余命を予測する
ひとつ思考実験をしてみましょう。
健康な3万人の健康診断を集めます。数年後、3万人のうち何人かは亡くなっているでしょう。 では、亡くなった方は、どの体の数値(血圧、血糖値、コレステロールなど)が悪かったのでしょうか? これが分かるなら、体の数値を使って死亡する確率が計算されます。保険会社なら、保険代を安くしたり、高くしたりすることができます。
オランダの調査
実際、このような調査をした研究者がいます。オランダのウオルフェンバットル(Wolffenbuttel)たちです。 彼らは72,880人の健常者の診断データを入手します。6年後、1056人(1.4%)が糖尿病になり、1258(1.7%)が心疾患と診断され、928名(1.3%)が亡くなります。
参加者: 72,880人
参加者の平均年齢:43.7才
糖尿病になった人数: 1,056人
心疾患と診断された人数: 1,258人
亡くなった人数: 928人
解析した数値:
■皮膚のAGE(SAF)
■年齢
■肥満度(BMI)
■腹囲
■血糖値
■ヘモグロビンA1c
■収縮期血圧(SBP)
■拡張期血圧(DBP)
■心拍数
■総コレステロール
■中性脂肪
■腎機能(eGFR)
■喫煙習慣
■コーヒー消費量
■メタボリックシンドローム
数値を解析すると、以下は死亡リスクと関係ないことが分かりました。
肥満度(BMI)、ヘモグロビンA1c、血糖値、拡張期血圧(DBP)、心拍数、総コレステロール*、中性脂肪、腎機能(eGFR)、コーヒー消費量、メタボリックシンドローム
死亡と相関する生理物質
逆に、死亡と関係するのは、以下の通りです。オッズ比は、死亡する確率を意味しています。オッズ比が大きければ大きいだけ、死亡への影響力が大きいことになります。
「いえいえ、これらの数値が悪いと病気ですよね。影響がないなんて、にわかには信じられません」と、おっしゃるかもしれません。 それもそのはず、期間が6年と短いため、因果関係が明白に判断できなかったのです。長期的に観察ができれば、これらの数値の影響力も分かったかもしれません。
AGEが余命を予測する 6年という短い観察期間でしたが、皮膚のAGE、実際の年齢、性別、腹囲、収縮期血圧、喫煙習慣、は死亡リスクを予測することができました。特に、AGEと喫煙習慣のオッズ比が高く、死亡に強い影響を与えることがわかります。
AGE測定を健康啓蒙へ
皮膚のAGE値は光をつかい非侵襲(体への負担なく)に測定することができます。しかも、測定時間は20秒程度と簡単です。 この論文では、AGE測定により健康啓蒙活動ができることが示されています。たとえば、AGE値が高めの人がいるとしましょう。AGEは食事に気をつけることで下げることが可能です(血糖値を上げすぎない、過剰な加熱をしない、糖質を最後にとる、酢など酸味のある味付けをするなど)。 食事アドバイスを行い、少しでもAGEを下げることができれば、その方の死亡率を下げることができるのです。AGE測定は、保険診療ではありませんが(オランダでは保険診療になります)、人の命に貢献する、社会活動になるはずです。
参照資料
Diabetologia. 2019 Feb;62(2):269-280. Epub 2018 Nov 21.
Skin autofluorescence predicts incident type 2 diabetes, cardiovascular disease and mortality in the general population.
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