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【朝日広告賞】受賞作品の制作裏話と10の秘訣

はじめまして。普段は家電メーカーでコピーライター&プランナーとして仕事をしている谷口泰星です。このたび、第71回朝日広告賞の一般公募部門で「入選」と「審査委員賞(コピー賞)」をW受賞させていただきました。このnoteが初めての記事になるのですが、思い切って企画~制作の裏側を振り返りつつ、公開します。朝日広告賞に限らず、これまでの経験から感じた広告制作にまつわる気づきや学びをTips的にまとめてみました。参考になるかどうかわかりませんが、もし為になったということがあれば、フォローやいいね・シェアなどをしていただけるととても嬉しいです。

入選「遺影より、祖父が見えた。」(新潮社さま)
審査委員賞(コピー賞)「ひとは声と産まれる。」(浅田飴さま)

作るまえに考えること

「意識」が変わると「行動」が変わるとよく言われるように、実際に手を動かす前の「意識」や「心がけ」からものづくりは始まっていると考えています。特に広告制作においては「視座を高める」ことを大切にしていて、常に意識しています。

◆まず誰と組むか。

僕はチームが好きです。自分ひとりでは想像できない景色を見れるからです。あとは単純に、自分が好きな人同士をくっつける(チームをプロデュースする)ことが好きです。この人とこの人が混ざり合ったら面白い科学反応が起きそうだ…(ニヤリ)という感じで声をかけたりします(笑)そして個人的な感覚でしかないのですが、何かアイデアを考えるときは3人チームをおすすめします。2人ももちろん悪くないのですが、2人の場合は矢印が双方向にしか生じません。3人いるとトライアングルになり、矢印の数は6つになります。これがアイデアを客観的に見ることをサポートしてくれます。今回の朝日広告賞も、コピーライターの友人とデザイナーの友人の3人チームで挑戦をしました。得意なことがそれぞれ違って、お互いにリスペクトしあえるメンバーと組むとなおよいと思います。

◆最初からチームで考え始めない。

2つ目にしていきなり逆説的に思われるかもしれませんが、最高のチームができたからといって、チームでアイデアを考えることは基本しません。強いアイデアは、個人の中にしかないと考えているからです。なので、初回の打合せまでに各メンバーが企画の切り口を考えて持ち寄り、発表するスタイルにしました。いうなれば、ここが最初の勝負!よき仲間でありながら、よきライバルでもある。これが最高のチームの条件だと思っています。あと、ブレスト時には必ず他の人の案にも一度のっかってみることを信条としています。「それめっちゃいい!」「それならこんな企画もできそうだね!」など。このタイミングでは冷静に判断することはあえて全くせず、ただひたすらに企画の種を育てることを楽しみます(笑)僕たちは初回のブレストを飲み屋で実施しました。

◆どのくらい頑張るか。

今回の朝日広告賞は、企画から提出まで約1ヶ月の短期決戦で臨みました(理由:単純に後回しにして忘れていたから)。ですが、その1ヶ月間は、ほぼ毎週末チームで集まって作業にあてていました。結果的に、それが功を奏したような気がします。スタートと同時に締め切りを意識することになったので、受賞に届かなさそうな企画の切り口は早くから捨てることができ、集中力を継続させることができました。また、途中で苦痛を感じることなく(笑)最後まで楽しんでやりきることができました。取り組む期間や時間・スタンスなどをあらかじめチームメンバーで意思統一しておくことが大事だと思います。

◆公募は傾向と対策を。

通常の広告制作と違い、公募であれば過去の受賞作というものが存在します。受賞を目指す場合、まずはこれを徹底して「見る」。構造化して整理するのが一番いいとは思いますが、そこまでしなくても、受賞作ばかりをずっと見続けていると共通する「空気」を感じとることはできます。その「空気」をなるべく自分の中に取り入れておくこと。それが後々アイデアを絞るタイミングで役に立つはずです。加えて、「新しさ」が重要とされる広告コンペにおいては、過去の受賞作から既出の切り口を知っておくことも重要です。今回、僕は(受賞を目的に)新潮社さまの課題に取り組んでみたかったので、ここ数年の受賞作を研究し、過去の切り口を数パターンに分類。その中にない新しい切り口を探す(厳密には自分が発見した切り口が既出ではないか確認する)ということを行いました。結果、「本」=「遺品としての価値」に着目した切り口はこれまで存在しなかったので、自信をもって制作に向かうことができました。

