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ワークショップ1 高等教育の未来 参加者レポート

この記事はi.school2021年度第一回レギュラーワークショップとして実施された「高等教育の未来」1日目の参加者レポートです。

2021年度第一回レギュラーワークショップ
テーマ:高等教育の未来
ファシリテーター:堀井秀之(i.schoolエグゼクティブ・ディレクター)
会場:Zoom

日程:
2021年4月24日(土)-4月25日(日)、
4月29日(木)-30日(金)
9:00‐16:00

プログラム詳細


2021年度の初回レギュラー・ワークショップ(WS)は、「高等教育の未来」。
全4日間のWSでは、現在の日本の高等教育において当たり前だと思われていることを探し、その背後にある原因や考えを分析したうえで、それらを覆すというバイアスブレイキングアプローチによって未来の高等教育の在り方についてアイディアを考案しました。

「分析に値する」か否かは、
1「当たり前」についての視点の新規性
2「当たり前」が覆されることで生じるインパクト・有効性
3「当たり前」を当事者として変えたという思い・情熱
をもとに判断しました。

現在の日本の高等教育での「当たり前」のリストアップには、苅谷先生・吉見先生著書の『大学はもう死んでいる? トップユニバーシティーからの問題提起』を読み、そのうえで高等教育前から就職までの時間軸や、学生・教員・社会人といった複数の視点を意識しながら、高等教育を受ける私たちが当事者として思う「当たり前」を素直に書き並べました。

私たちのチームでは、最初に4人で持ち寄った100個程度の「当たり前」を16項目に分類しました。挙げられた「当たり前」は、メンバー全員が経験し共感できるものから、メンバー個人の環境による新しい視点を含むものまで非常に幅がありました。これらを分析に値するかどうか意識しながら、メンバーが気になるものや議論を深めたい10個程度に絞り、次回Day2のアイディア創出に備えました。

チームによっては少し早めに「当たり前」の背後にある原因について議論を始めているところもあり、議論の進め方にもチームの個性が出ているようでした。
また、懇親会も開催され、堀井先生の就寝前のルーティンや山中寮での思い出などi.schoolに長く携わっている方にとっても意外な一面を教えていただきました。

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稲富翔伍
東京大学工学系研究科社会基盤学専攻
2021年度 i.school通年生


【Day2 (4/25)】

2日目は、1日目で共有・整理された現在の日本の高等教育の当たり前の事象をもとに、「当たり前の事象の分析」、その事象を裏返す「アイディアの発想」、最後に「アイディアの評価」まで取り組みました。

参加者はまず、当たり前の事象の原因について議論し、それらを覆す可能性から新しい当たり前を仮定し、新しい当たり前を実現するためのアイディアをリストアップしました。その後、「アイディアのメリット」「バイアスブレイキングであるか」「実行の可能性」の3つの基準をもとにリストアップされたアイディアを評価しました。

私たちのチームは1日目で出された幅広い事象から、メンバー一人一人が一番変える価値のあるものを選び、それらをもとに「企業と大学が融合する新たな教育機関」「卒業年限のない大学」などの面白いアイディアを出しました。メンバー一人一人のバックグラウンドの差異によって、視点、注目する分野と思考プロセスもそれぞれ違いますので、お互いにいい刺激をもたらしたグループワークだと思いました。

午後は午前に出たアイディアの「総括的分析」から始めました。これまでのグループワークでチームが納得できるアイディアは出せたかどうかを確認し、これまでのプロセスの改善点をリストアップし、3日目の再試行に向かってプロセスを再設計しました。

私たちのチームでは、同じ「当たり前の事象」でも当事者の関わり方によって全く違う捉え方ができるなどの指摘から、当たり前の事象の考え方やその事象を裏返した新しい当たり前を構想する方法を中心に論じてきました。2日目を振り返ると、「高等教育の未来」という社会性のあるテーマ自体の価値のみならず、イノベーションを起こすプロセスについても、今一度確認することができた有意義な時間になりました。

王 琦
東京大学工学系研究科建築学専攻
2021年度 i.school通年生

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【Day3 (4/29)】

3日目では、2日目の午後に行ったアイディアの統括的分析・ワークショッププロセスの再試行の設計に基づき、アイディアの再発想・精緻化を行いました。

私達のチームで2日目の統括的分析で出た反省点として、現在の高等教育の当たり前を挙げる際に、自分達が現在目の当たりにしている具体的な事象をそのまま挙げてしまっており、その具体の背景にはどういった本質(深いバイアス)があるのかといったところまで見れなかったため、本当の意味でバイアスブレイキングなアイディアが生まれなかったという点がありました。この反省を活かし、私達のチームは今一度、深いバイアスを挙げるところから始めました。

