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「社会課題に取り組む人へ。気候変動アクティビストのメンタルヘルスとの向き合い方」

社会課題とか環境問題に取り組んでいる中で、「もう何もやる気力が湧かない」とか「頭ではもっと動きたいと思っているのに、体が受け付けない」みたいな燃え尽きた状態を経験されたことはあるでしょうか。

今まで3年間くらい気候変動運動に関わってくる中で、僕も何度もメンタルの危機に直面したし、バーンアウト(燃え尽き症候群)を何度も経験しました。

今回の記事では、3年間くらい気候危機に対する活動をしてきた僕が経験してきたバーンアウトやメンタルヘルスに関する学びを共有したいと思います。

僕は今までたくさんの仲間やお世話になった方々に助けてもらい、自分なりにバーンアウトと向き合う方法を学んでくることが出来ました。しかし一方で、とても多くの熱い想いを持った仲間たちが燃え尽きて活動から離れていく様子も何度も見てきました(それもとても大事な決断だと思います。)。

僕が経験したことを共有することで、今動いている人たちが燃え尽きかけた時に、助けを求めるなど対策を取るために役立てるのではないかと思いこの記事を書いています。

3つくらい、自分の経験から僕が学び取ったことを共有したいと思います。
特に、今とても活動に対する思いが溢れている人、周囲との温度差を感じる人、活動をすることが正直つらいと感じている人。そういった方々に届いたら嬉しいです。

(思いが込もりまくり、8000字あります。。暇なときに分けて読んでいただけたら。。🙏)

1. バーンアウトはほぼ確実にやってくる

活動に関わったりとか、興味あるなと思っている人、全ての人に伝えたいのは、「誰にでも、ほぼ確実にバーンアウトはやってくる。だからその経験をしているのはあなただけじゃない。」ということです。

なので、もしモチベーションが湧かなくなったりとか、、どうか自分を責めないであげてほしいと思います。

実際に僕は高校3年生でFridays For Futureの活動を始めた一番最初は、社会や行動を取っていない大人たちに対する「怒り」をモチベーションとして活動していました。いくつかの場所で気候変動の緊急性について話をさせてもらったりして、マーチにも参加して変化を求めていました。
しかし活動していく中で自分の中から「怒り」が湧かなくなってくる感覚がだんだんとありました。それはだいたい活動を始めて3~4ヶ月くらいでやってきました。色々な場所で「怒っている若者像」を期待されていたというのもありますが、それに応えようにも「怒り」という炎が自分の中で燃えなくなった感覚に近かったです。燃料がないのに、火を燃やし続けようとして空焚きになってしまっていました。

正直、アースマンをしていた2019年9月のマーチもまだ微妙にバーンアウト気味だった。

そして当時の自分は、「これほど深刻な問題なのに、なぜ自分は怒れないんだ。何かがおかしいんじゃないか」と自分を責めてしまいました。そして周りでモチベーションを高く活動している仲間をみて、モチベが尽きたなんて話したら自分が必要とされなくなるんじゃないかと思い、正直に相談することもできませんでした。

今振り返るとあれはバーンアウト(燃え尽き)だったと思えますが、当時は感じたことない感覚に戸惑い、受験だから休む!と言って、活動から一度フェードアウトしました。
次の項目で話しますが、結果として僕は復活することが出来ました。しかし相談できる人に出会えたり、新しいモチベーションを見つけられなければ、自分は活動から離れていてもおかしくなかったと思います。

一緒に活動してきた人たちを見ていても、驚くほどに意外なタイミングで燃え尽きてしまったり、モチベーションがとても高いと思っていた人たちこそバーンアウトすることがあるんだと学びました。


3年間気候変動という大きな問題に取り組んでいる中で、プロジェクトを進める上で自分を含め多くの人が陥るバーンアウトの一つのシナリオがあるんじゃないかと思います。
その流れはこんな感じ。

  1. 気候変動の深刻さと社会変革の必要性に気づく

  2. 社会に対する怒りとともにアクションに参加したり、企画をしたりする。新しいことに挑戦するワクワク感や変化が起こるかもしれないという希望感に溢れている。

  3. 求めている変化が見えず、変化のための行動というより「タスクをこなす」感覚になる。

  4. 楽しさやワクワク感などが消えていき、活動をするモチベーションが無くなる。オーバーキャパになる。(バーンアウト)

こんな感じの流れかなと思っています。そしてここで挙げたプロセスに加えて、それぞれの家族・キャリア・人間関係などの要素や差別的発言・アンチコメントなどによるダメージなども重なり、心理的負担がさらに高まるということもあると思います。
先日、イベントでコミュニティデザインについて話してほしいというお話をもらった時にこんな形で可視化してみました。

