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【ショートショート】階段社

 目指すは地上20階の事務所、エレベータは無い。
 階段を1段ずつ踏みしめる。真白のやたらと清潔な階段。この階には病院でもあるのだろうかと思えるほどに潔癖ささえ感じる。手すりを使うこと無く最初の折り返し地点を曲がると、今度は目が痛いほどの黄色い階段が現れた、階段の中程まできたところで違和感に気がついた。先程とは一段の高さが違うように思える。色による錯覚だろうか。
 次は緑だった。しかも微妙な緑。昔の冷蔵庫なんかに使われていたような緑である。今度は一段が低いように感じる。それからも黒、青、赤など無数の色、しまいには銀や金の階段すら現れた。段数を実際に数えると各色ちがうこともあった。大きさも違う。流石につ疲れて手をかけた手摺のデザインも違っていた。
 最後の階段に差し掛かる。最後は透明な階段で今まで登ってきた様々な階段がまるで万華鏡のように見え、少し目眩がした。最後の一段を踏ん張るように登り終え、息を切らし事務所の前に座りこんでいると扉が開き事務所の従業員が現れ、尋ねた。
「どれになさいますか?」
「色は5階の青……高さは12階………手摺は8階でお願い致します」息を切らしながら伝えた。
「畏まりました」と従業員はメモをとりそっけなく扉を閉めながら、ひと言付け加えた「帰りもお気をつけて」
 今度は、この階段を下らなくてはいけない。まだ息が荒い俺は事務所の扉に刻まれた金文字を睨んだ。

《階段専門デザイン事務所 階段社》


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