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いつかうつわになる日

寒くなった。実家の犬が死んだ。
それだけなんだけど、しぼんでいる。夫がわたしの好きなお店でのランチを提案してくれたり、いつもなら頼まないデザートを頼めば?と言ってくれたり、なんとなしにとても優しくて、わたしが好きなアイスを買ってくれて、折に触れてスタバにでも行こうかと言ってくれて、ああもう早く元気になりたい、と思う。

とても普通に、自然に、わたしは毎日笑う。友達に会って、猫に背中に乗られて、双子がふざけて、毎日笑う。でもなんか違う。ちょっと違う。筋トレの習慣がパッタリと消え、食事の記録も途絶え、おでこには謎のぽつぽつが出た。めまいもある。元気でいたいのに、身体がそうはさせまいとしてくる。くそ。鉄分とってビタミンBとってCとって亜鉛とってそれでもまだ足りないのかい。またアイハーブで注文しなきゃじゃん。

昨日はあんまりにもぼんやりするので散歩に出た。カメラを持って。いつもの野良猫にカメラを向けて慎重にフォーカスをあてると
「充電がありません」
とファインダーに表示された。笑った。
どうやら、起動後3秒くらいなら持つみたい。散歩しながら、気になった葉っぱや打ち上げられたヒトデ、海に続く道を瞬間的に撮る。はは、楽しいや。寒かった背中が、汗ばんだ。お金もそう持ってないのに買ったPanasonic製のLeicaの中古のレンズ、すごくいい。いいね。

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ほんとは2日くらい家族とも友達とも会わずに過ごしたい。知らない街の知らないホテルに泊まって、誰にも起こされず、快適に寝返りをうって朝まで寝たい。お金はどうにかなるとして、今はその時間がない。家事育児の100%をメイン担当し始めて6カ月が経った。平日昼しか大きく動く時間がないし、カレンダーで夫の予定が入ってないからって夫が仕事をしていないわけではないので、夜出かけるのには夫への気遣いと調整が必要で、それをするにもHPが必要で。

そう考えたら、昼間の時間で最大限に自分の好きに過ごし、好きにふるまうのがいい。昼活ってやつなのか。

けれど、それも気が乗らない。「終わり時間」が気になるからだ。わたしが朝活をしないのも同じ理由で、朝活は子どもが起きたら終了せざるを得ない。昼活も子どものお迎えの時間には終わらないといけない。けれど夜は、自分が眠たくなって仕方なく布団に入るまで続けられる。終了を自分で決められる。子を産む前に会社員してた頃と変わらない。

でも、その夜活タイムで何をするって、実家の死んだ犬の写真を何度も見返して整理したりしちゃう。自分の悪いところを考えたりしちゃう。なんてこった。

結局いまは、喪に服すしかないのかもしれない。

いつかうちのねこたちも死ぬ日が来る。来るけど、来ない。まだ来ない。まだ来ないと思うから、あくびをするねこを見ても泣かないでいられる。

いまはただ、練る前の硬い粘土みたいに、ごろんとしている。いつか、うつわに、いつかハニワに、いつかティーカップになるかもしれない。でもまだなんでもない。なんでもない自分で、カーペットのうえに、転がっている。







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