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新作浪曲台本 血煙荒神山アナザーストーリー 『任侠ずラブ』


口演:京山幸太

曲師:一風亭初月

作 :石山悦子

配信日:2020年5月10日〜

会 場:十三シアターセブン(無観客収録)

※初 演:2019年6月10日〜16日 喜楽館 昼席にて

 


  儚き(はかなき)ものは ヤクザの渡世

  長脇差(どす)抱き寝の 修羅の道

  男をはって生きるなら

  貫かなけりゃ ならねェものが

  三つある

  義理と人情と あとひとつ

  義理と人情と あとひとつ

  命と書いて「ラブ」という


  海道一の親分は 

  清水港の次郎長の

  義侠伝のその中に

  斬った張っただけじゃない

  惚れた腫れたがもつれ合う

  すったもんだがあったという

  血煙荒神山 アナザーストーリー

  任侠ずラブの一席を

  不弁ながらも勤めましょう


仁吉 「なにッ、山ぁ取られた!?誰だ、相手は」

長吉 「伊勢の桑名の阿濃徳次郎だよ」

仁吉 「阿濃徳次郎……」

長吉 「俺ァ恥ずかしながら頭を下げて頼み に行った。『徳さん、荒神山は親にもらった大事な縄張り、これだきゃ手をださねェでくれ』と言ったらせせら笑って阿濃徳が『やかましいやい!弱い者が消え強い者がまかり通るのがヤクザの世界、返して欲しけりゃてめぇも力で取り返せ!』とハネつけやがった。

この野郎と思ってみたが相手は身内が二百人、それに引き換えこの俺は集め て身内が五十に足らず。広い世間にこの俺が誰をすがっていったなら、救いの手をば差し伸べてくれるだろうと考えたとき、兄弟分のおめえなら力になってくれるだろうと、こうして恥を忍んでやって来たんだ」

 とそれだけ言って長吉が、膝を掴んで男泣き。


(素の演者に戻って)

 と言うのが、浪曲・清水の次郎長伝『血煙荒神山』の発端でございまして。

 今のシーンをサクッと解説いたしますと、幕末の時代、伊勢の神戸に長吉というちょっとヘタレなヤクザがおって。桑名の阿濃徳次郎というヤクザに大事な縄張りの荒神山を取られてしもて、取り返したいけど多勢に無勢で勝ち目がない。そこで兄弟分の吉良の仁吉に助っ人を頼みにくる。

 この仁吉というのが歳は若いが大立者。吉良一家の総大将というだけあって、度胸と貫禄は人一倍。長吉の苦しい胸の内聞かされて黙っちゃいられねぇと助っ人を引き受ける。

 さてこの話、ここからさらにシビれるような展開になるんです。仁吉の元へ新たな人物が助太刀に名乗りを上げる場面……。


   話の折から 表の方(かた)

   どいつこいつの容赦はねぇ

   片っ端からなで斬りだと

   十一人の子分を連れて

   入って来たのが誰あろう

   海道一の大親分

   清水の貸元 次郎長なり

 

 ね。シビれるでしょ。そう、清水次郎長一家の登場です。

 こうして吉良の仁吉、神戸の長吉を先立に次郎長一家が加わって、いよいよ荒神山へ斬り込みになろうという。さて、その前の晩のこと……。

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