◆言いたいことはあるか。

最後に、公募だとしても自分が大切にしていること。それは、その広告に「自分の言いたいことはあるか」ということです。それがない(見つからない)なら、作るべきではないとさえ思います。むしろ、あえていうとすれば、公募という機会は、自分が世の中に伝えたいことを企業や商品という人格を借りて発信するチャンスでもあると思っています。普段から「自分はこう感じる」「世の中にこれを発信したい」ということをストックしておいて、そのメッセージに合う課題を逆算して選ぶ。それができるのが公募のメリットだと思います。ですが、「その商品やブランドが言うべきことかどうか」ということは広告として絶対に忘れてはいけませんし、自分の中でもかなり気を付けているところです。この考え方で今回受賞することができたのが浅田飴さまの作品です。昨年、はじめて子どもを出産される知り合いの方にメッセージを送る機会があり、「母親になる直前に言われたい言葉ってなんだろう?」と真剣に考えたことがずっと自分の中に残っていて、偶然今回の浅田飴さまの課題と合致しました。

作りながら考えること

さて、ここからは具体的な企画や表現についてのポイントになっていきます。正直ほとんどが誰かの知識の受け売りなのでオリジナルの発見はそんなにないのですが、この機会に自分の言葉でまとめてみました。

◆言葉を起点にアイデアを探す。

僕はデザイナーではなくコピーライターなので、ほとんどの場合に関して言葉を起点にアイデアを考えます。ここで大事なのは、いきなり「表現(アウトプット)」を考え始めないことだと思っています。まずは企画を考えるうえでの軸となる「考え方」を言葉で整理していきます。例えば、新潮社さまの作品であれば、「自分の本棚を見せるのって恥ずかしい」→「本はその人自身をうつすから」というように思考をたどっていきました。今度は「その人自身をうつし出す」という本の価値を伝えるにあたって、それが最も魅力的に伝わりそうな状況を考えていきます。そして今回は「亡くなった人の遺品整理」というシーンにたどり着きました(あえて振り返りとして構造的に書いていますが実際は一瞬の脳内の出来事です)。というように、いきなり作品をつくろうとするのではなく、まずは商品やサービスを自分という人間の目を通じて見つめてみることが大事だと思います。余談ですが、人が「いいと感じるもの」って本質的にはそんなに多くないと思っていて… 例えば今回の遺品という観点であれば、本ではなくCDやレコードだっていいわけです。そうした根っこの価値があるからこそ、その商品を売ろうがためのメッセージとしてではなく、そのブランドが世の中をどう見つめているかという「視点」として世の中やお客様の心に届くんじゃないかなあ。いい意味で広告以上のメッセージに拡張されるというか… それが「共感する」ということなのかもしれません。

◆別の表現を考え続ける。

制約がアイデアを連れてくる、という話があります。まさしく今回の新潮社さまの企画もそうやって出来上がりました。詳しく説明していきます。実は最初に考えていた表現案は「亡くなった父or祖父の部屋で、本棚から本を抜き取り読んでいる息子or孫」というものでした。ですが、制作の難易度や納期などを考えると、実現性が難しそうだな…と。モデルさんやスタジオを見つけてくる必要があるし、そもそも本棚となるとそこにある本がすべて新潮文庫なのは違和感がある(作為的な表現になってしまう)よな、とか。実現性の観点から一度は捨てることになりかけたアイデアでした。ただ、切り口には自信があったので、別の表現案を考え続けました。そしてたどり着いたのが「段ボールに入った本を撮る」というやり方でした。これであれば、準備するものは段ボールと数十冊の小説だけ。しかも、登場人物がいなくなったことで、読者がその世界観に入り込む「余白」ができました。限られた条件の中で実現できる方法を考え抜くことで、結果的に表現がよくなることもあるのだと実感することができた貴重な経験でした。

◆1秒で心をつかむ。

グラフィック広告において大事なことは「まず手を止めてもらうこと」です。そこがスタートであり、それができればひとまず成功と言っても過言ではありません。特に新聞広告においては、ページをめくるという行為の中で突然現れるのが広告です。なんだ広告か、とスルーされるか、なんだこれ面白そう、と手を止めてもらえるか。たった1秒の中で読者の心をつかむ必要があります。そのために重要なのが、ビジュアルの力だと思います。スルーされないためには、いい意味での「違和感」をつくることが大事だと考えています。その「違和感」の作り方には実にいろんな手法があると思うのですが、今回僕が意識したのは、コピーを小さくすることです。これ、小手先のテクニックに思われるかもしれませんが、朝日広告賞の受賞作を見るとコピーが小さい作品が多く存在するのがわかると思います。なぜか。これは個人的な所見ですが、コピーが小さいからいい、ということではなく、小さく書いてあることで「なんて書いてあるんだろう?」と読者の手を止めさせる(意識を向けさせる)ことができるからだと思っています(ビジュアル先行型の原稿の場合)。ただ、その分リスクもあります。期待される=コピーのハードルが上がることです。諸刃の剣かもしれませんが(笑)、コピーに自信がある方や、ビジュアルとのギャップを活かす企画にはおすすめです。

