石上ニモの笑った話No.022:スキマスイッチの大橋さんのロングトーンが超ロングだった話
かなり前、友人の海老くんの誘いで、スキマスイッチさんのライブに行ったときの話。
曲の途中で、アーティストが客席のところを走って通っていくみたいなのがあったんだけど、ボーカルの大橋さんが、私のいる席の真横をダッシュで通った。どさくさにまぎれて、背中を触ってしまった。背中は熱かった。そして、超かっこよかった。スターだった。スターだったし、スター状態でもあった。マリオのやつね、スター状態。
そして、プロってほんとすごいんだなあ、と思ったことがあった。
言わなくても分かるかもしれないけど、ライブでは、コール&レスポンスというのがある。英語の授業でいうところの、リピート・アフター・ミーみたいなやつね。
アーティスト「イエーーーーイ!! せーの!」
お客さん 「イエーーーーイ!!」
みたいなやつ。コールとレスポンス。
そのライブでも、最初は大橋さんと客で「イエーイ!」「イエーイ!」とかを楽しくやってたんだけど、大橋さんって、だんだん、その長さを伸ばしていくやつをやるのね。拍が、最初は4拍、4拍から8拍と、次は16拍と、倍々になっていく。で、最終的にはもう何拍かも分からないロングトーンになる。大袈裟じゃなく、常人の何倍もの長さを、大橋さんは伸ばすことができる。
大橋さん「(息を大きく吸って)イエーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!」
これがまた、いい声で、でかい声で、響く声なんだよね。肺活量がもう、常人とは天と地。もちろん、プロと常人の能力を比較すれば、天と地なんて当たり前なのかもしれないけど、そういう「基礎能力の差」みたいなものって、音楽の世界では意外と分かりにくいものだと思うのね。ロングトーン見せてくれる機会とかあんまりないし、声量が何デシベルとか公開することもないし。まして、スキマスイッチさんの歌でいえば、難しい曲を「さらっと」「難なく」歌っている、っていう特徴もある。実は、歌ってみると本当に難しくて、下手くそが歌うと全然キマらないんだよね。それは、ご本人もなにかのインタビューで言ってたっけな。
で、その長い長いロングトーン、体感で言えば128拍くらいあるんじゃねえかっていうコールに対して、客もレスポンスに挑戦することになる。スキマスイッチの客層って、なんとなく自分でも音楽やっている人が多いイメージだけど、そのときもなんか、悟空みたいな表情している人、多かったもんね。額に汗を浮かべつつ「オラ、ワクワクすっぞ……」みたいな顔が、視界のあちこちに見切れてた気がする。
ギターサークルに所属して普段からアコギ弾いて歌っている私と、ギターサークルに所属しつつもアコギは一切弾かず歌だけで勝負している海老くん。そんな、歌のZ戦士を自認している我々ふたりは、さながら、魔人ブウと相対したベジータと悟空だ。大橋さんのロングトーンのヤバさを、アイコンタクトで共有した。このあたりは、長年の付き合いの賜物、以心伝心である。
大橋さん「・・・・・・ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!! せーの!」
大橋さんのロングトーンが終わり、次は私たちの番だ。大橋さんに、我々の声を届けなければならない。ベジータと悟空が超サイヤ人2に変身するかのように、私と海老くんは大きく大きく息を吸った。横隔膜が唸りを上げるように膨張し、ライブの熱に浮かされた空気が腹をパンパンに満たした。
ニモ「イエーーーーーーーーーーーーーーーーイ!!」
海老「イエーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!!」
残念ながら、我々のロングトーンは、大橋さんの半分くらいの長さで途切れてしまった。悔しかったので、もう一回、息を吸って続けてやろうかと思ったけど、客席の中に、自分たちよりも長くロングトーンを続けている人たちがいたのでやめた。
そいつらには今でも言ってやりたいが、小さい声で長く続けても、それは全然意味ねえんだぞ。大橋さんみたいに、でかくてハリのある声を長く続けるから、かっこいいんじゃねえか。お前らみたいなシャバ僧は、デビュー曲の「view」から出直してこい。
このnoteが、あのときのシャバ僧たちに届くことを心から祈っている。
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