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【ショートショート】生還

 「...…らなくちゃ、帰らなくちゃ。生きて、帰らなくちゃ...…」

 

 数時間前、S氏は夫に頭を殴られ山に埋められた。だが、意識はある。後頭部の激痛に耐えながら、なんとか土の下から這い出た。深夜の深夜の山は骨にしみるほど寒い。実際S氏の肘からは折れた骨が飛び出ている。稲妻迸り、冷たい雨が降り出した。傷は痛み、凍てつく雨は肌を引き裂かんばかりにうちつけた。それでもS氏の思いはただ一つ「生きて帰らなくては」その思いを胸に一歩を踏み出す。あり得ない方向に曲がった足首を引きずりながら。

「生きて、家に、帰らなくちゃ、生きて帰らなくちゃ、だって、今日は……」まるで念仏のように呟きながら家を目指すS氏。

 ゾンビのように変わり果てた姿で帰宅したS氏を見た夫は恐怖に震えていた。夫をよそに、S氏は無言で台所に向かい包丁を握り、笑ってみせた。

「生きて、帰ってきたよ..…。だって今日は、毎週月曜日はカレーって決めたじゃないっ!」


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