気候変動という問題においての「成功」として考えうるものは、「政策の変化」「企業行動の変化」などがあると思います。ただそうした成功がいつ起こるか分からなかったり、変化が起きても社会システム自体が複雑なために変化を感じづらかったりすることもあります。

実際に2020年10月に当時の菅首相が2050年にCO2排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)を実現する宣言を発表した時、「やった!ウチらの成果だ!」と思うよりは、「お、変わった」くらいにしか感じませんでした。もしかしたらみんなで朝までお祝いの飲み会をしてもよかったのかもしれないけど、実際に政策的にはもっともっとと求めていく必要もあることを踏まえると、これで満足できないと感じたのも正直なところでした

社会的な変化を求める活動をしていると、社会に対しても自分に対しても目標のハードルが高くなっていく傾向は、多くのアクティビストに見られるのではないでしょうか。大きな変化が起こっても、「これで満足してしまったら問題は解決できない」と感じて、素直に自分を褒めたり休むことをうまく肯定することができませんでした。

2020年にFridays For Future Japanの立ち上げを行い、日本政府のエネルギー政策に対しての戦略やキャンペーンを考えたり、COP26に参加して岸田首相に対して叫んだりと、とても長くモチベーションを保って活動してきたように見える僕ですが、その時々で何度も大小のバーンアウトを経験しています。

バーンアウトをすることは全く悪いことではないし、活動するすべての人が大なり小なり経験することなのではないかなと思います。もちろん社会的変化を起こすためにはバーンアウトはしないに越したことはないですが、それは体と心の声を聞くことでもあるし自分と向き合う時間を取れるという大事なプロセスでもあるはずです。
その期間の自分にとって良かったのは、一切自分を責めずに「めっちゃ頑張ったし、まあそんな時もあるか」と思い、大学の勉強に集中したり、本を読んだり、料理をしたり、とプライベートの時間を持って、自分を大事にしたら、だんだんと疲れが癒えて心に余裕が生まれてきました


社会運動に関わっていると、「これだけ大きな問題なのだから、常にアクションをしつづけないと」という思いにいたるのは至極真っ当だし、本当に素晴らしいと思います。ただそれは、「常に生産的でないといけない」という強迫観念のような思いとも繋がっていると思います。「生産的であれ」と言う呪いは、資本主義にとって都合のいい「機械のように働き続ける」人間を量産するために作られた幻想です

結果として資本主義社会では「ケア」の行為がこの上ないほど軽視され、生態系や地球からの水や空気、食べ物などの形で受け取っていたケアを無視し、略奪を行ない続けたことで気候変動は起こりました。そしてその同じシステムが歴史的な家父長制社会における家事やケアワーク、それを行う女性や人種的マイノリティの人々の軽視に繋がったと思っています。自分、他者、生き物、生態系へのケアを実践することが今求められていると思います。

しっかりと休むこと、人を大事にするということがもっと評価されるべきだし、ひたすら「働き続ける」ことを評価する社会に対するとても大きな抵抗が「休む」ことではないでしょうか。

大学帰って、めちゃくちゃ友達と遊びました

なので、タスク超過になったり、もう無理!!!ってなった時には、ネットやデバイスから離れたりして、自分を大事にして休むことが不可欠でした。
みなさん、本当に頑張っています。だからどうか自分を責めないで、逆に褒めまくってほしいです。


僕自身、「今、自己肯定感下がり気味なんだけど、ちょっと褒めてほしい。。」と仲間に頼ることもあります。

そして自分の身体の中には沢山の微生物たちが住んで大事な機能をしてくれています。あなたと同じくらい彼らも頑張ってくれているので、微生物たち=あなたが喜ぶようなことをしてあげてほしいです。

とても大きなプロジェクトが終わった後には、好きなものを食べて、好きな曲を聞いて、何ならお酒を飲んでめちゃくちゃ弾けます。

僕は大好きなカネコアヤノの「燦々」という曲をかけ「美しいから、僕らはあ」と大好きなパートを歌いながら、自分に対して「あああ、自分がこの世界にいることで、おそらく世界は絶対に良くなってるわ」って語りかけています。
(以前、大尊敬してる先輩に”The world is lucky to have you!”という信じられない褒め言葉をもらってから、自分でも言っちゃえと思って言っています。)

「私はこんな風に自分を褒めてるよ!!」という良い方法がある方、ぜひアイデアお待ちしています。

2: 学び続けることはワクワクを補給すること

2つ目に重要だなと個人的に思うのは、「学ぶこと」です。
最初のサイクルで、成果が見えず→フラストレーションが溜まり→バーンアウトするという流れを説明しました。成果頼みのモチベーション維持をしていると、結果として自分ではなく外的要因に自分のモチベを左右されることになってしまうのではと思います。