◆ビジュアルとコピーの距離感。

上記と似たような話になりますが、最終的なアウトプットの質を決めるのは、ビジュアルとコピーの関係性(距離感)だと思っています。自分でも気を抜くとついやってしまいがちなのが、ビジュアルとコピーに「同じ役割を担わせてしまう」ことです。要は、ビジュアルもコピーも同じことを言っているってやつです。でも、もちろん逆もダメで、距離がありすぎると理解しづらくなってしまいます。適度な距離感というものが重要です。例えば、新潮社さまの作品の話に戻りますが、「段ボールに入った本」というビジュアルに対してどんなコピーを載せるべきかについてはチームでもかなりの時間を費やして議論しました。実は初期案の時点での仮コピーは「父は、まだ生きている。」でした(課題が若者に寄せた内容だったので最終的には「祖父」に変更)。ただ、これは僕がこの企画を考えた張本人だから理解できるだけで、文脈なくいきなりこのコピーを見ても企画の意味までおそらく理解できない(スピードが遅すぎる)のではないかと思いました。そこで「遺品」という観点を伝えるために、写真のほうをアレンジすることをまず検討してみました。段ボールの中に祖父らしき写真を入れてみるとか、段ボール自体に「遺品」って書いてみるとか。でも、どれもわざとらしくなり説明的になりすぎる。結果、ビジュアルは最低限の要素にして、コピーだけで企画が伝わるようにすることを決めました。本当にいろんなアプローチのコピーを検討したのですが、大きかったのは「遺影」という言葉を見つけてこれたことです。この言葉が、企画の理解スピードを速めてくれました。ビジュアルから受ける第一印象は「ただの本」なのですが、コピーまで読むとその意味が分かり、隠されていた物語が浮かびあがってくる。そんな体験設計を細部まで計算してコピーを書いていきました。なので、この作品で入選できたことはとても嬉しかったです。

◆誰かに見せる。

提出前の最終ブラッシュアップ。なるべく客観的に自分たちの作品を見るようにしても、やっぱりどうしても主観的になってしまうもの… そこでおすすめなのが、とにかく誰かに見てもらうことです。ですがそのとき絶対にやってはいけないのが、企画の内容を説明してから作品を見せることです。不安になる気持ちもわかりますが、必ず作品だけを見せましょう。そのとき確認しておくといいのは2点です。1つ目は、まず「意味が伝わるか」ということ。制作経験が浅いうちは、自分の脳内だけで成立する、意味が分からない広告を作ってしまいがちなので要注意です。2つ目は、「どう感じたか」ということ。僕の場合は、途中段階で、新潮社さまの作品を信頼している上司に見てもらいました。すると「意味は分かるがコピーはこれじゃないと思う。」と言われました。そのとき入れていたコピーは「遺影より、祖父が映っている。」でした。祖父の姿が映像的に思い浮かんでくるということを書いたつもりだったのですが、少し複雑すぎるんじゃないか、と。いただいたアドバイスを踏まえてチームで議論した結果、「映る」という要素はなくし「遺影より、祖父が見えた。」という受賞作品のコピーになりました。最終的にどうするかを決めるのは自分(チーム)ですが、誰かに見てもらい率直な意見をもらうことはやっぱり重要だなと改めて思い知らされました。

最後に

ありのままの制作過程の裏話を思い切って公開してみましたが、いかがだったでしょうか…?10の秘訣(秘訣というほどでもないけど)の中で参考になりそうなものはあったでしょうか…?少なくとも、いきなり受賞作品が完成したわけではないことは分かっていただけたのではないでしょうか。今回noteを書いてみて、やはりこうした長い文章を書くことの大変さを痛感しました(笑)。考えることや話すことは得意でずっとしていられるのですが、書くってこんなに気力と体力を使うんですね… 正直ここに書ききれなかった気づきもまだまだたくさんあるので、続きが気になる方はぜひ直接ご連絡ください。会いにいきます。そして、ゴーストライターも募集しています(笑)。最後になりますが、これを読んでくださった方の広告制作に少しでも役立つことができれば幸いです。ここまで読んでくださってありがとうございました。

Twitter:https://twitter.com/iseitachigunita


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