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「かかえ込み跳び」もどの子もできるために

はじめに

このリフレク帳の前号では、「どの子もできる『台上前転』」のために、教師、そしてその結果として子供が「台上前転」の概念を変えることを提案しました。

具体的には、「跳び箱」、「跳び箱の上にマットを敷いたもの」、「マットを折り畳んだもの」の三つの「台」を用意し、どの「台」の上でも回転することができれば「台上前転」と考えること。そのうえで、「助走から着地までの動きの滑らかさ」/「真っ直ぐ前転すること」/「腰の位置を高く上げた『大きな前転』にすること」/「膝を伸ばして回転すること」などの課題を子供と作り、追究していく学習をすることの提案でした。

まず、この考え方・指導方法について誤解があっては困るので、次の点を強調しておきます。

これは、台上前提に関する多様な運動の場を設定し、子供が自由にその場を選択して取り組むという指導理念・指導方法とは異なります。

この方法では、子供の技能は向上しません。
体育、とりわけ器械運動の楽しさは「できなかった技ができるようになる」ことにあります。

「台上前転」の指導では、どの子も「台上前転」が「できるようになる」こと、そしてその技能をより高めることが大切です。
だから、上記のような課題に取り組むのです。

しかし、跳び箱に対する恐怖心があっては技能の追究が行えません。

そこで、三通り(私の場合は)の「台」を用意し、子供の恐怖心を軽減させるという考え方です。

「かかえ込み跳び」の恐怖

さて、小学校の中学年、高学年の体育の跳び箱の学習内容には、「かかえ込み跳び」もあります。
「閉脚跳び」とも言われてきた、腕の間に足を通す跳び方です。
この技に感じる恐怖心は、台上前転の比ではないかもしれません。
跳び箱に足が引っ掛かるのではないかと感じる子が多数います。

練習の場の工夫としては、マットの上で手を着いて足を抱え腕の間を通したり、ステージに手を着いて跳び乗ったりするなどがよく知られています。
感覚作りや動き作りの点で、これらは必要です。大いに工夫すべきです。
また、教師の補助も大切です。
着手の位置の指導も絶対に必要です。開脚跳びよりも広く前の位置に着く必要があります(もちろん、それを子供と思考・発見していくわけですが)。

しかし、いざ、助走をしてきて跳び箱を飛び越そうとすると、やはり怖いのです。助走によるスピードが一層恐怖心を煽るのでしょう。

恐怖心の軽減方法

では、どうしたらいいのでしょうか。
私は、今回は「台上前転」のように、マットを用いて恐怖心を軽減させるのは無理だと考えました。
足が引っ掛かるかもしれないという恐怖は、マットであっても同様だからです。

跳び箱を変えるしかありません。
この記事を今お読みの方が学校の教師ならばお尋ねします。
先生の学校に最上段の真ん中が凹んでいる跳び箱がありますか。
あれば、それを使いましょう。
なければすぐに購入の段取りを進めましょう。
「体育嫌いの子供を作らないため、子供の怪我を防止するために絶対に必要である」と訴えましょう。

その作りの跳び箱は、例えばEVERNEW社からは、6段用、8段用が売り出されています。

これなら、子供の恐怖心はかなり軽減されます。
足が跳び箱の間を通過するからです。

もちろん、「足を抱え込んで跳ぶ」という技能面から見たら、不十分かもしれません。しかし逆に、子供たちは、足が引っ掛かるかもしれないという心配をせずに、腰を高く上げたり着いた手を突き放して切り返したりする動きの習得・向上に専念しやすくなります。

なお、これらの商品には、真ん中の凹みの部分に入れる「センターヘッド」という部品もパーツとして販売されているため、凹みの高さも調節できますが、私の場合は、足が当たっても痛くないように、適当な大きさのダンボールの箱を凹みに入れました。
そうすることで、高さはある程度あっても、それを怖がらずに腰を上げることや、場合によっては発展技の「屈伸跳び」に挑戦させました。

また、この跳び箱がすぐに準備できない場合には、私は二台の縦置きの跳び箱を横に並べて、その間にゴム紐を張った「跳び箱」を使いました。
一番上の段とその下の段の間にゴム紐が来るよう跳び箱に縛りました。

跳び箱をあまり高くし過ぎると左右の手の間隔が広くなり過ぎるので、マットを何枚か敷いて高さを調節することが必要でした。
また、ゴム紐でも怖い場合は新聞紙などを折り畳んで跳び箱の段の間に挟むとよいと思います。

この「ゴム紐・新聞紙跳び箱」を三種類目の跳び箱として、「普通の跳び箱」、「凹み跳び箱」、「ゴム紐・新聞紙跳び箱」の三つの場で行ったこともありました。

ここだけは配慮を

さあ、これで、<怖くない>「かかえ込み跳び」用の「跳び箱」が準備できました。
あとは、学習本来の内容の追究です。
この指導方法ならば、子供がどの「跳び箱」を選んでいても、共通の課題について全員で学び合うことが可能です。前回の「台上前転」と同じです。
前回も述べたように、「恐怖と戦う体育」は、体育学習ではありません。

ただし、「跳び越し方」について、次の配慮が必要だと私は考えてきました。

子供たちに「かかえ込み跳び」を行わせると、その跳び越し方は二種類に分かれます。

一つは、着手した腕を支点にして体を後ろから前に移動させるやり方です。この方法では、足が腕の間を抜けてから、手が跳び箱を突き放します。

もう一つは、着手後、すぐに手を突き放し、その勢いで足が跳び箱の上を超えていく跳び方です。手を突き放してからその後に足が抜けていくイメージです。

どちらが「正しい」かかえ込み跳びかと言えば、おわかりのように後者です。
だから、「切り返し系」の技なのです。
したがって、本来ならこちらの跳び方を子供に求めるべきです。

しかし、恐怖心が先立つ子は、前者の跳び方になりがちです。

そのため、私は前者の「体重移動型」も「あり」と、考えてきました。

子供たちには、二種類の跳び方の違いに気付かせます。
「後者を目指そう」とも投げ掛け、そのための指導も行います。

しかし、「今は<後者>でも合格」と、伝えます。
その子なりの達成感を感じ取らせ、次年度以降への課題にさせるほうが、その後の体育学習への意欲を高められると判断したからです。

みなさんは、どうお考えでしょうか。

なお、安全確保のために、跳び箱の周辺にマットを敷くことは、もちろん必ず行いましょう。
特に、高い跳び箱で「屈伸跳び」に挑戦する子供の場合など、セーフティマットがベストです。

また、踏み切りのためのロイター板と跳び箱の距離を距離調節器によってどれぐらい取ったらいいのかをよく考える必要があることは言うまでもありません。