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読書感想文 宇宙(そら)へ 下巻

こんにちは、かなめです。


今日は「宇宙(そら)へ 下巻」(著:メアリ・ロビネット・コワル 訳:酒井昭伸 早川書房)の感想文です。ネタバレは自己責任でお願いします。


上巻は休暇中のヨーク夫妻にロケット墜落の知らせが届いたところで終わりました。エルマの運命やいかに。


あらすじ

ロケットが農場に墜落し、11人の死者が出た。この事件をきっかけに宇宙進出事業にも暗雲が立ち込める。そんななか、ついに女性宇宙飛行士の応募が始まりエルマは厳しい選考を勝ち残った。宇宙に行けるかもしれないという希望を抱くエルマを待ち受けるのは「女は宇宙へ行けない」という上層部の強い圧力。果たしてエルマは宇宙へいくことができるのか。



感想

上下巻合わせて映画のような読了感でした。まずエルマが人間的な魅力に溢れていたのがよかったと思います。優れた資質を持ちながら過去のトラウマを持っている、けれど周りの助けを借りながら自分の力で未来を切り開く力強さもある、立派な人間だなと思います。

下巻はついに宇宙飛行士の門徒が女性にも開かれます。ですが黒人は門前払い、優秀な中国系の女性も不当な理由で不合格にされます。あからさまな差別が残るのがこの時代(1950年代)っぽいですね。差別反対。白人といえど過度な、そして不必要な応募資格があります。そのために受けれなかった人もたくさんいるわけです。厳しい時代だな。

エルマは合格し、最初の7人の女性宇宙飛行士になりますがここでもいちゃもんをつけられ、実はまだ宇宙飛行士”候補”であると言われます。というのも急に宇宙飛行士とは上空何キロメートルに到達した人である、という基準を設けたのです。本当に姑息ですね。ほんとうに胸糞悪いですがこれがリアリティを出しているのかなと思いました。宇宙飛行士候補なのでもちろん訓練があるわけですが、訓練は報道され、訓練は正式なものではなくしているフリという、どう考えても性別だけで人を蔑ろにしている、ほんと胸糞悪いなと思います。
しかも!7人のうち1人は夫が宇宙飛行士、1人は報道機関の人間という理由で合格していたことが明らかになります。忖度まで働いているとなるともうエルマたち公正な試験を受けたメンバーは怒り心頭です。化粧室で報道機関所属の女性宇宙飛行士を問い詰めたりしています。女性同士にありそうないざこざ感がリアルでした。そしてなんだかんだ和解するのですが、私だったらできない気がするな。

そしてパーカーという男性宇宙飛行士がいるのですが、こいつが、もう、腹立つ~!脅迫、嫌がらせ、作中に書いてないだけでその他諸々も裏で絶対してるよ、という人物です。パーカーは空軍時代にエルマにセクハラを告発され(それは無罪に終わるのですが)エルマに対して強い恨みを持っています。ですからエルマが宇宙に行くことを何としても阻止します。作中ではエルマに直接「女は宇宙に行かせない」と発言するほどです。こいつの裏で泣いた女性がいることを思うと…むかつく~!

この物語ではエルマの実力とナサニエル(夫)の支えがあってある意味打ち負かすことができるのですが、現実だったらこうはいかないな。絶対泣き寝入りしている女性たくさんいるよ。とにかく腹が立つので読んでみてほしい。女性なら(こう言うのも差別を助長しているのかもしれないけど)共感してくれるはず。めちゃくちゃ腹立つから!最後いいやつ風になってるのもめちゃくちゃ腹立つから!

そんなストレスフルな生活を送っているエルマですがいいことがありました。おばのエスターが生きていることがわかったのです。兄のハーシェル一家はカルフォルニアにいて隕石墜落を逃れていましたが、実父母など親戚はみな亡くなったと思っていたのです。おばは施設に入っていたのでハーシェル家で引き取ることに。その際、エルマは自分の職場に連れていきロケットの打ち上げを一緒に見学します。おばはエルマが宇宙飛行士になることを理解していませんでしたが、ロケットを前にエルマにこんな言葉をかけます。

「こんなにも荘厳なものだなんて、思いもよりませんでしたよ。あなたがどうして宇宙飛行士になりたいのかは知らなかったわ。それどころか、宇宙飛行士がどういうものかさえ知らなかった。でも、いまは……」
エスターおばさんは雲をふりあおいだ。そこにはもう、ロケットが飛び去ったかすかな名残も残っていなかった。
「いきなさい。なにがなんでも、宇宙(そら)へ」(p.193)

これは作中の山場の一つかも。エルマにとってエスターおばさんは失ったと思っていた希望のひとつなので、この言葉は希望の言葉としてエルマの胸に強く残るんじゃないかな。


さて、宇宙飛行士”候補”として訓練中のエルマはひょんなことからパーカーの弱みを知ります。パーカーは脚を悪くしたのです。健康状態に問題があれば宇宙には行けません。ですがエルマは黙っていることにします。しかしパーカーもまたエルマが精神安定剤を服用していることを知り、取引(というか脅迫)します。お互いに秘密を守っていたのですがパーカーは遂に脚のことを白状し、手術に踏み切ります。この話、実話らしく実際に脚を悪くして手術し、復帰した宇宙飛行士がいるそうです。

パーカーが手術したため宇宙飛行士に欠員が出ました。早急に宇宙飛行士を選ばなければいけない。そこでエルマが抜擢されます。もちろんパーカーはめちゃくちゃ反対するのですが、それより上の上司の推薦によりエルマはついに宇宙へいくことができたのです。この選抜の前、エルマは高い計算能力でミッションの危機を救い、2人の宇宙飛行士を救った実績があります。宇宙に出れば地球と交信できない間に危機がおこることもあります。ですがエルマならそれを乗り越える能力があると認められたのです。今までのエルマの苦労が報われる、感動のシーンでした。よかったね、エルマ!


隕石墜落後、アメリカは厚い雲に覆われたため、星をみることができませんでした。そんなエルマが宇宙からみた何年ぶりかの星に心を奪われるシーンで幕を閉じます。
物語としては大団円だけど続きが気になる、と思ったらこの作品はエルマが火星で活躍する作品の前日譚だったそうです。前日譚でこのクオリティすごい。読みたくなっちゃうじゃーん。


普段SFは読みませんという人、SF映画は見るけど…という人、働く女性が活躍している物語が好きな人、特に読んでほしい!

それでは、よい1日を。

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