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即興短編1『焦がしましたね』

戯曲執筆の筋トレとして、ランダムに決めたテーマで短編戯曲を書いてみることにした。俳優のレッスンで言う、エチュードみたいな感じだろうか。
ランダムに国語辞典を引いて、目についた言葉をテーマまたは素材とする。
・瞬発力を鍛える訓練。ぱっと思いついたもので見切り発車する。
・書き直さない訓練。読み手がいるのが前提なので最低限の推敲はするが、最低限がどこまでか即決する。
・とにかくラストまで書く。終わらせる。翌日に持ち越さない。

第1回  ワード『焦がす』  
(まさかの動詞・・・!)

---ここより作品--------

『焦がしましたね』      作:石原美か子

登場人物:警察官、男
場所:男が住むアパートの前

男、上手から慌てた様子で飛び出して来る。
皺だらけのワイシャツ姿。ところどころ薄黒く汚れている。
警察官、下手から出て来る。
怪訝そうに男を眺め、すれ違いざまに声をかける。

警察官 どうしました?
男    ええっ、何がです?
警察官 喧嘩ですか?変な奴に絡まれた?
男   何でもないです。
警察官 だってそんなに汚れて・・・何でもなくはないでしょう。
男    いや、あの、仕事に遅れそうなので・・・

通りすぎようとする男。
警察官、男の腕をつかみ、

警察官 ちょっと待って。
男   急いでるので、すみません。
警察官 待ちなさい。あなた・・・焦がしましたね?
男   ・・・えっ。
警察官 隠しても無駄ですよ、焦がしたでしょう?
男   (ひどく動揺して) は? 何のことですか
警察官 くさい、焦げくさいですよ、あなた。
男   変な言いがかり、やめてください。
警察官 交番までご同行願います。
男   ちょっと待ってください。僕、本当にいま急いでて・・・
警察官 焦がしたんだな!
男   ・・・・・・
警察官 警察をなめるな。
男   ・・・・・・
警察官 出しなさい。

男、ワイシャツのお腹のあたりから真っ黒に焦げた食パンを取り出す。
警察官、厳しい顔でそれを受け取る。

警察官 誤魔化せると思ったのか。警察も甘く見られたものだ。
男   悪気はなかったんです!朝食を用意していたら、急に電話がかかってきて・・・それが別れた妻からだったんです、それで・・・
警察官 事情は交番で聞きますから。
男   大事な電話だったんです。
警察官 交番で聞くから。
男   僕、パニックになってしまって、自分が何をしていたかもわからなくなって・・・
警察官  で、つい、うっかりしてしまったと?
男   ・・・はい。
警察官 その「ついうっかり」で、日々どれだけの食パンがトースターで真っ黒に焦がされているか、あなた学校でも習ったよね?
男   ええ・・・
警察官 立派な犯罪ですよ、焦げパンは。
男   ・・・・・・
警察官 お住まいはどこですか? トースターも検証させてもらいますよ。
男   ・・・違うんです。
警察官 違う?なにが?
男   違います、トースターで焦がしたんじゃないんです。
警察官 そんな言い訳・・・
男   (血を吐くように)アイロンを掛けてしまったんです・・・
警察官 ・・・ん?
男   二年ぶりなんです、彼女と会うの・・・それで舞い上がってしまって・・・僕、食パンにアイロンをかけてしまったんです。
警察官 ん、ん?
男   本当に悪気はないんです・・・申し訳ありません!
警察官 アイロン?
男   はい。
警察官 なんで?
男   いや、あの、ハンカチと間違えちゃって・・・
警察官 ・・・・・・
男   以後、気をつけます!
警察官 ・・・・・・
男   交番に行く前に電話をかけさせてもらっていいですか、彼女に連絡しておかないと・・・待ち合わせしているんです。だから行けなくなったって伝えないと・・・
警察官 ああ・・・
男   ああこれでまた愛想つかされちゃうなぁ。だめだなぁ、俺。
警察官 ま、手短にね。
男    せっかく、よりが戻せると思ったのにな・・・
警察官 ・・・・・・

電話をかけようとする男。
それを遮るように、警察官、食パンを差し戻す。

警察官 不慮の事故。今回はそういうことにする。
男   え。
警察官 あんた初犯だろう、しかも8枚切り。厳重注意でいいだろう。
男   あ・・・ありがとうございます!
警察官 早くそれを置いて来なさい。誰かに見られたらまずいから、焦げを削って、細かくほぐして、ハンバーグとかに混ぜちゃいなさい。
男   そうします。本当にありがとうございます!

  男、家へ戻ろうとする。

警察官 ああ、そのワイシャツ。それこそ、アイロンをかけなさいよ。
パリッとした格好しないと。久しぶりなんでしょう?
男   はい、そうします。
警察官 (冗談で)くれぐれも、そのワイシャツをトースターに入れないようにね。
男   (笑顔で)大丈夫です、トースターにはもうでにハンカチが入っていますから。
警察官 ・・・・・・
男   あ。

二人、アパートを振り返る。
赤い炎に照らされる二人。
どこかでトースターが「チーン」と鳴る。

警察官 ・・・あなた、焦がしましたね。
男   ・・・はい。

暗転

-終-


----感想----
焦がすというともうパンとか料理しか思いつかなかったけど、「胸を焦がす」とか、そういうのもアリだったな・・・
あ、別れた妻に胸を焦がしている、とか挿し込めば良かったのか。
ついオチというか、話をまとめようとする癖がついているから、長編のワンシーンだけ切り取ったようなものも書きたい。切りっぱなしのラストというのは、実は全然書いてないよな・・・



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