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さよなら、わたしのお姫様(4)

2023年10月13日、愛猫を亡くした。
16年間、一緒に生きて生活した家族だった。

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「彼女のためにしてやれることがある」
そのことが、私にとっても気持ちの支えだった

病院で点滴の練習をしている間は、
看護師さんが保定をしてくださっていた。

それはもう、ガッチリとした完璧な保定で、私のほうも全面的にお任せできる安心感があったのだが、同じことを自宅でできるかどうかというと、全く自信が無かった。自宅でのトライに失敗したら病院になんと報告しようか、考えていたくらいだ。

自宅輸液の初トライは、夫に白猫氏の肩と頭を押さえてもらったが、プロの看護師さんのそれに比べれば全く心許ない保定だった。ところが、そんな不慣れな保定なのに、彼女はほとんど暴れなかった。

病院で練習していた間、一度もそんなことは無かったのに、怖くて心臓がバクバクした。針を持つ手だけは震えなかった。滞りなく規定量の点滴を終えて立ち上がったら、膝が震えてすんなり立ち上がれず、汗をびっしょりかいていた。ものすごく緊張していた。

飼い主が、体調の悪い猫のためにしてやれることはあまり多くない。だけど、苦しむ猫を前に、何もしてやれないのはとてもつらい。

私にもできることがあって、よかった。そう思った。

自宅輸液は、それから毎日、だいたい夜20時頃にしていた。輸液はそのあと何時間もかけて、皮下からゆっくり体内に吸収されていくそうだ。おかげで、亡くなるまでの毎日午前中は、彼女の一番元気な時間帯だった。

2023年9月8日
病気でやつれてもなお、きれいな猫だった。
辛かっただろうに、立ち姿が凛としている。


2023年9月8日

1パック分の点滴を使い切ったので、再処方を受けるため、動物病院へ。
「よかった。ご自宅でできたんですね」。先生が喜んでくださった。
ここで再び、血液検査だ。

2023年9月8日の血液検査

貧血気味であることが新たに判明した。腎機能の値は相変わらず振り切っていて計測不能値だ。

ただ、こんな値にもかかわらず、自宅輸液をスタートさせてからというもの、彼女は病気以前のように比較的機嫌よく過ごしていた。寝たり起きたり、時々私が食べものを出すと、それをちょっと舐めたり食べたり。ここまで血液検査の値が悪いようには、とても見えない。

このとき、本当は腎臓ケアフードを食べてくれたらいちばんよかったのだけど、とにかく食べられるものを何でも食べさせるようにと先生には言われていた。若くて元気な頃には3.2~3.3kgほどあった体重は、年齢とともに少しずつ落ち、2度の食欲不振でさらに落ちて、もう2.0kgほどしかなかった。

この頃の彼女は、通常のちゅーるよりも高カロリーの「エナジーちゅーる」を一日に1本か2本、喜んで食べていた。それから、メディファスのスープと、ペースト食のパウチ。特に、メディファスのペースト食は、この時期、彼女が食べることのできた唯一の総合栄養食フードだ。

お皿に置きっぱなしではなく、
口元に運んでやるとよく食べた。
使いやすいフィーディングスプーンを探して、
結局、レンゲに落ち着いた。

それから、何といっても彼女は茹でたささみが大好物だった。病気をしてからというもの、日によってはささみしか食べないこともあって、私は1kgの冷凍ささみを買って冷凍庫にストックしていた。

他にも介護食を中心にあれこれ市販のフードは試したものの、元々食べ慣れていたもの以外に、彼女が食べたいものはなかなか見つけられなかった。

つぎの通院日が近づいたころ、また食べなくなってしまった。食欲が無いわけではない。食べようとはするが、途中でやめてしまう。吐き気がするのか口の中が痛いのか、理由は分からないが、食べたいのに食べられないのだ。彼女の様子を見守り続けて、ようやくそれが分かるようになった。

2023年9月13日

点滴の再処方のために病院へ。
食べられないことを相談すると、胃腸薬の内服と、輸液にカリウムを追加するよう提案してくださった。カリウムの値は、前回の血液検査でギリギリ下限の正常範囲。腎臓が悪い子は低カリウムになりがちだから、とのことだった。

点滴をした直後は猫の皮下にたぷたぷの輸液溜まりのようなものができるのだが、夜に点滴して、翌朝に通院する頃になると、溜まった水分はすっかり吸収されて無くなっていた。輸液量を少し増やして、一回量を125mlに増やすことになった。

またこの頃、ひどく痩せて、特に後ろ脚の筋肉が弱って踏ん張れなくなっていることが気になった。彼女は当時、フローリングの部屋で過ごしていたが、フローリングの上では後ろ脚が滑ってしっかり歩けなくなっていた。

それが原因で、トイレも上手くできなくなった。もともと、トイレの失敗が多い子で、高齢になったあたりからは入り口の低いトイレを愛用していた。特に、病気のせいで体重が減ってしまった分、体重2kgの彼女は子猫用トイレを使うことができるようになった。これが、低くて小さくて跨ぎやすいらしく、この頃の彼女は、子猫用トイレを好んで使っていた。

それでも、おぼつかない足取りでヨロヨロ歩いてトイレにの中に前脚を入れて、後ろ脚を入れて、そこで惜しくも力尽きてしまう。あと一歩奥に進んでくれるだけでいいのだけど、お尻がトイレに入りきっておらず、尿は全部、トイレの外側に出てしまう。もっとも、それくらいのことなら私は全然かまわなかった。トイレの外側にペットシーツを敷き詰めて、彼女がトイレに行くたびシーツを取り換えた。

腎臓病由来の多飲多尿もあるし、また点滴のせいもあって、彼女のトイレの回数はとても多かった。長い距離を歩くことができないので、寝場所からトイレが遠いと、途中で力尽きてトイレ以外の場所でしてしまう。私は、彼女が寝場所を移動するたびに子猫用のトイレを持って追いかけ、寝場所の近くにトイレを移設していた。

正直言って、彼女が健康で元気な頃は、トイレを失敗されるとイライラしたものだが、いま、こうして一生懸命歩いて自力でトイレに行く様子があんまりにも健気で、昔、トイレの失敗を叱ったりしたことが、申し訳なく思い出されてたまらなくなった。私はなるべく一日ずっと彼女のそばで仕事をして、こまめに食事の世話をし、またトイレの助けが必要そうなときは手伝うようになっていた。


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