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11番目

地元、つまり沖縄に相当思い入れのあるお店なんやろうなあ。

泡盛を使ったオリジナルのカクテルなんかがいくつも載ったメニューのファイルを
「本日お勧めのカクテルです」
と出されたんやけど。

うんうん。
と言いつつ
そのメニューを横に押しやって、ラフロイグ。ストレートで。
とか言われるのは、バーテンダーとしては張り合いないやろな。ごめんやで。





「今度彼氏と彼氏の実家行くんですよ」

へえ、何処?

「静岡市です」

静岡いうたら、なんと言っても

「おでんですか?」

いやいや

「お茶ですか?」

いやいや

「ちびまる子ちゃん?」

ってなんでやねん。あれは清水市や。まあ今は統合されて静岡市清水区やけどな。てかちゃうねんちゃうねん。そんなんちゃうねん。

「なんなんですか、もう」

あんな、ここだけの話やけどな

静岡いうたらそらサウナしきじよ。

「サウナ?」

せや、東のサウナの聖地。サウナしきじ。

「えー」

あんな、あんたそない言うけどな、あそこいっぺん行ってみいや、人生変わるで。正味の話。

「まさか。そんな大袈裟な。
オジサンってほんとサウナ好きですよねえ。
そんなに気持ちのいいものなんですか?」

いや。
サウナそのものはそんな気持ちのいいもんやあらへんと思うけどな。

「え?」

気持ちいいのは水風呂や。

「水風呂?」

せや。
実は水風呂入るために、めっちゃ苦しい思いして熱いの我慢してんねんな。ま、苦行と変わらんな。
せやから水風呂がご褒美や。あまりの気持ちよさに脳がとろけてバグるで。

「そんな大袈裟な」


いやいや、いやいや。あのな、「ショーシャンクの空」ってあるやんか

「映画の?こないだ彼氏と見ましたよ、DVD」

それそれ。あの映画でな、壁にコツコツ穴開けて、長いことトンネル掘って、地下の下水とかごっつ汚いとこ潜り抜けて、やっとのことで外に出るやんか。

「はいはい」

で、外は土砂降りの雨や、考えてみいや、あまりの開放感に思わず咽び泣いてな、ずぶ濡れになりながら空を仰ぎ見るわけや。

「あー。はいはい」

それや。

「それ?」

それ。その開放感と恍惚の感じがまさにサウナしきじの水風呂。
天井近くの出口から勢いよく掛け流しで24時間、365日、滝のように流れ落ちてくる地下水、天然の駿河の湧水、硬度84の軟水よ。

「それがショーシャンク」

そうや。



「ははあぁ。

なんかお話し聞いてたら、ちょっと興味湧いてきました。

行ってみようかな。彼氏と相談して」


うんうん。行ったらええ、行ったらええ。


「あ、新しいお客様いらしたのでちょっと失礼しますね」


うんうん。


けどなあ、

結局、最後まで言えへんかったことあるねんけどな。

実はなあ。

あの水風呂の滝はなあ。実はおとこ風呂だけやねん。

おんな風呂にはないねん。


ホンマごめんやで。

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