『希望のかなた』の絶望
北千住にある東京芸術センターのシネマブルースタジオで。あそこはフィルム上映で見れるのがいい、というかたぶんフィルム上映しかできないんだと思う。DCPを入れてたらもっと必死で集客しないとやっていけないもんね。
公開時にみた時には、妻と大喧嘩したことを思い出した。同じく難民を描いた前作『ル・アーブルの靴みがき』が、優しい人たちばかりが登場して、ラストもそれなりに包み込むようなエンディングだったのに、本作が難民にとってきびしさが付きまとうものだったからだろう。妻は、主人公に肩入れし過ぎて、終わったあと不機嫌になり、僕に当たり出したのだった。
いま思うと、この映画は監督のアキ・カウリスマキにとっても、作っていて辛かったのかもしれないと言う気がしてきた。小津安二郎を敬愛して、小津と同じように、作品の中でほとんど暴力を描かなかった彼が、この作品ではわかりやすく暴力を描き、わかりやすく悪人を登場させてしまっている。
もしかしたら、完成後の引退表明は、そのあたりからきているのもしれないとも思えたのだった。あの時、カウリスマキはインタビューに答えて「もう疲れたよ」と力なく笑っていた。難民三部作の2本目を仕上げたばかりだと言うのに、引退だなんて。そう思ったが、2本目をこんなふうに作ってしまったこと、作らざるを得なかったことが、カウリスマキを疲弊させ、引退宣言に向かわせたのかもしれない。
復帰作『枯れ葉』はとてもシンプルなラブストーリーに仕上がっていて、もちろん、ロシアのウクライナ侵攻も取り入れてはいるけれど、だいぶカウリスマキが精神的に落ち着いていることがわかる。
今回、久しぶりにスクリーンで『希望のかなた』を見て、カウリスマキがどれほど時代と向き合いながら映画を撮っているのかがわかったような気がする。
なんとなく作風から、時代の流れに抗って、ノスタルジックな映画を撮っているように思われがちな映画作家だけれど、決して、そんなことはないのだと言うことを、『希望のかなた』は教えてくれる。
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