遥か遠くを行く雲の行方を遮る万華鏡 笑い飛ばしたあの日の午後の残響に手を伸ばして 春を待つ僕らの指先に纏う期待と不安を ごちゃ混ぜにして飲み干したらさ、 なんだかトロピカルな味がしたんだよ 青春を信じたあの夕暮れは確かに夢のような幻で、 そこに在った事には変わりないのに 何故だかひどく遠い日を思うような、 古いタンスの匂いがした。 声を重ねたでたらめなハーモニクス 不揃いな君の前髪 本気を遊びと読むような炎天下の カーテンの影に恋の終わりを知った、オレンジの教
飛ばした信号は闇に溶け、君の好きなストロベリージュースになった。 ― 粉砕された苺の種の、種の種の種の 異空間に広がるリビングの片隅で、差しっぱなしの電源コード ― 点滅を続けるバーチカルバー、救難信号は届くことなく 罵声、怒号、糾弾、ヘイト ― 言葉の雨は、いずれ君たちの頭上にも クリエイティブを愛した貴方の、最期の作品がそれだったなんて ― 床に転がった飴玉の1つ1つが惑星 時を越えて届けよう、君と僕とのその声を ― 記録媒体が発展した昨今では別に奇跡で
溶けだしたミルクの混ざり 墜ちてゆく月の欠片、一雫 加速を恐れて進化は止まり、水色の雨の下、嘆く1つの傘の影 通過する人々の流れを遮り、産声をあげたその生命の 畏れや恐怖や憎しみを愛情ひとつで握りつぶして 放った矢は弧を描き、水平線に落ちる。 そこから割れた大地の色を(空の色を)、君は覚えているだろうか 枝葉のように伸びる言葉を辿り、ぼくらは世界の質量を知る。 「ねぇ、先生」 ぽたり 「ん?どうした」 ぽつり
舞う花びらの曲線を、視線だけでなぞっては揺らぐ ティーカップのダージリン 古さびたこの部屋で一人、 名も知らぬ歌を口ずさむの 絶えず聞こえるオルゴールの音色と掠れた私の歌声 ビロードのカーテンに、染み込んでいく あの日、一度だけ見かけた小さな獣はどうしているのだろう。 片翼の折れた燕も、盲目の牡鹿も。 本のペイジが外れ、ひらりと落ちるセピアの写真。 はじめて恋した冬の日の、マフラーと手袋、ただそれだけ 今は亡き飼い猫の鈴の音が聞こえ、 年老いたレコードに針が落ちる。
指先に塗った海の、その波紋と光 私たちはあの青に焦がれて、意識すら波に掠われていく 石畳の端に並ぶ草花の温もりを感じ、自転車を漕ぎ出して。 風を受ける髪の隙間に、いつもと違う景色を見た気がした。 言葉は時代を越えて私の手のひらに収まった。 指先でなぞるインクの意味、ようやく分かった4時限目。 ねえ、君の揺れるスカートの裾がさ、ぼくらの思考を妨げていくよ。 星空の下にもロマン、何千年だって進化できない想いを知った。 机の端、黒板の隅、体育館の柱 時代を映す 数多の傷
青く、月が沈んでゆく ひどく透明な湖 開け放った窓には翼の影 何かに怯えて明日を待つ、私たちの心を映す 消えかかったろうそくの灯りをそっと手のひらで消し、 きみが飛び立ったあの春の音を思い出していた。 煌々と照る月にはなみだ うたかたの幻、つゆと消えにし 罪深き私の過去を振り返れば、何者にも許されるはずの無い己が身を愁いて 遠ざかる幻想、届かぬ指の先 未だ微かにすら見えぬ、私の行く先 ――――――――――――――― 季節を詠う(1/4) 春 一昨日、残暑
キラリ、君には星の声が聞こえている? 長い年月を越えて、僕ら君にも届くようなひかりになったよ。 星降る夜に、耳を澄まして。 たしかに聞こえる音階はカラフルを極めている。 知りたいことがあるなら声に出して (誰に、ではなく本当の君に届くように) 優しい光が明日を包むよ (君が安心して歩いていけるように。何も、心配はいらないから) 愛していた事を覚えている? (誰に届かなくても、本当の君には届くよ) 報われなかった昨日の思い出も、柔らかく抱きしめてあげて欲しい (彼ら
