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一番好きだった恋人

3年ぶりに恋をして、全力で好きになって、愛情もたくさん注いで、この人ならと思った人に逃げられた。っぽい。
音信不通になって2週間。仕事が忙しくて連絡できなかった、が通じなくなってくる時期。
確かに仕事がすごく忙しい人ではあったけど、何の連絡もなしに連絡が途絶えることはなかった。
そもそも私が連絡ないと不安になりやすいことを知ってるはずだし
このことで何度も揉めてるのに、まだそれをしてくるってことは
私との関係を軽視しているし、どうポジティブにとらえても配慮がなさすぎる。

その人は外見だけ見ると本当に私の理想で背が高くガタイもよいひとだった。
初めて会ったときはまだ寒くなり始める時期で、体調があまり良くなかった私に経験がないような気遣いを見せてくれて、あっという間に好きになった。
あれよあれよという間にお付き合いすることになって、今まで感じたことのない多幸感と自己肯定感で本当にいい人に出会えた、運命的だと思った。
さらに彼は、異国の人だったのでその感覚はひとしおだった。

違和感を感じたことがなかったわけじゃない。
嫌だといったことをやめなかったり、傷ついたことを伝えても「不安にさせないため」と言いくるめられた。
それでも私は「甘えているんだな、かわいいな」と思い込んで、それを彼なりの愛情表現だと錯覚した。
彼と私では育った文化が違うので「外国人だから」と納得することができた。

だけどそれは長く続かず、納得できないという感情が大きくなっていった。
彼の態度は日増しに大きくなり、私が少しでも嫌がったり、怒るそぶりを見せると「昔はもっと優しかった。俺のことを大切にしてくれ」と言われ、何も言うことはできなかった。
ある日、「いつもそうやっていうけど、あなたは私のこと大切にしてる?」と聞いたことがある。
すると「あれもしてあげた!」「これもしてあげた!」と今まで私にしてくれたことを羅列し、あげく「こんなに大切にしてるのにひどい!」とまで言われた。
聞いている身からすると恋人であれば当然と言って差し支えない内容で私も同じようなことをしていたし、それをさも自慢げに言われたところで特に響くわけがない。

だけど、一緒にいて楽しくなかったわけじゃない。
本当にものすごく幸せな気持ちになったし、もし今後、別の人と付き合うことになっても、思い出して比較してしまうだろうと何度も思った。
彼の一挙手一投足が愛おしく、寝ている姿は見ていて胸が押しつぶれそうなほどだった。
優しく、紳士的で、食べることが大好きで子どもっぽい彼が本当に大好きだった。
ここまで人を深く好きになったのは初めてだった。

そんな彼から連絡が途絶えたのは今月初めのこと。
彼はマルチタスクが本当にできないタイプで、目の前の課題を解決しないことにはほかのものに目を向けられない性格だった。
旅行中や仕事が忙しくなると連絡がないことが時々あった。
連絡=愛情という考えがある私はあるとき、寂しさに我慢できず、怒りのまま気持ちを彼にぶつけたことがあった。
「好きだから付き合っている(だから連絡しなくても問題ない)」という考えの彼と「恋人とのコミュニケーションを大切にしたい」という考えの私とでは話は平行線のまま和解することができず、結局私が折れる形で終結した。

それから数日、彼が仕事が忙しくなるタイミングで、連絡が2,3日なかった時があった。
その時は「連絡がしばらくできないと思う」と一言くれていたので、
私は特に気を揉むこともなく彼の連絡を待つことができた。

しかし今回は違う。
音信不通になる前の会話は本当に他愛のないもので、気に障ったり、機嫌を損ねる内容ではなかった。
彼からも「さみしいな、会いたいな」と言われたし、彼は合理的で無駄を嫌うので嘘をついてまで私をつなぎとめるとは考えにくい。
つまり音信不通になる理由が分からない。
最初の2,3日は「仕事忙しいのかな」とぼんやり思っていたが
1週間たっても連絡がないとさすがに不安になってきた。
その週末に一度電話してみた。
いくら忙しくても週末まで仕事はしていないだろうという考えと
今までの統計上、土日に電話がかかってくることが多かったからだ。
電話に出た彼になんて声をかけよう、怒ったりしないように冷静に、心配していたということを伝えようと通話ボタンを押した。
しかし私の気持ちは届かなかった。タイミングが悪かったのかなと思った。
とりあえずメッセージを送って様子を見ることにした。
電話があったことが分かれば、私が心配していることは分かるだろうと。

あれから今まで、一度たりとも連絡はない。
折り返しの電話もない。既読もつかない。
「もうだめだ」という気持ちと「まだ大丈夫」という気持ちがずっとせめぎあっている。
携帯を落としたのか?もしくは壊れたのか?あるいは死んだのか?
考えうる可能性をいろいろ思案しては打ち消されていく。
「私たちはもうだめなんだ」という考えがすべて飲み込んでいった。

好きという感情を保つにはある程度の努力が必要だ。
特に私たちのように遠距離の場合、より一層の努力と気遣いが必要になってくる。
日常生活が忙しくなると物理的に遠い人間の存在感はどんどん薄くなっていく。
だから日々の連絡でお互いの存在を感じ、離れていても会える日を楽しみに頑張れるんだと私は思う。
彼はその努力をしなかった。放棄した。
それはつまり、私との関係を維持する気がないということだ。

理由が分からない音信不通による破局(?)は初めてだったので
気持ちを整理するのにとてつもない労力を使った。
今この文章を書いていて、なんとなく落ち着いてきた。
溢れる感情を自分の中にとどめるのではなく何らかの形で表に出すことは非常に効果的だと分かった。
それから、違和感を感じたり、納得できないことを無視するのはやめようと思った。
相手のことを大切にするのは当たり前だけど、それ以上に自分の気持ちも大切にしないといけないと痛感した。
相手はいずれいなくなるけど、自分とは一生涯付き合っていくので、
やはり優先すべきは自分の気持ちだ。

今までで一番好きだった恋人だったのは間違いないので気持ちが届かなくなってしまったことは素直に悲しいし、こんな形で終わるとは想像もしてなかったのでショックは大きい。
だけど、切れてしまったものはしょうがないので、ゆっくりと傷をいやしつつ、自分の生活を取り戻そうと思う。
夜になると思い出して涙が出るのも前に進んでる証拠だ。

私は私とはぐれるわけにはいかないから いつかまた 会いましょう
その日までさよなら 恋心よ

この失恋で私はまた一つ人間として成長できるだろう。