雑文(14)「暑くて暑くて」
しかたないのと、わたしはしかたなく思うのだけれども、暑くて暑くてしかたない。
暑くて暑くてしかたないのだから、暑くてもしかたないと、しかたなく思いたいんだけれども、わたしは、暑くて暑くてしかたないわたしは、暑くてもしかたないと、なかなかこれがね、あきらめがつかないから、困る。
部屋のクーラーは効いていたし、アイスコーヒーをさっき飲んだばかりだから、暑くて暑くてしかたないわけないんだけれども、わたしは、暑くて暑くてしかたないから、しかたない。
暑くて暑くて
だらだら、だらだら、汗をだらだら、だらだらかいては、だらだら、だらだら、だらだら汗を、だらだら、だらだら、わたしは、だらだら、だらだら、だらだら、だらだら。
しかたないの、暑くて暑くて。暑くて暑くて、しかたない。暑くて暑くて、暑くて暑くて。
暑くて暑くて
しかたないのよ、暑くて暑くて。
洗いたてのまっ白なシーツは、まっ黒に硬さを失って、しっとり、じっとり、わたしの肌に張り付いて、横になったわたしに真夏の不快さを纏わせるのだけれども、わたしは、そんな不快さよりも、暑くて暑くてしかたない、が勝っちゃうから、困っちゃう。
暑くて暑くて、暑くて暑くて
大丈夫。わたしのシルクのパジャマは、わたしの汗に侵される前に、わたしが、ハンガーに掛けて避難させたから、まっ白だったまっ黒なシーツみたいな悲惨な犠牲を負って、わたしにぐしゃぐしゃに丸められてドラム式洗濯機に放り込まれる、そんな未来は、彼に、あるいは彼女に、訪れない。
暑くて暑くて
ぎゅっとなる。毛深さを言ったら、じゃあ炎天下を平気な顔して歩くフレンチブルドッグはどうなの? って疑問に思う。たしかに、彼は、あるいは彼女は、舌を出してハアハア笑った、わたしにはそう見えるけど笑ってないのかもしれないし、やっぱり笑ってるかもしれないけど、暑くて暑くてしかたないわたしにはわからないのだけれども、毛深いから暑いんじゃなくて、暑いから毛深くなる、おひさまからお肌をまもるために毛深くなるんだから、毛深いから暑いんじゃないと、わたしはわたしに一票、投票したい。
ぎゅっとなる。ぎゅっと。暑くて暑くて、しかたないの。暑くて暑くて。ぎゅっと、ぎゅっとなる。
だらだら、だらだら。まっ黒なシーツは、わたしの汗を、だらだら、だらだら、きっとシーツは拒否して、マットレスが、だらだら、だらだら、吸うんだろう。
暑くて暑くて
暑くて暑くて
暑くて暑くて、暑くて暑くて、しかたない。
「ちょっと」
わたしはぎゅっとなる。ぎゅっと、ぎゅっとなる。
「みえこちゃん」
わたしに顔を向けて、ゆきこちゃんは言った。
「暑かったら、離れたらいいんじゃない?」
わたしはゆきこちゃんの瞳を見つめて、黙ってまた、ぎゅっと、ゆきこちゃんのからだを抱きしめていた。
おしまい
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