また、2日目のワークショップで挙がった当たり前の中から覆すものを選択する際に、集団心理に陥り、冷静に正しい判断を下すことができなかったため、3日目はDP*の方からフィードバックを頂きました。2日目の反省点をしっかり活かした結果、社会に大きなメリットがありそうなバイアスブレイキングになっている良いアイディアの発想につながったので、ワークショッププロセスのPDCAを回すことの大切さを身をもって感じた1日でした。

余談ですが、実は私のチームでは、2日目のワークショッププロセスの評価の際に、そもそも今回の発想法自体は有効なのかどうかという議論が起こりました。

現在のバイアスによって困っている人間が居るわけで、ならばただバイアスを挙げて、単純にそれを覆すアイディアを出すのではなく、バイアスにより困っている人がどんな人なのかペルソナを設定して、その人に寄り添う形でアイディアを発想していくべきなのではないかという意見がでました。つまり、デザイン思考の方が良いのではないかということです。

しかしながら、議論を重ねる中でデザイン思考のアプローチでは、常識を覆すアイディアが生まれにくいということが分かりました。「現状、〜といった課題で〇〇な人が困っているから、それを解消するアイディアを考える」というやり方では、結局現在のニーズを満たすアイディアしか生まれません。

一方、私たちが目指す、破壊的イノベーションとは未来のニーズを満たすアイディアを創ることであり、したがって、デザイン思考は破壊的イノベーションに繋がりません。
デザイン思考は最初にターゲットを設定しますが、バイアスブレイキング手法はそうはしません。ニーズといった部分は、アイディアを発想してから、後から浮かびあがってくる。爪楊枝の新しい使い方を考えようとなった時に、ニーズを考えることから始めたりはしません。ただ今の当たり前の使い方を覆す案を出していく。誰がそう使いたいのかといったようなことは後から分かる。これに近い気がします。

イノベーション・シンキングの世界的第一人者である濱口秀司氏は「デザイン思考が、改善・改良=消極的イノベーションであるのに対して、バイアスブレイキング手法は、未来ニーズに立脚した、商品やサービスの置き換えを生み出す破壊的イノベーションである」と述べられました。

今回のワークショップでは、一旦立ち止まり、提示された新しい発想手法はそもそも有効なのかどうか、チームで議論し合えたことで、破壊的イノベーションを目的とした際のバイアスブレイキング手法の可能性に気づくことができ、非常に勉強になりました。

大場 爽一朗
東京大学・文学部・人文学科・美学芸術学専修課程・4年
2021年度i.school通年生

*DPとは
ディスカッション・パートナー。主にi.school修了生で2年目以降にグループファシリテーションやチームワークについて学び、チームをサポートしている学生のことを指します。

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【Day4 (4/30)】

「高等教育の未来」をテーマにしたws1最終日、Day4では、今回のワークショップの締めくくりとして、アイディア発表が実施されました。

A~Eの全5チームが30分打ち合わせをした後、1チーム7分のプレゼンテーションでアイディアを紹介し、8分質疑応答を受ける形式で最終的な成果物を吟味し、最後に他チームやDPの方々からのフィードバックを元にした発表の振り返り・総括を行いました。

DAY4を通して最も感じたことは、どの班のアイディアも学生主体の教育制度実現を共通項としており、現在の大学が抱える課題点が共通認識でありました。様々なバックグラウンドを持つ学生が集まるi.schoolで、共通認識があったことは、私自身、非常に驚きました。

また、発表後の他のグループのアイディアや、フィードバックをもとに、4日間のグループの議論で至らなかったこと(事例調査など)や、自分たちのアイディアを多角的に見つめなおす意見を学ぶことは、今後のアイディア発想の成長を大きく促すと思いました。

ワークショップ全体を振り返ると、目的・手段分析、バイアスブレーキングに基づくアイディア発想、アイディア評価、総括的分析、アイディアの選択・精緻化の一連のプロセスを最初に学ぶことは非常に重要だと思います。一年間かけて学ぶ一連のプロセスを最初のワークショップで経験しておくことは、多くの失敗からより熟成された技術を最終的に獲得できることに繋がると、私は確信しています。また、円滑なアイディア発想の思考法や、メンバーの意見への理解力や分析力など、各プロセスの課題も認識できました。これからの1年間のワークショップを通じ、これらを探求していきたいと思いました。

北川 貴一
早稲田大学基幹理工学研究科機械科学航空宇宙専攻
2021年度i.school通年生

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