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僕が考える、出汁の話

和食において最も重要な要素の一つ、出汁について。これを語らずには先に行けません。なぜなら、一口に「出汁」と言っても人によって、店によって、用途や土地によって違う無限の出汁が世界には存在しているのです。

僕が引く出汁は、かつて修行していた京都流の出汁を、地元三重県志摩市の波切節を使って作っています。今回はすえよしの一番出汁のレシピを紹介しながら、出汁への理解をより深めていただけたら幸いです。ちなみに僕の出汁の引き方はすえよし料理教室でもお教えしています!

【すえよしの一番出汁】
(お吸い物など、出汁を主役にする場合の出汁の引き方)
水 1ℓ(日本の水道水は軟水なので、水道水でOKです)
昆布 15g
鰹節 30g

①昆布を60℃のお湯で一時間煮出す
②味見をしてから、昆布を取り出す
③温度を上げて一度軽く沸騰させて火を止めて、85℃まで温度を冷まして、鰹節を入れて、10秒ほど待って静かに濾す

*ご家庭で出汁を引く場合はお手軽な鰹節パックがおすすめですが、昆布出汁をとってから鰹節パックを入れると味が劇的によくなります。①②のような昆布出汁の取り方もあれば、水に昆布を10~14時間つけて冷蔵庫に入れておく水出しもありますので、ご家庭でも取り入れてみてください。

これで完成。

うちのお店の出汁は京都風の料亭の出汁の引き方ですが、東京になると昆布より鰹節に重点を置いた引き方になります。これは地域によって手に入る素材や水が違ったことに起因します。もともと京都の水は超軟水で、昆布からの出汁が良く出る性質だったといいます。現在では全国どこにいても欲しい素材が手に入ってしまうので、東京でも京都風の出汁が引けるわけなのです。

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そもそも出汁って、何なのか?

出汁と聞いて、何を想像されましたか?
昆布出汁、かつおだし、干椎茸の出汁、貝の出汁、煮干しの他にも、鶏ガラ、豚骨、フォンドボー、フュメドポワソン、コンソメなどなど

和食だけでなく、中華、フレンチ、その他の地域のあれもこれも実は出汁。
その中でも和食の出汁は油や濃度(と香辛料と調味料)に頼らずに美味しい汁を抽出する、出汁そのものを主役とした数少ない料理です。

臭みがなく上質な旨みと香りを持つ「日本の出汁」。

少し掘り下げて、今回はこの『旨味』について解説したいと思います。

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旨味とは?

旨味とは、たんぱく質が小さく分解された、アミノ酸の一種です。海外では『UMAMI』と認知されており、事実、私が世界の厨房を回っていたときもUMAMIでほぼ通じました!

旨味は味の五要素の一つとされています(味覚の五要素=甘味、酸味、塩味、苦味、旨味)。アミノ酸の一種である旨味は、さらに細かく分類することが出来ます。この細分化された旨味を理解すると、味付けの技術が格段に上達します!
出汁の話ですがもちろん、和食だけでなくどんな料理にも応用できる知識です。

普段良く使う食材を例に、4種類の旨味成分を紹介します。

【イノシン酸を含む食材】鰹節、煮干し、魚、肉
【グルタミン酸を含む食材】昆布、トマト、その他野菜、味噌醤油、チーズ
【グアニール酸を含む食材】 きのこ類
【コハク酸を含む食材】貝類

それぞれのアミノ酸は単体でも充分おいしいのですが、複数組み合わさると、美味しさが著しく拡張します。特にイノシン酸+グルタミン酸、もしくはグアニール酸+グルタミン酸の組み合わせでは7倍の旨味の相乗効果があると言われております。


旨味の相乗効果を上手に活用して料理上手に!

すえよし料理教室で出汁の引き方をお教えする際には、まず昆布出汁の味見をしてもらって、
その後に昆布+鰹節の出汁の味見をしてもらいます。すると明らかに、単純に二つの味を足した以上の味わいを感じていただけます。僕たちはこの増長する旨味の効果を「味の相乗効果」と呼んでいます。

味の相乗効果というのは、人間の舌で『美味しい』と感じる感覚値がなぜか『1+1=7』と言われているものであり、体験する以外にこの味の相乗効果をきちんと理解するのは難しいと思いますので、ぜひ一度試してみてください!


そして、この『味の相乗効果』ですが、昆布と鰹節以外の組み合わせでも起こります。
例えば、
〇鶏肉のトマト煮込み→イノシン酸+グルタミン酸
〇干し椎茸と昆布で出汁→グアニール酸+グルタミン酸
上記はとっても理にかなった組み合わせです。

反対に以下のような、同じ型のアミノ酸の組み合わせでは上手に旨味を増やすことはできません。
×トマトの昆布出汁の煮物→グルタミン酸+グルタミン酸
×豚肉の鰹節まぶし→イノシン酸+イノシン酸

以前、精進出汁の研究をしていた時に、昆布出汁+あおさのりの組み合わせは全然美味しくなかった記憶が鮮明にあります。
それぞれ単体で旨味があって美味しいのでいけると思ったのですが、科学的にも上手に相乗効果が見込めない組み合わせ、全然だめでした。


「味の相乗効果」をきちんと理解できると普段のお料理シーンで活用できます。

椎茸のバターソテーに醤油を垂らす(グアニール酸+グルタミン酸)とか、鶏肉をシンプルに塩コショウで炒めるときに塩を藻塩にしてみる(イノシン酸+グルタミン酸)なども効果があります。
トマトのパスタを作るときに、アンチョビを少しくわえたりするのも同じ原理です。
豚肉とキャベツの野菜炒めを作って、ちょっと何かが足らないと思ったときには、塩ではなくお醤油を入れてみても良いでしょうし、もしかしたら隠し味に海苔の佃煮を入れても美味しくなるかもしれません。

このように原理がわかると、とっても料理が面白くなってきます。
是非参考にしてください。


というわけで、今回は出汁のお話をさせていただきました。鰹節や昆布の話など、お話したい内容はたくさんあるのですがボリュームが多すぎるので続きは別の機会に!



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