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風に吹かれて

2022年 5月

“How many roads must a man walk down
Before you call him a man?”

(Blowin’In The Wind / Bob Dylan)

 このところ「風に吹かれて」を繰り返し聴いている。ちょうど半世紀程前、アメリカがベトナム戦争で北爆を繰り返していた頃、学生時代に聴いていた歌だ。
 狭くて汚い我が事務所で、ガンガン音楽を浴びながら「緊急上映」呼びかけの手紙を書いている。

 アトサキ考えずに「緊急上映」を立ち上げたこと、集客の目算もなく上映を決めたことに、周りの仲間たちから厳しい批判を受けている…。
 でも、目を瞑って突っ走らなければ拓けない道もあるのだ。
 「何もオマエがムキにならなくたって、メディアがちゃんと取り上げてくれるよ…」と言う奴もいるけど、果たして、そうだろうか? マスメディアにとって「ニュース」は商品、賞味期限が切れたら“そこまで”だからね。新聞もテレビも週刊誌も、もちろんSNSだって同じ…。
 逆に言えば、だからこそ我々のような存在の意味があるのだ。撮り始めたら何年でも何十年も撮影する。上映に取り組んだら半永久的に観せ続ける。我がいせフィルムのような愚直な在り様が…。

 今回の「緊急上映」のプログラムは、昨年秋に公開された最新作『いまはむかし』と、27年前の長編処女作『奈緒ちゃん』か『やさしくなあに〜奈緒ちゃんと家族の35年〜』のカップリングだ。
 『いまはむかし』は80年前の大東亜戦争(太平洋戦争)で自分の父親がかかわったプロパガンダ映画製作を巡る物語。『奈緒ちゃん』『やさしくなあに』は、障がいを持つ姪っ子・奈緒ちゃんと家族の日常を淡々と描いたヒューマンドキュメンタリーだ。
 いせフィルムの傑作の数々を、戦争状況の今だからこそ観てほしいと思う。テレビ等に映し出されるセンセーショナルな戦争の現象から一歩身を引いて、「いま」のことを深く受け止めてほしい。「他人事」ではなくウクライナのことやミャンマーのことを考える道筋を、一人ひとりが探ってみるためにこそ、「緊急上映」に呼応してほしいのだ。「自分事」を生きる…ということだ。

 映画『奈緒ちゃん』『やさしくなあに』の最新の感想を紹介しよう。

「普通に過ごす、ということが大事で、難しい事なのですね」

「純粋に“生きる”という事の本当の意味が、じんわりと伝わってきました」

「世界中の人に、奈緒ちゃんの“やさしくなあに”が届いてほしいと思いました」

 『やさしくなあに』は奈緒ちゃんが発する独特のコトバ「奈緒ちゃん語」から名付けられたタイトルだ。喧嘩や意地悪が大嫌いな奈緒ちゃんは、いつも小さな声で「やさしくなあに」と呟いてました。
 小さな声だけど、世界中に聴こえるような気がしてタイトルにしたんだけど、今、本当に世界中に響いてほしいと思う。
 優れた映画は時代の半歩先を行くものだ…と誰かが言っていた。『いまはむかし』はもちろん『奈緒ちゃん』も『やさしくなあに』も半歩先を行っていると思う。
 「緊急上映」が日本中、世界中に広まりますように…。


“The answer, my friend, is blowin' in the wind
 The answer is blowin' in the wind”

(Blowin’In The Wind / Bob Dylan)

答えは「風に吹かれて」いる…


(伊勢真一)



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