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武器を支援することは、武力紛争の当事者とみなされるのか。

昨年(2022年)5月に、朝日新聞に頼まれて書いたものです。もう主要新聞に書くことは、信頼のおける旧知の記者さんの依頼しか受けませんが。

武器を支援することは、武力紛争の当事者とみなされるのか。

武力紛争を法治する国際法は歴史上二つの考え方でなりたっている。一つは戦端を切る口実を限定した開戦法規。現代のそれは、現状変更のために武力の行使と威嚇を厳禁しながら、個別的・集団的自衛権の行使と国連としての集団措置を例外的に認める国連憲章である。もう一つは、そうやって戦端が切られた交戦の中で発生する違反行為を定める交戦法規。ハーグ条約やジュネーブ条約など戦前から戦後の今まで積み重ねられてきたものの総称で国際人道法と呼ばれる。その違反行為が、いわゆる戦争犯罪で、分かりやすいものとしては、市民への無差別攻撃や捕虜の虐待・殺害である。

今回のウクライナとロシアの場合は、ロシア側は明らかに開戦法規の重大な違反を犯した。ここで注意しなければならないのは、そうやって戦端が切られウクライナ側が応戦する戦闘の中で、ウクライナにもロシアと同じように交戦法規を厳守する責任があるということだ。侵略の被害国であるからといって免責される戦争犯罪はない。

「紛争当事者」とは、その交戦法規の中で言われる「Party to an armed conflict」である。であるから、ウクライナとロシアの双方が、紛争当事者になる。

それでは、武器をウクライナ側に供与している米国を中心とするNATO諸国は、はたして紛争当事者か。今回に限らず、冷戦時代でも、外国が紛争当事国に武器支援した例はある。ベトナム戦争ではソ連と中国が北ベトナムを支援した。1970〜80年代のソ連とアフガニスタンの紛争でも、米国はソ連軍と戦うムジャヒディン(イスラム戦士)に武器を流した。

上記の戦前のハーグ条約では、他国の戦争からの「中立」を定義する条項があり、紛争当事者は武器の移動を含めて中立国を侵害してはならないとする。では、①中立国は紛争当事者の一方を応援した時点で、国際法上の中立性を失い、紛争当事者の一つになるのか? そして、②中立性を失った中立国は、もう一方の紛争当事者から、交戦法規上の攻撃対象となるのか?

これは、国際法上の議論として難しいものがあり、まだそれを明確に言い切る条約は出現していないが、同じハーグ条約では、たとえそれが間接的であろうと、中立国が装備の供与を含めて紛争当事者の戦争に関与することを厳禁している。よって、上記の問い①の答えは、≒Yesであると筆者は考える。つまり、今回の場合、ウクライナという侵略の被害者を支援する米国やNATO諸国、そして防衛装備移転三原則を駆使して装備を移転した日本は、紛争当事者としての自覚を持つべきであると。

一方で、こうした議論が、今回のように明らかに開戦法規の違反を犯したロシアを非難し、その犠牲となったウクライナを国際社会が支援することを阻害するのかという問題が残る。1990年、イラクがクエートを侵攻した湾岸戦争では、国連憲章に基づき多国籍軍が派兵され、「国連が紛争当事者」になった。1999年には、国連事務総長の告知という形で、国連決議で発動されるPKOを含む国連多国籍部隊に、紛争当事者として交戦法規を遵守する義務が課せられた。残念ながら、日本の自衛隊のPKO部隊派遣には、この自覚が、いまだない。

現在、米国NATO諸国の武器供与が、個人携帯武器から重火器にシフトする中、上記②の問いはどうなるのか。このままウクライナとロシア間の戦闘能力の均衡化が進み、既に小規模だが始まったように、ウクライナの反撃が、国境を超えて大規模にロシア領内へ及んだ時、はたして、ロシアには国連憲章で認められた自衛権を行使して、そういう武器供与国を攻撃する根拠が生まれるのか。

そうならないうちに、この戦争では、即時停戦を実現しなければならない。

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