予定を済ませて後は閑散場所まで、バス車中でしばし歓談しながらのドライブを残すのみである。
 普段はスーパーで繰り広げられる井戸端会議は今日は帰途のバス車中で開催された。選びに選んだお土産談義や、お昼のバーベキューのメニューの品定め、はては動物園のゴリラのジェスチャーなど、そろそろ話題も付き始めた頃の事だ。

 車中、真ん中あたりから、声が聞こえてきた。くたびれぎみの皆はなんとなく耳を傾け始めた。

「ごりら」
「ラッパ」
「ぱいなっぷる」

――おやおや
 見れば、おじいちゃんと孫娘がしりとりをしていた。

――『ル』は、続けにくいんだよね。
 なんとなく心の中で『ル』のついている言葉を探してしまう。

「ルビイ」
――おじいちゃん、ナイスプレイ!
 皆、心の中でエールを送る。

「いんどかれー」
――子どもらしいな。
 今日の晩ごはん、カレーにしようかしら。
 聞いてるお母さんたちはみんなカレーにしたらどうなる?
 町内、カレーのにおいだらけになったらちょっと面白いかも。
 クスりと微笑んでいる人はきっと同じ事を考えているんだろう。

「レイトウみかん……じゃなくてぇー」
――あぶない! おじいちゃん
 みんなしてヒヤリとする。
「レイトウしょくひん……じゃなくてぇー」
――あぶないと言ってるでしょうが!
 声にならない皆の想い。おじいちゃんにとどけ。
「レタス」
――よしっ!
 しばらくは無難に受け答えが続き、町内一同、なんとなく聞いていた。

「すーぱーまーけっと」
「トウフ」
「ふんころがし」
「シンデレラ」

 そのあと、いくつかの言葉の応酬を経て、その時はいきなり訪れた。
「うるとらまん」

――え?
 お孫ちゃんの無邪気な一声。一同、眠気も消えて耳を澄ます。

 バスは高速道路から一般道に降りた。あとは、いくつかの信号を越えれば、解散場所であるスーパーの駐車場に到着する。

――まぁ、頃合いかなぁ
 旅行はお開き、しりとりはおしまい。
 ガイドさんがそそくさと立ち上がり、マイクを手にしようとしている。

 おじいちゃんの声が響いた。
「マントヒヒ」

車内に拍手が鳴り響き、みんな笑顔でおじいちゃんの健闘をたたえて、町内旅行は無事に終わった。

 【 了 】

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