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me症候群〜受け身でわがまま、努力したくないけど目立ちたい〜

 近頃、大手回転寿司チェーンなどで犯罪行為を行なってその様子をSNSに上げ、炎上どころか警察沙汰になるケースが増えています。また、若者が強盗事件などを起こしていますが、事件の凶悪性に比べて犯人の年齢が低かったり、職業が現役の自衛隊員や会社員だったりすることに驚かれた方もいるかもしれません。

 これらはネットを中心に盛んに「Z世代」としてくくられて批判されていますが、世代の特徴ではありません。Z世代は社会貢献意識や規範意識の強い方も多いですし、思慮深い方もたくさんいます。一方で古くは「バカッター」「迷惑系YouTuber」と言われていたように、売り物のおでんをツンツンしてしまったり、会計前の刺身を食べてしまったり「バイトテロ」と言われていたような、衛生的に問題のある行為をして炎上したりとZ世代に関係なくそういう人たちは一定数存在します。いずれも逮捕や賠償金を請求されるなど制裁を受けており、人に迷惑をかけたら自分に返ってくるというのは明らかですが、定期的にこういった行為をする人たちが現れます。

 他人に迷惑をかけても気にしない、自分は反省しない、自分は悪くない、環境が悪い、周りが悪い、相手が悪い。という考え方をしてしまうことを「me症候群」と言います。ただしこれは病気ではなく、こどもたちが豊かに育つ環境が失われてしまった時にあらわれてしまう「考え方」「行動」の特徴です。

 例えば「私立学校に行かせてもらっているのに、親に文句を言う」「万引してしまったことを自分の育った環境のせいにしてしまう」「目立つために人に迷惑をかけることを気にしない」などもme症候群です。

 確かに厳しい家庭で受験勉強を強要されてきつい思いをする人もいるでしょう。親に問題のあるケースもあります。しかし、多くの場合は親もよかれと思ってそういう行動に出ています。自分の意見を持ち、親の気持ちや考えをしっかりと聞きながら衝突や対話を繰り返して段々と精神的にも社会的にも自立していくのが大人になるということです。社会には学費を払ってもらえない人もたくさんいる中、親からお金を払ってもらいながら対話もせず文句を言っているのは、周りも見えておらず、人として幼いと言わざるを得ません。

 また逆に厳しい家庭に生まれたからと犯罪を犯す事を正当化することも間違っています。自分が苦しいことと、他人を傷つけて利益を得ることは関係ありません。苦しい環境から努力を重ねて幸せな人生を勝ち取った人はいくらでもいます。(ただし、そもそも苦しい環境で育った人がそこから抜け出すために他の人と異なる特別な努力をしなければならないこと自体に問題があります。社会の側には苦しい環境で育った人もそこを抜け出し、幸せに生きられるような社会にしていく責任があります)

 ではなぜme症候群が生まれるのでしょうか。
社会というのは人と人との関係性の集合体です。そして関係性に大切なのは「I」「You」「We」です。
中学の英語でやったように「I」は「私は」「私が」。「You」は「あなたは」「あなたが」。そして「We」は「私たちは」「私たちが」です。

 「私はこう思う」「あなたはどう思う?」「私がこうした」「あなたがこう言った」「わたしたちはこうしよう」といったやりとりが「対話」であり、社会は対話の積み重ねで成立しています。私には私の意志と責任と権利があり、あなたにはあなたの、そして私たちは私たちとしての意志と責任と権利があります。

 しかし、me症候群の人はそうではありません。「me」とは「私を」「私に」「私のことを」「私にとって」です。常に受け身であり、どんな時も自分が優先され大切にされるべきだという考えです。

 実は「自分は大切にされるべき」という考え方は非常に大切です。自己肯定感は「自分にはいいところもあるし、ダメなところもあるけど自分は幸せになっていい。大切にされていい」と心から思えるところから始まるからです。そのためには幼少期に無条件を愛を受けることも大切です。

 近年、日本では管理教育の反動で、こどもの気持ちを大切にする子育てや教育が奨励されてきました。その事自体はよかったのですが、そこで大きな失敗だったのは「me」だけを教えてしまって「I」「You」「We」の概念を育ててこなかったことです。

 何かあった時にこどもの話だけを聞いてそのまま受け止めてしまうことで、こどもは「自分の気持ちは何よりも優先される」「わがままを言えば言うほど大切にされる」と誤った学習をしてしまいます。この誤った学習の手助けをイネイブリングと言います。

 こどもの話を聞き、受け止めるとともにこども同士のケンカだったら相手の子の気持ち、家族だったら家族の気持ちや考えなどをきちんと伝え「"私たち"にとって最善の結果はなにか」を常にこども自身が考えられるようにすることが大切です。

 これまでの社会では、こどもたちはこども同士のあそびの中でそういったことを学んできました。自分勝手なことばかりを言っていたら友達はいなくなりますし、楽しい遊びもできません。遊びの中で楽しいこと、嬉しいことと同じくらい悔しいこと、悲しいことを経験してそれを自分自身で乗り越えることで「I」「You」「We」の概念を学んできたのです。(逆に言えば、学校教育の中ではこういったことは教えられてきませんでした)

 しかし、コロナ前に行われた千葉大学の研究によれば、今の小学生の約8割が平日に一度も外遊びができていません。こどもたちは自分一人でYoutubeを見たりTikTokを見て「人に迷惑をかけても目立てば金を稼げるんだ。有名になれば帳消しになるんだ」「一発当てれば何億円も稼げるんだ。人間関係に苦労しながら学校に行ったり働くなんてバカらしい」ということを学習しています。また進学塾などでも受験を通じて「自分だけのことを考えろ」「他人を蹴落とせ」といったことを学習してしまうケースもあります。

 また学童保育や習いごとでも「ケガをさせない」「保護者からの苦情が来ない」が最優先となってこどもの自由な活動を制限していたり、逆にこどもに対して「ダメなことはダメ」「間違っていることは間違っている」と言えない大人が増えています。こういった環境が総合的にme症候群になってしまうこどもや大人を増やしています。

 日本ではあそびは悪い言葉として使われています。「遊び人」「遊んでばかりいないで勉強しなさい」などなど…一方で、文科省が2万人のこどもを18年間に渡って追跡した大規模調査でも「こどもの頃のあそびが将来の自己肯定感を高めること」がわかっています。リンク

 me症候群のまま大人になってしまった人が抜け出すためには、恋人、師匠、親友など「自分よりも大切な人」「失いたくない人」と出会い、その人が「お前の考え方は間違っている」と粘り強く伝えてくれるしかありません。そのくらい、大人になってから人を変えるのは難しいです。ましてやごく一部とは言え、「迷惑系」「炎上系」と言った、人に迷惑をかけてお金を稼いでいる人がいて、有名人がそういった人とコラボしたり擁護している状況では、自由を履き違えてしまう人が増えるのも仕方ないのかもしれません。

 そんな社会環境の中、我が子がme症候群になって人に迷惑をかけたり犯罪を起こさないためには、幼少期からこどもと対話を重ねること、こども同士の世界、こどものあそびやその中で起こるたくさんの失敗や経験を尊重すること、「あなたのことは大切だけど、あなた以外のすべての人も大切にされなければならない」ということを伝えていくしかないでしょう。

すべての人がしあわせに生きていけますように。

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