ものがたりのはじめかた

物語の始まり方ってとっても大事ですよね。最初の1文は物語のドアみたいなもんで、さあここから入ってみようかな、どうしようかなって、一瞬で判断されちゃうもの。

だから最初の1文だけ書いてみることにしました。


月曜日よりも憂鬱なのは、水曜日だ。
彼は真っ黒い猫を公園で拾って、シロちゃんと名前をつけてかわいがっていた。
おじいちゃんがわたしの皿のスイカに塩をかけようとするので、わたしは夏のおじいちゃんが嫌いだった。
エスカレーターに、いつもうまく乗れない。
子どもの頃のぼくは、部屋に閉じこもって食事とトイレ以外に外へ出てこない兄を、心底ばかにしていた。
「フクロウを飼ってるの」という彼女の青白い手に、ぼくは恋をした。
ドラム式洗濯機がぐるぐる回るのを、外から眺めるのがすきだ。
毎月二十日の給料日は、すきなだけ本を買う日と決めている。
ピクニックに行きたいなぁ、が彼女の口癖だった。
わたしのお気に入りの匂いのする消しゴムを、全部まっぷたつに折ってニヤニヤ笑うような弟に、仕返しをする日が来た。
結婚するなら絶対に、となりのトトロが好きな人と決めていたのに。
「あのさぁこれまでの人生でなにか一度でも一生懸命やったこと、あるわけ?」と会社の先輩に聞かれて、わたしは今日も泣きそうです。
さっき桃を拾った道で、今度は梨を拾いました。
「かぼちゃが嫌いな人は、ちょっとねぇ。」台所に立つ母は顔をしかめました。
ハンバーガーを頬張りながら退職を伝えると、先輩は「…また俺の心に穴が開いちゃうなぁ」とこぼした。
窓の外は土砂降りで、ねこのマツオはしっぽを揺らして窓辺に座ってる。
お気に入りの、マグカップが割れた。
玄関のチャイムが何度もなって、わたしは耳を塞いで布団に潜り込んだ。
小学生の頃、意地悪な男子にランドセルをどん!と押された記憶が戻る。
読んでない本でいっぱいの本棚をちらりと見ると、文庫と文庫の間から一枚のハガキがはみ出ていた。


20本の物語の始まりを書いてみました。書いてわかったのは、物語って1文目もさることながら、2文目もめちゃくちゃ大事じゃんってこと。だって今は2文目を書きたくてうずうずしてるもの。でも2文目を書いたら次も、また次もって、連なっていって、それが物語になるんですね。この20本の中にはわたしの過去の断片や想像上の出来事が詰まってて、まるで知らない人の心を覗いてるようです。

何もしなければ自分の人生しか生きられないけど、書けば、あるいは読めば、違う人生を歩けるんですね。

こんなにnote人口が増えたのも、ひとは誰かの物語を読んだり書いたりしたいからかもしれませんね。


さあ、この1文目から、なにか生んでみようかしら。

サポートは3匹の猫の爪とぎか本の購入費用にします。