天使の羽は今日も5色でにぎやか空の色 空を飛ぶ魚は今日もきらめくウロコで光を降らす。 天気予報はいつでも真逆で、みんなは傘を持って晴天の中を歩く。 その日ある内の一番低い可能性を信じて今日も今を生きている。 ミラーボールは最期まで輝くことを止めなかった。 輝くことがライフワークだからなんて、誰にも言えないような台詞を言って。 積み重ねてきた過去を信じれば、僕たちは自分の力と少しの虚構にも気がつくだろう。 脚色された真実と、驚くほど愉快な日々に彩られていたことにも。 触
はじまりの音は海底から響くように (深く低く、重なり合い、更に深く) 君の生きる世界は白く (百合や石灰、あるいは1つのきらめき) 影は寄り添い、グラデーションが生まれ、 やがて本当の黒に成る 「ねぇ、知っているのなら教えてくれない?」 本当に私たちはここに居るのかここには何が潜んでいるのかそれでも私は私であるのか 自問の螺旋は塔を描き、足元が崩れる寸前で1つの道が出来上がる 続いていくのかな、この先も 終わりなき道などに執着はないけれど ここで私たちは生まれ
あなたの祈った朝が来て、 私はまた"私がいること"を知って。 今日もまた今日は始まりと終わりを告げ、 幾千の春が過ぎ、時計の針・季節の往く音。 流れは止まず、上から下へ 君から僕へ あなたから私へ きれいなものはいつだって永くは持たなくて、「でもだからこそ」を繰り返していく。 私たちは私の生み出す音を聞き、証明と感覚。 光を追うように線を繋いでは、音を閉ざすように眠りにつく。 はじまりはいつも新鮮でカラフル。(そういう風に、決まっているから) 終わりはいつも悲しくて残
あたたかな日の温もりと氷のような君の指先 絶え間なく流れる薄暗い血が、 今、ここにいることの唯一の証明だ 途切れ途切れのレコードと心を揺さぶるような針 部屋を満たす張り詰めた空気が、 僕の意識を鮮明にさせていってくれる こげ茶色のキャビネットに並ぶビスクドールたちは そのドレスを翻し、色褪せた瞳で君を見つめていた。 透き通る水に沈んでしまったように、 たゆたう月明かりと明度の低い青 君は無造作に、ガラス細工のバラを握りしめる。 救いのない月の光と氷のような君の心
新しい朝を迎えに行こう 早起きの小鳥たちが鳴くより前に (光の粒のような星が消えてしまう前に) 愛していると誓った君の、瞳にはまぶしいなみだ 幾千もの「終わり」を越えて会いに行こう そこには新しい光がある まばゆい明日を描きに行こう 手に取るように群青。 夜を越えて。 あの日見た円盤、夜空を照らすサーチライト どこまでも静かな青い海に、星空は沈んでいく
開け放った窓に、新しい空気 僕たちは手を取り合って歩を進める 信号は赤。 だけれども、次がある。 1つ成長した君に、昨日と変わらない新たな景色をプレゼントしよう 桜が咲く頃だから、風はどことなく花びらの匂い 感覚を研ぎ澄ませば、見えないものだって信じられるはず うたかたの幻 青白い朝と窓際の一輪挿し 似合わない服は捨てて、好きなものを探して 海の中で踊る 山の声を聞く 不確かな明日がそこに 区切られた昨日もここに 常に前を向いて歩く君の、 後ろにはた
詩集を作りました。 本日は一人目の著者、イセザキの収録作品をいくつかご紹介します。 Ⅰ. 君に捧げた言葉が、光を放って浮遊していくように、 波々と注いだ酒の ――零れた一滴まで愛した 全てが壊れないようにと、慎重に仕舞った羽 謳われてきた歴史とは正反対に立つ君の、ターニングポイント 右の手の指をこめかみに強く押し当てれば、どこからか菜の花の匂いがした 千の記憶の波さえも、夕焼けの狭間に消え落ちていく 答えはないよ、答えはないよ。と空が唱えて、 どこにいるの
先日こっそりと投稿しましたが、 この度、本を作りました。 タイトルは 『同じ空(けしき)を見ている』 ハードカバー・箔押しの気合いの入った装丁に 全176ページ、収録作品数50篇という大ボリュームの詩集となっています。 著者は私イセザキと笹倉アトリ。 笹倉アトリの名前は初めて見ると思いますが、彼は言うなればもう一人の私。 つまり中の人は同じなのです…。 そして、「笹倉アトリ」としての作品は今回の本で初お披露目となります。 本の内容や収録作品については数回に分けて投