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【ショートショート】感謝

 ある探検家がジャングルで熱病に罹り死にかけているところを、とある部族に助けられた。お互い様だが、全く言葉は通じない外国人である探検家を彼らは手厚く看病してくれた。そのおかげもあって探検家は回復し彼らと同じ物をたべ、やせ細っていた体は肉と活気を取り戻した。
 言葉は分からないままだが、探検家は心から感謝を込めて「ありがとう、ありがとう」と日本語で礼を言った。すると彼らは喜び踊り、大きな火の前に連れてきた。心からの誠意は言葉の壁を越えるのだ、と探検家は嬉しくなって「ありがとう、ありがとう」と泣きながら何度も礼を言った。
 嬉し泣きをしていると、部族の若者が探検家を槍で貫いた。そして探検家は縛られ、体中に油を塗られた。薄れゆく意識の中で探検家は「ありがとう」という発音が彼らにとってある意味を持っていることを察した。
 多分それは「私を食べて」

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