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柿島屋

町田馬肉料理が盛んな町なんだという。

宿場町だった頃に、働きすぎて動けなくなった馬をここで食べちゃったのが始まりだとかなんとか、そういう切ないいわれがあったような、なかったような。違ってたらすみません。

この店の馬肉料理がとても美味しいので、ちょっと気になっていた女の子を、馬は好きですか?
と、食事に誘ったら、その子が「大好きです!」と言うのではりきって連れてきたのだけれど。

馬刺し肉鍋は勿論、メンチカツシューマイネギぬたに至るまで、全て馬の肉を使った料理。

この店は、お座敷とテーブル席では同じメニューなのに実は密かに値段が違う。
テーブル席は相席が当たり前の超カジュアルな場。

そこに差し向かいで座って何か彼女の様子がおかしいのは薄々気付いてはいたけれど、よくわからないまま飲み物などオーダーして。

いやまさかね、彼女の言ってた「馬が好き」が、幼い頃から乗馬をやってたという、そういう意味での「好き」、だったとは。

お通しがわりのネギぬたを見て、しくしく泣き出した彼女を前にして、店のご主人と顔を見合わせて、果たしてどうしたもんかと。

いや、親父さん、苦笑いしてる場合ちゃうねんで。


ガラスの器に盛りきりで注がれた宝焼酎、そこに表面張力分だけ梅シロップを垂らした梅割り葡萄シロップを垂らしたブドー割
梅酒やワイン的な何かと間違えて注文し、悶絶する下町酒場ビギナーを目撃すること数度の鬼ドリンク。これが当然ながら回る回る。


これ、ほとんど宝焼酎の原液ですから。


さて、これからどうしたもんかねえ。
慰めの言葉もみつからないまま、ブドー割のグラス越しの彼女を前に途方に暮れる。

人間万事塞翁が馬ってか。

馬だけに上手いことを。
・・・ってやかましいわ。

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