その中で自分のモチベーションを大きく支えてくれるのが、問題について深く学んだり新しい解決策を知ることなどの、学びでした。

最初の図をちょっといじった画像ですが、アクションをし、学ぶことで「そうか!ここが問題だったのか!」と気づいたり、「こんな解決策を提案できるのか!」と知り、次のアクションに生かすことが出来るようになりました。
最近読んだ、Erica Chenowethの”Civil Resistance: What Everyone Needs to Know”で、市民的不服従(みずからの良心が不正とみなす国家・政府の行為に対しては,法律をあえて破っても抵抗するという思想と行動をさす。行動の代表に納税や兵役の拒否がある。コトバンクより)の成功は「いかに多様な戦略を取れるか」が鍵になると書かれていました。そのためにも、過去や海外でのアクションなどから学ぶことがイノベーティブなアイデアを生み出すために必要だと思います。

具体的に自分の学びを種類別に分けるとこんな感じです。

  • 問題に対する深い理解:「そうか!ここが本当の問題だったのか!」「人種差別や男女格差と気候変動は繋がっているのか!」など

  • 解決策・未来のビジョン:「市民が政策決定に参加する公平なプロセスとして気候市民会議があるか!」「未来は人間以上の存在たちをケアする必要がある!」など

  • アクションに使える事例・戦略:「核兵器廃絶や男女平等を求める活動の人々は、こうやって議員にアプローチしていたのか。。!」などなど。

気候変動がなぜ起きたのか、本当の問題はどこなのか?という問いを深めると、自分たちが求める変化のラディカルさが一気に高まります。そして解決策や未来の可能性を学ぶと、「こんなワクワクする未来にしたい!」と自分たちの活動がもたらす未来の形を具体的に想像してより大きな希望を持つことが出来ます。他のアクションを学ぶことで、自分たちの活動をブラッシュアップして、次のアクションに繋げることもできます。


今年の6月、大好きな人類学者Arturo Escobar教授のレクチャーを受けた時。
気候変動を解決するためには、家父長制・人種差別・資本主義などの植民地主義的な文化を壊す
必要があると語っていて、超納得💚💚💚

こうしていると「変化」や「成功」がまだ起きていなくとも、自分たちで勝手に変化を考えてワクワクしたり、モチベーションを維持して楽しく活動を続けることが出来ます。

実際に高校時代にバーンアウトした僕が復活できたのは、ある時点で「ワクワク」を取り戻したからでした。気候変動という課題にビジネスや金融、産業などのさまざまな分野で取り組んでいる人たちの話を聞いたり、世界的なESGへの流れを学ぶ中で、「これだけ様々な分野で気候変動への取り組みが生まれている。だとしたら、これから起こる変化もとても大きいのではないか」と思うことができました。

(ワクワクを取り戻したきっかけの1つである、『Climate Reality Project』は2021年秋に日本支部が設立されました。ここでのトレーニングもオススメです。The Climate Reality Project Japan

個人的には「学び続けること」が復活の大きな要因となりました。今では「怒り」から「気候変動を解決した世界はどうなるかを知りたい」という好奇心をモチベーションに転換して活動を進めています。(とはいえ、モチベーションとはこうあるべきと言っているわけではありません。)

写真右。好奇心を取り戻しモチベーションも復活して、
2020年に学生気候危機サミットの開催に関わった時。エネルギーに満ち溢れてる。

自分の好奇心に正直になり学ぶということが、ワクワク感を補給して自分を守ることに繋がると気づいたのもとても大きな収穫でした。

3: 仲間同士でケアし合うこと

そして3つ目は、一緒に活動する仲間と互いにメンタルケアや支え合いを意識することです。

自分もよく陥ったことでしたが、タスクで精一杯になっている時は仲間に対して十分にケアをする余裕がなくなってしまいます。そうなると結果的にメンバーとの事務的なコミュニケーションが増え、一人で淡々と作業をしているような感覚に陥ってしまいました。

だから日々活動をしていく上で、互いに感謝を伝えたり、健康状態をこまめに共有したり、めちゃくちゃ褒め合ったり、という超基本的なコミュニケーションがモチベーションを保つためにとても重要です。

Climate Clockのクラウドファンディングをしていた際には、一緒に動いているメンバー同士で互いに「ああああ、もうみんな大好き!!!」とか「本当にやってくれてありがとう」と日常的に伝え合うことを意識的におこなっていました。

