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さよなら、わたしのお姫様(5)

2023年10月13日、愛猫を亡くした。
16年間、一緒に生きて生活した家族だった。

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人の言葉と、しぐさを読んで
コミュニケーションが取れる猫だった

白猫氏は賢い猫で、私の意図を読んでくれる猫だった。
人間の言葉も、かなり理解していたような気がする。

ソファに座っていて、私の隣のスペースをトントンと手で叩くと、
彼女は叩いた場所に飛び乗って丸くなった。
何かを指さすと、私の指ではなく、指さした方向に視線を向けた。
ごはん食べる?お魚味?チキン味?と聞いたら、チキン味のところではっきりと瞬きして意思表示をした。

写真を撮りたくて「かわいいお顔見せて!」というと、大急ぎでサッと顔を上げてこちらに顔を向けてくれた。後ろを向いているときであれば、きちんと振り返って顔を見せてくれた。
ちなみに「お顔見せて!」だけでは反応してくれないことが多かった。そうですよね。肝心な部分が抜けてて、すいません。

コミュニケーションは一方向でなくて、双方向だった。
彼女はよく私のそばに来て、平べったくなれ!と鳴いた。これを聞いて、私がその場に横たわると、彼女はいそいそと私の身体の上によじ登った。
膝の上よりも、横たわった私の胸の上あたりに乗るのが好きだった。なんなら鎖骨に前足をかけて、顔のすぐそばに立った。あまりに近いので、これをされると私は一切何もできなくなるけど、かわいいからいいかと応じていた。よく分からないけどたぶん、彼女は足場の不安定な場所に居るのが好きではなく、肋骨や鎖骨の上に立ちたかったのだと思う。

あんまりいないよね。人の鎖骨に乗りたがる猫。なぜ鎖骨。

2023年9月27日
我が家の二匹。
仲良しではなかったから、これが最後のツーショット。


2023年9月17日

点滴にカリウムを追加してもらって、朝晩の胃腸薬を服用すると、彼女は再びよく食べるようになった。彼女がよく食べてくれるとうれしくて、食事の記録を付けるようになった。

たとえば9月14日の記録によると「エナジーちゅーる一本、ささみを3分の2本、メディファスのスープパウチは具を残したけど水分だけ全部飲む」。16日には「メディファスのスープパウチを完食!朝晩に分けて、ささみを1本まるごと食べた」。

一日に食べた量としては少ないと思われるかもしれないけれど、吐き気で一時は絶食状態になるほど食べられなかったことを考えると、胃腸薬と点滴だけで、翌日にはもう食べ始めるというのは、大変な回復ぶりである。すごい生命力だ。

この頃の彼女は、生きようとしていた。ごはんを食べる姿を見ていると、その強い意志をひしひしと感じた。生きることは、食べることだ。

彼女は生きたいのだ。

死にたいと考えるような動物はきっと人間だけなのだろうけど、こういうとき、もの言わぬ動物の看病をしていて不安なのは、当事者に意思確認ができないことである。治療方針、何をして何をやらないか、全て私が決めなければいけない。彼女に聞けたらいいのにな、とずっと思っていた。

だから、この数日でガツガツ、モリモリご飯を食べる彼女の姿は、彼女の意思表示のように思えた。最後まで、彼女が生き切るのを支えよう。その過程で痛かったり苦しかったりすることは、なるべく取り除いてあげよう。

胃腸薬は、粉薬で出してもらったものを数滴ほどの水で溶いて、シリンジで口の横から流し込む。ごはんもおやつも食べようとしない時に飲む薬だから、口の中に押し込む以外の方法がない。
点滴も投薬も、彼女はどちらも嫌がったが、それでも、こうして食べて元気を取り戻してくれるのなら、嫌われてでもやる意味があると思った。

9月17日には、再び通院して、同じ処方で輸液のパックを出してもらった。よく食べていて、調子は良かった。

2023年9月20日

よく食べる。ただ、痩せてしまった体重は戻らず、肩の骨が出っ張っていて、長時間横になっていると痛いんじゃないかと心配になる。彼女は身体が沈むようなふわふわのベッドが嫌いで、いつも硬めの毛布や爪とぎベッドの上で寝ていた。せめてと思って、娘のヨガマットのお古を床にひいてみたら、黒猫が喜んで真っ先に乗りに来た。いや、君じゃないんだ。

最終的には二匹とも、乗ってくれた。

娘のお下がりのヨガマットに、2匹。


2023年9月24日

血液検査をすると、貧血が悪化している。造血剤の注射を打ってもらう。鼻水を垂らしているので、2本目の注射で抗生剤も。

2023年9月24日の血液検査

この数値だ。もう、生きてるだけで十二分にえらい。
鼻水が出ていて元気はいまいちだが、それでもよく食べる。抗生剤が効いて、通院の翌日からはさらにもりもり食べた。25日の朝には大好物の茹でささみをほぼ一本まるごと食べ尽くし、後ろ脚を少し引きずりながらも家の中をトコトコ歩き回っていた。

このとき、彼女の体重は1.9キロしかなかった。ささみ一本が50gとすれば、体重の2%以上の質量だ。50kgの人間に換算すると、1kg以上ある肉の塊を貪り食う感じだろうか。凄まじい。強くてたくましい。まだまだ生きるのでよろしく、と言われている気がした。もちろんだ。がんばろう。

2023年9月29日

元気に過ごしてはいるものの、やはり、トイレがままならない。キッチンに続く扉を閉め忘れたまま寝たら、彼女は夜中のうちにキッチンに移動して、そのまま床の上で盛大に粗相していた。トイレが遠くて間に合わなかったのだと思う。

さすがの私も、夜中に大移動をされても気づけないし、追いかけて世話もできない。眠る間だけ、サークルの中に入ってもらうことにした。大仰なものではなくて、災害時のために買い置きしてあった、折り畳みできる大きな布製サークルだ。

夜だけとはいえ、まだ自由に歩き回れる彼女を閉じ込めるのは躊躇したが、何のことはなく、彼女自身はサークルを気に入って、昼間もそこで過ごすようになった。サークルの中に小さなベッドを置いて、すぐ横にトイレだ。トイレまでの移動距離がぐっと短くなって、失敗しづらくなった。案外、快適そうだった。

29日には、輸液の再処方のために、病院へ。
体調が安定しているようだから、しばらくは診察なしでも大丈夫だろうと言っていただいた。ただ、カリウムを添加した輸液は冷蔵していても劣化してしまうため、一度に大量には処方してもらえず、使い切るたびに受付まで取りに来ることにした。

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