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敬意と受容『こどものスモールトラウマのためにできること』レビュー

 控えめに言って海外の本は翻訳を体が理解するまでにやや時間がかかります😭
そんななか少しでも新しいデータを手にするため400ページ近いこの本を手に取りました。

 本書では子供も大人も接し方を間違えると「脅威」「防衛」の本能が働き、それに脳が支配されると記されています。

「自分は間違いを"した"。しかしいつもOKな存在だ」

「"自分"は間違い(という存在)だ」
二つの思考法の結果は大きく異なるものになる。
『こどものスモールトラウマのためにできること』より

 子供は、周りにいる大人を絶対的な存在と感じているため、子供が間違った行動をとった時の大人の接し方によって子供が「自分が間違いをした」もしくは「自分が間違っている」という感じ方をするとのことでした。
 その結果、「自分が間違っている」→「自分は馬鹿だ」「自分はできない」「自分は無能」などのレッテルを子供が自身に貼り付け、それをそのまま行動に現すといいます。

 つまり、行動の間違いと存在の間違い、この区別をしっかりとつけさせることが重要ということのようです。

「内側:私はいつでもOKで、それは変わらない。
外側:私の行動は変わる。間違いをする。」
『こどものスモールトラウマのためにできること』より

 もちろん容易なことではありません。しかし、この違いによって子供が180°変わっていくのを著者は大勢見てきたと言います。

 そして、これらを達成するために必要なのは、子供に対して「敬意」と「受容」をもって接する、ということだけでした。
 具体的には、「子供の状況を鑑みて判断する」「子供の話を、子供の言うことといって軽く見ないできちんと受け止める」というようなことです。

 私も若輩者です。そのため、ある程度の年齢に達してもこの「敬意と受容」を持って接してくれない年配の方に数多く出会い、その度に失望してきました。そして、大抵はそれが悪い結果に繋がりました。
 ゆえに、「敬意と受容」というものの重要性は現実として体感できるものであり、今まで抱えていた不快感や違和感にしっくりと馴染む言葉でした。

 さて、具体的にこの「敬意と受容」をどう扱うか。決して子供の言うこと全てに従えという教えではありません。一つ、本書にあった事例を紹介します。

 とある家庭では、ゲームをする時間にルールが設けられていました。しかし、子供は時間になってもゲームをやめません。そこで母親はこう言います。「もう時間でしょう。ゲームをやめなさい。」
 それに対して、子供は「今対戦中なのでやめられない」と答えました。
母親は当然怒ります。「ルールを決めたでしょう。もう終わり。」
 多くの家庭でよく見られる光景と考えられます。特に昨今はスマホゲームの普及やコロナ禍による自宅待機でデジタルデバイスに触れる機会・時間ともに増えている状況です。
 しかし、子供にも事情があります。
・通信対戦を急に切ると友達に嫌われてしまうかもしれない
・ゲームにはセーブポイントがあり、いつでもどこでもやめられるとは限らない
・どうしようもなくセーブをせずに電源を切るとデータの損失など不利益が生じる
 子供にとって、学校や友達、ゲームの対戦相手、それらは家庭外での世界のかなりの部分を占めています。学校でいじめにあって、不登校になって、自殺する子供たち。学校の外に自分の世界があるとは思えない。自分の自由でどこかにいくことは叶わない。実際、同じゲームをもっていないことを理由に友達から「じゃあ今日は一緒に遊べない」と言われ、弟が泣いて帰ってきたことがあります。
 そして、敬意と受容をもった対応はこうです。
「ゲームの終わる時間よ」
「今対戦中だからやめられない」
「すぐにやめられるものではないのね。知らなかった。じゃあ今日はその対戦が終わったらすぐに終わらせること。明日からは5分前に声をかけるようにするから、時間通り終わらせられるようにしてね。」

 また、これらの方法は大人に対しても有効とされています。子供時代の小さなトラウマをきっかけに常に悩みを抱えているような人々に対して効果があるようでした。そのトラウマが、子供を含む周囲の人々への好ましくない対応に繋がる場合もあります。自分の子供時代の刻印により、特定の事象に過敏になり、それから自分を守るために、「黙る」「キレる」などの行動を取る。本人も望んでいないのに、恐怖に支配され、そうしてしまう。

 自分の子供時代のトラウマ・刻印に気がつき、爆発的な行動の引き金に気がつく。これを、本書では「内省」と表現していました。
「ああ、またキレてしまった、自分は間違ってしまった」
ということではありません。本書では常に、「罪を憎んで人を憎まず」が徹底されていました。それは、子供に対しても、子供に接する大人に対しても。
 また、爆発的な行動は「自分へのリスペクトを欠くこと」とも表現されていました。子供時代のトラウマに気がつき、自分が自分に「敬意と受容」をもって接する。それが、大人と子供の関係を変えるヒントになるようです。

 誰のことも責めない、非常に良い本でした。対人関係に悩む全ての人に読んでほしい本です、と自信を持って言えます。

※画像はフォトギャラリーからお借りしました。ありがとうございました。

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