互いへの愛のメッセージが溢れたある夜のMTGの様子

他にもプロジェクトマネージャー的なポジションをしていた時には、プロジェクトの終わりに出来るだけ多くメンバーがいる場所で、「〇〇は___をやってくれた。それなしにはこれは実現できなかった!!まじでありがとう!!」と思いつく限り、全員に感謝のメッセージを口にすることを意識していました。
これをし始めたのは、スパイラルメンバーも多く参加してる350.orgのボランティアをしている時に、スタッフの方にみんながいる場で褒めてもらって超嬉しかったことを覚えていたからです。

こういった細かいケアやアプリシエーションを互いに示し合うことで、「一緒に活動する仲間のためにも自分も頑張ろう」というモチベーションがさらに湧いてくることにも気づきました。


そしてバーンアウトはほぼ確実に訪れるからこそ、自分が元気なうちに腹を割って話をすることができるセーフティネットのような仲間や家族、友人を見つけておくこともとても大事でした。もし何かあったらこの人に相談しよう、という人が先にいるだけで、バーンアウトした時に「助けてー!!」と行動を起こしやすくなるのではないでしょうか。

昼寝をしてまた戻ってこよう。

と、かなり長く書いてしまいましたが、全ての人に僕の経験が当てはまる訳ではないと思うし、モチベーションの保ち方や、チーム内でのケアの仕方などは三者三様だと思います。だから僕が書いていることはあくまで参考程度にしてほしいです。


そして一言書いておきたいことがあります。(追記)
この記事を書いてから数ヶ月ほど寝かせていました。その中で気づいたことが、僕がバーンアウトを乗り越えることができたり、日常的に良いメンタルヘルスの状態を保つことが出来ているのは、自分の特権によることもあるということです。

システヘテロ男性であるがゆえに被差別属性を持っていないことで、女性や性的マイノリティの人々が日々受けているマイクロアグレッションによって疲弊することがなかったり、社会から抑圧されることが少なかったがために自己肯定感を保つことが出来たことはあると思います。

こうした特権性に対して無意識なままメンタルヘルスがどうこうと記事を書くということは、読んでくださっている方の感覚をないがしろにする行為になりかねないと思いました。

なので、この記事で書いてあることが必ずしも参考になるかは分かりません。だし、特権的ポジションにいる人間が書いていることは事実です。この記事を読んでいるあなたなりのバーンアウトやメンタルヘルスとの向き合い方があると思いますし、その形に共鳴する人もいると思います。この記事を読んだ人が、その人なりの向き合い方を発信したり、それによって救われる人が増えるようになったらいいなという思いのうえ、この記事を出すことにしました。

ただ個人的に一番重要視しているのは、「変化が起こるまで、何かしらの形でアクションを続けられること」です。だから長い目で見た時には、自分自身を大切にして休むことは何もしていないように見えるけど、長期的な成功に繋がるとても生産的な行為なんだとも言えると思っています。

そして忘れないでほしいのは、「一人で問題に立ち向かう必要はない」ということです。

アメリカのサンライズムーブメントでは、ミーティングの最後に

昼寝をして、また明日戻ってこよう。
Take your nap and come back tomorrow.

昼寝をしてまた明日戻ってこよう。
Take your nap and come back tomorrow.

私たちは一人で変化を起こす必要はないのだから。
We cannot do this alone」

という歌をみんなで歌って帰るそうです。自分一人じゃなくて、一緒に取り組んでいる仲間が直接的でも間接的にでもいる。自分がしんどい時には、他の人たちにバトンを渡してちょっと頼んだと思えるだけで、また戻ってきやすくなると思います。
(この「バトンを渡す」という表現はハフポスト日本版で臨床心理士のみたらし加奈さんが話されていました。この記事もオススメです。誹謗中傷やバーンアウトとどう向き合う? アクティビストのメンタルヘルス問題を語ろう | ハフポスト LIFE


ご縁があってこの記事を読んでくれているあなたも、一人じゃないです。


繰り返しになりますが「完璧であれ」とか、「休んじゃいけない」と思わせてくるのはまさに資本主義のトラップです。だから昼寝をすることは立派な資本主義に対する抵抗だと大学で友達と話していました。
自分自身を大切にし、休むことによって余裕が生まれる。それはマインドの部分から資本主義社会の呪いを破壊していくことに他なりません。

働いたら、木漏れ日で休んで昼寝でもしよう

「私はケアされていいんだ。自分をケアしていいんだ」と気づけてから、とても心が軽くなったし、大切な仲間をケアしようと思える余裕が生まれました。

まだまだ変化は道半ばだし、より大きな変化を起こすためには、あなたが必要です。

一緒にところどころ休みながら、じっくりと進んでいきましょう。


The world is so lucky to have you! 

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