泣いているのは
誰かが泣いている。
だが、わたしの知ったことじゃない。
そんなこと、わたしにはどうでもいいことだ。
構わず踏み台を蹴ろうとした瞬間、さらに泣き声が高くなった。
あまりに悲しげな声に、反射的に振り返ってしまった。
鏡の中でわたしが泣いていた。
泣いているのはわたしだったのか。
首にロープをかけて、今にも踏み台を蹴ろうとしているわたしが。
泣いている。
——いや違う。
——あれはわたしじゃない。
わたしの姿をした私の守護天使だ。
そう直感した。
わたしの背にあんな大きな羽根などあるはずがないのだから。
そうして悟った。
わたしが今しようとしていることが、どれほど彼を悲しませているのかを。
それとも、あれはわたしの姿なのだろうか。
あれはわたしだろうか。
鏡をもっとよく見ようとして、まとわりつく紐を振り払い、
わたしは踏み台から足を下ろした。
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