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世界はどう見えるのか、いや、世界をどう見たいのか

これまで記事を3回書いてみて気付いたことは、やっぱり僕は文学的に物事を理解する(理解したつもりになる)方が好きかもしれないということです。

思い返してみると、子供の頃から読んだり書いたりするのは好きだったような気がします。
小学校の夏休みの宿題で、その当時お気に入りだった推理小説のアイデアを参考にして(パクったとは言いません)、原稿用紙に小説を書いて提出したことがありました。
先生や両親から特に褒められることもなく、何かを言ってもらった記憶すらありませんが、何かを書いたという記憶のなかで最も古いものだと思います。

高校生の時には、川端康成の小説を一生懸命に読んでいた時期がありました。
僕は岐阜県から愛知県へ越境して通学していたのですが、ある日、ふと学校と反対方向の電車に乗りたくなって、「雪国」か「伊豆の踊り子」を読みながら、中津川というところまで行ったりしたこともありました。
その頃は、バングルスのボーカルだったスザンナ・ホフスのソロや、Sadeをよく聴いていたはずなので、何が何だかよく分からない世界観ですが、そういう気分の年頃だったんだと思います。

前置きが長くなりました。

僕はどんな風にものごとを見ているのか

組織開発や人材育成や人事の仕事に携わっていると、どういうメガネ(世界観)で人や組織をみているのかを自問自答する状況に直面することが、これまでもたくさんありましたし、これからもたくさんあると思います。
自分が言ったりやってしまったりしたことの負の影響を後で思い知る経験ほど、申し訳ないというか、情けないというか、そんな気持ちになることはないような気がします。
そんな時は、本当に「うわー…」という感じで、自分のことを丸ごと疑ってみたくなる気持ちにすらなります。

そうは言っても、生きている以上、やっぱり昨日より半歩でもマシな自分になれたらいいなと思いますので、本を読んでみたり、学校に通ってみたり、あれこれやりました。
やった分だけ知識は増えるし、それらしいことを言えるようにはなるし、そういう意味での効果はあったのだと思います。
一方で、ものごとの見方に自覚的になるということについて、なんか実感を掴めていない感じがありました。

僕にとって、そんな疑問に答えてくれたのが、以下で紹介する本です。

初期設定のままではなく、選択する

デヴィッド・フォスター・ウォレス(故人)はアメリカ人の作家で、2005年にケニオン・カレッジというリベラル・アーツの大学で卒業生向けのスピーチを行いました。
その内容は、一部編集されて『これは水です−思いやりのある生きかたについて大切な機会に少し考えてみたこと−』という小さな本になっています。

このスピーチのなかで、ウォレスは、優秀な大学を卒業して社会に出ていく前途洋々の卒業生たちを前にして、近い将来に繰り返されるかもしれないイラつくような社会人の日々を描写しながら語りかけます。
そして、僕たちに埋めこまれた「初期設定」について話します。

大渋滞も、ごった返す通路も、レジの長蛇の列も、
僕に考える時間を与えてくれます。
ものをどう考えるか、何に目をむけるか
僕がこころして決めないかぎり、
食料品の店に行くたび
むしょうに腹が立って、みじめになるだけです。
僕に自然に埋めこまれた初期設定では
こういう目に遭うと
ほんとうにわが身しか眼中になくなります。
腹を空かし、くたびれて、ただ家に帰りたい一心で
他人はどいつもこいつも
むかつくほど邪魔だとしか、思えなくなる。
この邪魔な連中はみんな
いったいだれなんだ?

そしてウォレスは、大切なことは、僕たちが何を考えるかを「選択」することなのだと言います。

それでも、自ら選択できるほど
あなたに確固とした自意識があるなら、
たいがいは、別の見方を選ぶことができます。
この肥った、死んだ目の、厚化粧の女性は
レジの列で、わが子を金切り声でどやしつけているけれど
—たぶん、ふだんはこうじゃない。
たぶんほんとうは、骨髄ガンで死にかけている夫の手を握り、
三日三晩、徹夜で看護しているひとなのでしょう。
あるいは、運転免許センターで働く安月給の身だとすれば、
つい昨日も、悪夢のようなお役所仕事で
タライまわしにされたあなたの配偶者を
親切なお役人らしく、ちょっぴり気を利かして
救ってくれたかもしれません。

むろん、そんな虫のいいことなんかありっこない。
でも、あながち、ありえないことでもない
—それはただ
あなたが何を考えたいか、に依るのです。

ウォレスの言葉と、彼の人生の最期とを重ね合わせると、とてつもない切なさと、とてつもない優しさが伝わってくるように感じます。

そして、僕自身は少しはアップデートできているのだろうか、そんなことを考えずにはいられない気持ちになります。

今日もお読みいただき、どうもありがとうございました。

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